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スーパーマーケットやレストランで売れ残りや賞味期限切れにより廃棄される食品は、全世界で生産される食品の3分の1に上るという。これは食品の無駄であるだけでなく、それを生産するための土地や水、労力、交通、資源やエネルギーの無駄にもなっており、環境に悪影響を及ぼしている。
近年、世界中で環境問題に対する関心が高まる中、オランダのスーパーマーケットやレストランは最新のテクノロジーやアプリを利用し、食品ロス削減に向けた動きを活発化させている。すでに成果を生み出しているこれらの取り組みを紹介する。
オランダのスーパーマーケット「アルバートハイン」は、最新のテクノロジーを利用し、食品ロス問題に積極的に取り組んでいる(写真:Albert Heijnウェブサイトより)
アルゴリズムで食品の自動値引きシステムを導入
オランダの大手スーパーマーケット「Albert Heijn(アルバートハイン)」では、近年「35%オフ」というステッカーの貼ってある商品をよく見かける。
これは、次の日に賞味期限を迎える食品に朝10時に貼られるもので、その日一日、その商品は35%の割引価格で販売されている。従来は廃棄されていたこれらの商品は、賞味期限ぎりぎりとはいえ、まだ十分に食べられる品質だ。
このステッカーによる値引きを一歩先に進め、同社はこのほど、最新テクノロジーを用いた「自動値引きシステム」を導入した。
このシステムは、アルゴリズムにより食品の賞味期限、在庫、販売履歴のほか、店舗の位置やその日の天気など、様々な要素を管理し、自動的に「最適な値引き価格」をはじき出すというもので、その「最適価格」は商品の棚についた電子値札に自動表示される仕組みになっている。
時間毎の細かい商品管理も可能になり、時間が経つほど割引率が高くなっていく。電子値札にはオリジナル価格も示してあり、消費者は鮮度と価格を天秤にかけながら、賢く買い物をすることができる。
売り手のスーパーはこれまで廃棄していた商品から売上高を得られるし、食品ロスの削減で環境にも好影響――このシステムは「Win-Win-WIn」の状況をもたらすのだ。
「アルバートハイン」で導入された電子値札には、時間毎に値引きされた価格が表示される(写真:Albert Heijnウェブサイト)
アルバートハインは2030年までに食品廃棄量を半減させるという目標を掲げている。
中期的には2020年までに20%を削減する計画。賞味期限ぎりぎりの商品を値引きする以外にも、売れ残りの食品を貧しい人々に提供する「フードバンク」に寄付したり、レストラン「Instock(インストック)」に材料として提供し、料理に再利用するなどして、積極的に食品ロス問題の解決に取り組んでいる。
人が食べるものとしては使えなくなった食品については、飼料用、バイオマス発電、バイオガスなどへの再利用も進めている。
一方、別の大手スーパー「Lidl(リドル)」でも、今年8月29日から食品を賞味期限日まで販売する施策に乗り出した。同社が提供する賞味期限日の食品価格は一律25セント。
野菜、果物、肉のほか、パンや冷蔵食品に適用している。ほとんどタダ同然の価格に、消費者の反応は非常に良好。現在は20店舗で試験的に導入しているが、年末までに全店舗での導入を計画しているという。
食品ロスをアプリで解決
アプリ「Too Good To Go」を使って売れ残りの食品を廉価で購入(写真:Too Good To Goウェブサイトより)
食品ロス問題の解決を目指したスマホのアプリも登場している。デンマークで生まれたアプリ「Too Good To Go」は、レストランやベーカリーなどで作りすぎによって閉店後に廃棄される食品を通常より低価格で購入できるという仕組み。2018年1月にオランダに上陸した。
ユーザーはアプリにリストアップされた近所の飲食店やスーパーマーケットをチェック。そこで提供される商品の価格と内容を見て注文し、クレジットカードや「ペイパル」で決済した後、決まった時間帯にそのレストランやスーパーに商品を受け取りに行くというシステムだ。
