「アーティストの創造活動を支援し、世界に向けて発信したい」ーーそう語るのは株式会社MORIYA代表・坂東工氏だ。坂東氏といえば、バチェラー・ジャパンシリーズにて司会進行役として出演していることで話題だ。俳優、アーティスト、MC、著述家と、幅広く活動しており、俳優としては2006年度アカデミー外国語映画賞他受賞したクリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』ではメインキャラクター・谷田大尉役として出演するなどの実績もある。アーティストとしても初の個展に 2000 人以上動員や、映画「真田十勇士」の衣装制作を担当しアジアンフィルムアワード衣装美術賞ノミネートなどの実績がある。

幅広く活躍する坂東氏のもう一つの顔が、起業家としての顔だ。アーティストたちが自身の作品を世界に向けて発表する、ブロックチェーンや3D/AR技術を搭載したオンラインギャラリー iiwii(イーウィー)を2019年6月にリリースした。事業立ち上げのきっかけや事業内容、ビジョンについて話を伺った。

坂東工
俳優、アーティスト、MC、著述家として活躍。
バチェラー・ジャパン シーズン 1〜3 に司会進行役として出演。 マーティンスコセッシ監督「ディパーテッド」(2006 年度アカデミー賞受賞 ) に出演後、クリント・イーストウッド監督「硫黄島からの手紙」(2006年度アカデミー外国語映画 賞他受賞) にてメインキャラクター・谷田大尉役にキャスティングされる。2011 年アーティスト活動を始動。初の個展に 2000 人以上を動員する。 2015 年、レザー作品が衣装美術家・黒澤和子の目に留まり、映画「真田十勇士」の衣装制作を依頼される。同衣装はアジアンフィルムアワード衣装美術賞にノミネートされる。

オンラインギャラリー“iiwii”

坂東氏:「iiwiiは、いわばオンライン上のギャラリーです。現在15-20名程度のアーティストが参加してくれていますが、作品単位でオンライン上に掲載しています。見ることもできるし購入することもできます。しかし、ただオンライン上に掲載するというだけの話ではありません。iiwiiにはこだわっているポイントがいくつかあります。

大きく一つ目は作品の見せ方に関する部分です。アート作品をオンライン上で展示したり販売したりしているサービスは他にもあると思うのですが、まるでECサイトのように画像とテキストが機械的にずらっと並ぶようなサイトが多いです。これでは作品の良さが全く伝わりません。iiwiiで作りたかったのは美術館やギャラリーでゆっくりと歩きながら1つひとつの作品と出会うような体験です。だからこそ、作品を主役にしたUI/UXにこだわっているのです。

また、見せ方という点ではキュレーションにもこだわっています。誰でも参加できるという状況ですと作品の質を担保できません。そして作品数が膨大になれば検索機能などが必要になってきてしまいますので、ここでも“作品と出会う”体験を生むために、絞っているというのもあります。そのため、私自身がキュレーターとして作品を選定しています。

二つ目はデジタルテクノロジーの活用です。iiwiiではブロックチェーン技術や3D/AR技術を活用しており、それぞれ目的もしっかりとあります。ブロックチェーン技術を用いることで、どのような取引が発生して作品が誰から誰の手に渡っていくかというトランザクションを管理することができます。そうすると、セカンダリー、サードとトランザクションが行われた場合に、手数料やその一部をアーティストに還元することができます。また、3D/AR技術では作品が実際に部屋にあったらどうなるかというイメージをしやすくすることができます」

アート業界の課題から生まれたiiwii

iiwiiならではの特徴を語る坂東氏。これらのこだわりを持ったiiwiiは、アート業界の課題に応えるよう設計されたという。アート業界にはどのような課題があったのだろうか。

坂東氏:「アート業界には課題がたくさんありました。そもそもアーティストと話していると、悩みとしては自分の作品をどこかに常設で展示していたいという声が多くありました。しかしギャラリーを借りて個展をするのは短期間だとしてもすごく負担が大きいんです。例えば、アーティストがデパートのギャラリーを借りて展示をする場合、コミッションが6割程度であったり、他にも数十万の会場費とは別に売上の5割をコミッションとして支払う場合などがあります。個人で活動するアーティストにとっては、作品を広める段階での負担が非常に大きいと感じています。

だったらインターネットでいいじゃないかと思ったんです。オンラインギャラリーでも見せ方を工夫すれば、実際のギャラリーまではいかないまでも、作品の魅力を一定程度伝えることは出来ると思いました。そして、昔の時代はアーティストが自分の作品を世界中の人に見せることは難しかったと思いますが、今の時代はそうではありません。オンラインギャラリーを使えば世界中の人に見てもらうことができるのです。アーティスト自身もプロモーションの可能性を探っていくべき時代だと思いますし、iiwiiがいろんな人を繋ぐ場になってくれたら嬉しいと思います」

