競争激化、ハブ化が進展する世界主要空港の現状

地球の裏側に暮らしている人ともタイムリーにコミュニケーションがとれ、人と物が大量にそして素早く移動する現代。世界の距離はますます縮まりつつあると実感する。世界の距離を縮めている立役者はインターネットの普及、そして航空路線の充実にあると言えるだろう。

空港乗り継ぎランキング


乗り継ぎ空港の王者の座は再びヒースロー空港に © Copyright 2019 AirlineRatings.com

このほどイギリスの航空コンサルタント会社OAGが「空港乗り継ぎランキング」を発表。第1位の座を維持したのはロンドン・ヒースロー空港だった。空港で必要とされている最小乗り継ぎ時間から最大6時間までの枠で、国際線を含む定期便への乗り継ぎが1日に最大65,000通り可能だとしている。

目的地としての空港そのものの規模と併せて、離発着数と運行予定時刻表が大きくかかわるこのランキング。次いで2位にフランクフルト、3位はシカゴ・オヘア、4位アムステルダム・スキポール、5位ミュンヘン、6位トロント、7位パリ・シャルル・ド・ゴール、8位アトランタ、9位シンガポール・チャンギ、10位香港という結果になった。

トップ10のうち半数がヨーロッパの空港で、アジアではシンガポールと香港のほか、11位に韓国インチョン、12位にクアラルンプールがランクインした。なおクアラルンプール空港はLLC(格安航空会社)の乗り継ぎでは世界第1位だ。

気になる羽田空港は22位、成田空港が39位と他空港の後塵を拝する結果となった。羽田空港は24時間運用空港であるものの、運航先が他空港と比較して極端に少ないことが要因。成田空港も同じ理由に加えて、空港の短い運用時間がネックとなった結果だ。

ヨーロッパ勢がトップ10順位の半数を席巻した一方で、トップ50位以内に15空港がランクインしながらもトップ10には2空港のみだったのがアメリカ勢。

これはこの調査のベースが「国際線乗り継ぎ」であることが要因と考えられるだろう。ヨーロッパでは地域全体の定期便のうち15%がこの5空港を利用、便の効率的な集中、集約が伺える。

メガ空港、ハブ空港そしてエアロポリス


世界のエアロポリス、エアポートシティ Source: adapted from aerotropolis.com.

アメリカ国内にはメガ空港が多数ある。メガ空港とは巨大なターミナルをはじめ、航空機の格納庫、駐車場、滑走路、追加滑走路を建設できるスペースの余裕、そして付帯関連施設――ホテルやオフィス、集配センターを備えた空港を指し、時にはエアロポリスと称されることもある。

この巨大な施設が意味するのは大量の人とモノがその空港を行き交うということ。空港公団や会社、政府がより巨大化、メガ化、エアロポリスと呼ばれるほどの一大都市化を進めるのは主により多くの収入を得るためだ。

空港ターミナルと滑走路、この施設だけでは航空機の発着料金と施設使用料、旅客や職員による多少の個人消費程度しか収入が見込めない。もちろん、空港に「消費活動」が可能な施設、みやげ店なり飲食店なりが存在していることが前提の話だ。これらが存在していなければその収入すら見込めない。

アメリカで最初のメガ空港と言われているのが1974年開港のダラス・フォートワース空港。この空港は実に60%のフライトが乗り継ぎ便であり、ハブ空港としての安定した地位を45年間固持している好例だ。

巨大空港開港ラッシュの背景

2018年10月にトルコのイスタンブール空港が開港した。140万㎡の面積を誇るターミナルは、これまで運用してきたアタテュルク空港の旅客扱い数が限界に達してきたために建設されたもの。

完成した新空港では年間9,000万人の利用が可能で、将来的には年間2億人の取り扱いが出来る拡張の可能性も備えているとのこと。既存のアタテュルク空港はまもなく閉鎖される予定だ。


イスタンブール空港 ©Russell Publishing Limited

ちなみに成田空港における2018年の旅客利用数は4,200万人、その規模の大きさがうかがい知れる。

そしてこのほど9月中国の北京に開港した空港は、現在の北京首都空港が処理能力を越えつつあることと、首都機能を空港周辺の大興地区へと移動させる計画の一環から始まった。

ターミナルは実に103万㎡の広さで、建築デザインは有名建築家の故・ザハ・ハディッド女史によるもの。南北に1.7㎞、東西に1.5㎞の大きさは上空から見ると翼を広げた鳳凰をかたどっているという説と星の形をしているという説の両方がある。


首都空港と併せて2ハブ体制となる北京。開港したばかりの北京大興国際空港は天安門広場から約56㎞

空港計画発表当初、元からある北京首都国際空港を利用するのはスターアライアンスでスカイチームは新空港利用との発表もあったが、10月現在新しい北京大興空港を利用する航空会社は不確定、建国70周年に合わせて急ピッチで完成させたためオペレーションはこれから調整する予定のようだ。

なお現在主に国際線ターミナルとして機能している北京首都空港の第3ターミナルはわずか11年前の2008年に北京五輪開催に合わせて増設された、当時世界で第2番目に大きなターミナルだった。