何が売れ残るかはその日次第なので、提携レストランや「Jumbo(ユンボ)」「アルバートハイン to go」などのスーパーマーケットでは、「マジックボックス」という食品の福袋のようなものを用意している。
サラダや寿司、サンドイッチなどのほか、スナック野菜や飲料などその日に売れ残ったものが入っており、通常価格で総額15ユーロ程度のものが、5ユーロ前後で提供されているケースが多い。
1~2日以内に食べれば品質上全く問題がない上、量的にも2~3食分になる量で、「お買い得感」はかなり高い。ボックスの中身は「開けてみなければ分からない」という福袋的なお楽しみ感も手伝って、若者の間で人気を博している。2019年8月現在のユーザー数は80万人。国内約2,000カ所のレストランやスーパーと提携しており、すでに100万回分の食事が「救済」されたという。
別のアプリ「NoFoodWasted」では、ユーザーが登録した最寄りのスーパーマーケットやベーカリー、レストランなどの値引き情報を時間毎に提供。
ハムやチーズなど、個別の食品の値下げが表示されるため、消費者はその日の買い物リストとアプリの情報を照らし合わせながら買い物ができるようになっている。
現在はオランダ南部のデンボス、アインホーフェン、ティルブルフなどを中心に200以上の店舗と提携しているが、ゆくゆくはヨーロッパ全体に市場を拡大し、食品ロスの削減にインパクトをもたらしたいという。
今日からできる食品ロス削減
食品ロスの削減に向けた動きは食品を提供する側から積極的に進められているが、本当に無駄を減らしていくためには消費者一人一人が意識的に動かなければならない。アルバートハインやToo Good To Goでは、ウェブサイトやステッカー配布などを通じて、消費者を啓蒙する活動も行っている。
両社のウェブサイトからまとめた「家庭でできる食品ロス削減のためのティップス」をまとめてみた。
1) 食事のプランを立てる前に、家にある食品在庫を見て、何を最初に使い切らなければならないかをチェックする。
2) 料理の計画を立て、余計なものを買わないように買い物リストを作る。
3) 形や色の悪い「規格外」の野菜や果物も買う(見てくれが悪いというだけで、野菜や果物の総生産量の3分の1が廃棄されている)
4) 賞味期限を過ぎても使用できるものは使う。見て、匂って、味見して、品質をチェック。(卵の見分け方は下の動画を参照)。
5) 適切な方法で食品を保存する。ブドウ、リンゴ、オレンジ、レモン、カリフラワー、ブロッコリー、キウイ、ネギなどは冷蔵庫で、ナス、マンゴ、キュウリ、パプリカ、アボガド、バナナ、じゃがいもなどは常温で保存。
6) 冷蔵庫の温度は4度に保つ。下の段に魚・肉、一番上に飲料、ヨーグルト、残り野菜など。ドア部分にはソースなどを入れる。緑の野菜は低湿度で、果物、ハーブ、きのこなどは高湿度で保存する。
7) 野菜や果物は、できるだけ多くの部位を使う。皮や茎には抗酸化物、繊維、ビタミンなどが含まれ、栄養価も高く、スープやソースに利用できる。
8) 残り野菜は1週間のうちに使い切る。また冷凍庫で保存したものは、解凍後24時間以内に使い切る。それでも余る場合は、調理してから再び冷凍保存する。
The #GoodEggChallenge with Too Good To Go
オランダではこれらの食品ロス削減に向けた地道な取り組みがすでに功を奏し始めており、2019年現在の食品廃棄量は一人当たり年間34.3キログラムと、2016年から7キログラム減少した。10年前に比べると、減少率は10%に上るという。
飲料の年間廃棄量も1人当たり45リットルと、2016年の57リットルから12リットル改善した(オランダ農業・自然・食品品質省調べ)。
Too Good To Goによれば、ヨーロッパの家庭で廃棄される食品量は年間4,700万トン。ヨーロッパの全食品廃棄量の過半数を占めているという。
日本でも全体の食品廃棄量は2016年に643万トンに上り、このうち約半数の352万トンが家庭から排出された(農林水産省調べ)。食品ロスの削減は、今日から家庭で取り組めること。同問題の解決は、我々一人一人の意識にかかっている。
文:山本直子
編集:岡徳之(Livit)