坂東氏:「他にもトランザクションが追えなかったことも課題でした。取引されるごとに価格が上がっていったり、あとからプレミアな価格がついたり、すごい額になることもあります。しかしアーティストが手にするのは最初に販売した時の金額のみなのです。これではアーティストが育ちません。その後の取引に応じてアーティストへ還元される仕組みができれば、アーティストの成長をサポートすることができます。さらに、自分の作品がどこにあって誰が持っているか、ということを把握できるのも良いことだと思います。

アートはまだまだ領域が狭いので、ライフスタイルに溶け込んでいくことで可能性が広がるとも思っています。コミュニティ型の飲食店や、アートのホテルなど、どうライフスタイルに融合していくかというところもチャレンジしていきます」

アートとの出会い

iiwiiについてアート業界の課題解決の一手になると語る坂東氏だが、アートの世界へと足を踏み入れたきっかけはどのようなものだったのだろうか。

坂東氏:「9年前に、中目黒の全然知らないギャラリーに入ったら、座っていた女性に話しかけられまして、僕のレザーの小物をみて「それなあに?欲しいわ」と。その方はそのギャラリーのオーナーだったんです。話を聞くと京都造形芸術大学の教授で、名刺交換をしたところ、当時僕の名刺にバックミンスター・フラーの散文を入れていたのですが、「もしかしてバックミンスター・フラーじゃない?」と言われました。よく見るとギャラリーの名前がジオデシックという名前で、はっとしました。ジオデシック・ドームはバックミンスター・フラーの有名な建築物だったんです。

これはすごい偶然だなと縁を感じ、作品を作って持っていきました。すると、西武渋谷に出展するので参加してほしいと言われ急遽参加させていただき、さらに、個展を依頼され、初めて個展も開催しました。このような出会いからトントン拍子でアートの世界に入っていきました。それ以来人脈も広がり、アート業界の課題や悩みに気づき、iiwiiの構想が始まりました」

偶然の出会いからアートの世界に踏み込んでいった坂東氏だが、俳優活動との繋がりはあったのだろうか。俳優になったきっかけと共にエピソードを語った。

坂東氏:「俳優になったきっかけは、僕が旅をしている最中に日本にいた当時の彼女が亡くなったときの出来事でした。旅行中は全然知らず、しばらくして帰ってきた際に知り、強いショックを受けました。何をしていたんだと。そのとき泊まっていたモーテルに貼ってあった演劇学校生徒募集というポスターを見て演技を始めました。これが俳優業の道に進むことになったきっかけですが、元々興味があったわけでは全くなくて、辛いことを忘れるために没頭していきました。

また、亡くなった彼女はダンサーだったのですが、命を燃やすように踊っており、将来を期待されていたような人でした。彼女のダンスとの出会いが“表現”というものに触れた最初の瞬間だったと思います。今考えると、これまで触れてきた演劇、ダンス、俳優などの活動は自分の身体で表現することだったので、それは実はアートだったなと思ったんです。ずっと表現の世界にいたんだなと」

アートを難しく考えず、感覚で触れてほしい

表現の世界に身をおいてきた坂東氏だが、一般生活者の中には、アートというと難しそうで抵抗があるという人も少なくないかもしれない。アートへの触れ方について想いを語った。

坂東氏:「アートを見た瞬間に、自分にはわからないという人もいるかもしれません。自分の学習してきたことの外にある情報については拒絶反応が起きてしまうことがあるからです。しかし、複雑に考えることはありません。まずは体験して、これが好き、これは好きじゃないといったように感覚で捉えてみると良いんです。そうすると自分の好みが見えてくるはずです。

例えばこの間若い学生と話す機会があった際に、その学生さんがキース・ヘリングのデザインがプリントされたTシャツを着ていたんです。「それキース・ヘリングじゃん」と声をかけたところ「え?これアーティストなんですか。可愛いから買ったんです」と返ってきました。これって、アーティストの勝ちなんですよね。知らなくていいんです、可愛いから買うでいいんです。大事なのは自分の感覚で、誰かが良いと言っていたからではなく、“自分が”これを良いと思っているという状態がアートの世界に入るきっかけになります。

iiwiiではスター性のあるアーティストを厳選して関わってもらっています。だからこそ、出会いの場を提供することで感覚的に“良い”と思ってほしいんです。

さらにアートの良いところは、自分の想像を超えてくるものと出会えることなんです。例えば小物を探していて、欲しいイメージを持っていた場合は、それを探して買えばいいんです。でもアートは自分でイメージできない予想を超えた物があるんです。期待を超える感覚、自分の想像を超える感覚というのがアートの魅力です」

アートの魅力を語った坂東氏。俳優、アーティスト、MC、著述家と、幅広く活動する坂東氏は、最後に経営者としてのマインドを語った。

坂東氏:「どの企業も細かく経営計画を立てて何かに縛られながらかっちりと進めていると思うんです。でも、僕たちはアートを主体とする企業なので、事業展開なども感性を大事にして行っていきたいと思います。一社くらい、感性を大事にした会社があってもいいじゃないですか」

取材・文・写真 木村和貴