ターミナルそのものは98万㎡、既存のターミナルと併せて旅客取り扱い能力はそれまでの年間3,500万人から一気に8,000万人へと強化された。しかしながら開港から2年後の2010にはすでに旅客利用数が約7,400万人に達し、パンク寸前であったことは新しい空港建設への切実な理由であった。

実際に利用してみると北京首都空港の第3ターミナルは実に巨大だ。出国の際チェックインのエリアから搭乗口までは約3分程度のシャトル列車に乗らなければならない。

入国時も同様で、しかもシャトルの駅から実際の搭乗口まで相当な距離を歩く必要があり面倒な印象を与える。搭乗口付近にまで商店や飲食店が並ぶ香港やドバイの空港とは対照的に、旅行客を楽しませるショップ類が一切ないこともこの印象に大いに影響している。

特に早朝や深夜近くの利用となると、商店はほぼ全店閉店。営業しているのはファストフードとコーヒーカウンターのみで、閑散としている。その代わりに旅客用待ち合い座席はふんだんにあるが、空港の暗い印象がぬぐえない。

空港経営のジレンマ

北京首都空港はこうした空間をあくまでも空きスペースとして放置することによって、収入も見込まないものの経費もかからないことでよしとしている。

旅客の動向を見ていても、これから出国して海外旅行に出かける中国人は免税品以外に興味がない様子だ。それも出国前に購入した免税品を持ち運ばずに、帰国の際に空港で受け取る人が大半。

北京空港に到着した際の「事前購入免税品、受取カウンター」の行列は驚くほど長い。つまりは北京首都空港の利用客は国内の中国人数が圧倒的に多く、旅行前の空港における消費活動を期待していないのだ。

一方で、免税店が世界一の売り上げを誇るドバイ空港では2018年に免税店の年間売上額が20億ドル(約2,100億円)を突破したと発表。商店や飲食店が搭乗口付近にまでびっしり連なり24時間無休で稼働する、空港ターミナルの成功例と言える。なお2018年度のシンガポール・チャンギ空港における免税店の売り上げを含む全収入は約18億ドルであった。

北京の空港とドバイ空港の違いは旅客層にある。北京では主に国内の旅客を海外へ送り出し、迎え入れる機能に集中している一方で、ドバイ空港は観光客の受け入れと外国人労働者の往復、ヨーロッパとアジア、アフリカの経由地としての乗り継ぎ客がほとんどだからだ。

このように空港の拡張、メガ化、ハブ化には様々な考察が必要とされる。しばしば陥りがちな失策として、過大予測による過剰投資と、資金回収不能による利益率の低下、そして航空会社都合による拠点(ハブ空港)の変更などが挙げられる。

イスタンブールと北京に共通していることは、その国と周辺国の経済が急激に発展していること、明らかな旅客の増加と今後の伸びを見込んでの投資だ。

ハブ空港のメリットと世界のトレンド


24時間明るく賑やかなドバイ空港のターミナル 画像:Arabian business

このようにリスクを伴うハブ空港の開発であるが、その分メリットも大きい。

新しくハブ空港を開港することによって国や地方自治体は、1. 技術的アピール、2. 政治的アピール、3. 経済的アピール、4. 建築的アピールの大きく4つのアピールが出来ると専門家は分析する。

政治的、経済的に豊かであるアピールのほか、最先端の技術を用いたハイテク空港を開港し、美的感覚に優れた建築物となれば空港そのものがランドマークとなり、搭乗客だけでなく空港を訪れるだけの客の増加も見込めるというものだ。

確かに設備を整えた後の羽田空港のターミナルには、展望台やレストラン利用を目的とした旅客以外の一般利用客も多く見かける。

今年4月に拡張したばかりのシンガポールのチャンギ空港も同様。ショッピングモールや映画館といったエンターテインメント施設や莫大な室内庭園をしつらえて空港の一般利用客が増えている。

新たに建設するとなると広大な土地が必要となり、都市の中心部から遠くに建設をせざるを得ない新空港。その点において完全に海上の人工島に完成した関西国際空港の存在は世界中から賞賛されているが、海に囲まれている日本だからこそ実現可能だった計画ともいえる。

また、建築にかかるコストが高く、巨額の投資が必要なのにもかかわらず、利益還元率が極めて不透明という永遠の課題も大きくのしかかる。

その点で新興国でもあり経済成長著しい中国や中東各地、アジアの各地は欧米と比較して有利な状況にある。

また実際に利用客の視点からすると、既存の空港をただ拡張するだけのターミナルの広さは徒歩での移動を強要され、乗り継ぎに時間がかかるばかりだと指摘する向きも。欧州の空港はハブとしての乗り継ぎ本数を誇っているが、実際に利用しやすい(乗り継ぎしやすい)のはアジアや中東の空港だという声も多い。

LLCの台頭や新型航空機の開発、空路利用客の増加が進む状況で、今後もメガ空港、ハブ空港の建設ブームはしばらく続くであろう。欧米が上位を占める各種空港ランキングに変化が現れるのも時間の問題かもしれない。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

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