Netflixは世界190ヵ国以上で1億5,000万人とも言われる会員を要する世界最大手のネット動画配信サービスだ。映画をはじめオリジナルのテレビ番組やドキュメンタリーなどを多くの有力メディアからコンテンツを提供され、この分野のリーディング・カンパニーとして成長してきた。
Netflixに何が起きたのか?
2019年夏、Netflixは株価急落で世界的に市場をざわつかせた。7月に発表された2019年4〜6月期決算の売上高は49億2,311万ドル。前年同期比26%増にもかかわらず株価はその後20%近くも下落し、時価総額260億ドルを失ったとされる。
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競合企業の増加に加え、コンテンツを提供してきた企業がNetflixとの契約を打ち切って独自サービスへとシフト・チェンジしたこともあるだろう。中でも世界で最も人気のあるディズニーは2019年11月から「ディズニー・プラス」として、米国エリアを皮切りに世界で順次配信することが決まっている。しかもNetflixより低価格で。
参考までに日本国内について、映画・映像マーケット調査会社GEM Partnersの調べによると2018年の市場規模は約1,680億円。1位はdTV(13.7%)、2位がHulu(11.6%)、3位にU-MEXT(11.1%)、そしてNetflixは8位(8.9%)と発表されている。
ASEAN諸国でNetflixが人材を育成する
WEF
ネガティヴ・ニュースを払拭するように8月、Netflixは世界経済フォーラム(WEF)のDigital ASEAN Working Groupと提携し、東南アジア諸国およびその人々に対する第4次産業革命(4.0IR)に向けた創造的かつデジタル・スキル能力の開発を支援するプロジェクトに署名したことを発表した。
WEF
これはWEFのASEAN Digital Skills Vision 2020の一部であり、2020年までに2,000万人のデジタル・スキルを持つ人材を育成するというASEAN加盟政府とNetflixの官民連携プロジェクトだ。
Netflixは6ヵ月でシンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンの6ヵ国でワークショップとトレーニングを開催する。研修生は映画・ドラマの脚本をはじめ撮影技術、ポストプロダクションなど、インターネット・エンターテイメント業界向けコンテンツを制作するために必要なスキルを身に付けることができるという。
WEFの執行委員会のメンバーでありアジア太平洋地区の責任者であるJustin Wood氏は「この官民連携パートシップはASEAN地域とその政府が必要なスキルを備え、技術改革において世界に遅れをとらないために重要な役割を果たす」と期待を高める。
NetflixとASEAN労働力のマッチングは?
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このプロジェクトには東南アジアの若者の意識も大きく反映していると言えるだろう。WEFが8月に発表したASEANの若者調査(15〜35歳56,000人)によると、回答者の約9%が自分のスキルがすでに時代遅れであると答え、52%がスキルを絶えず更新する必要があると考えている。
またクリエイティビティやイノベーション、EQ(心の知能指数)などのソフトスキルには自信があると回答。ところが、IT分野で必要とされるSTEM(科学・技術・工学・数学)スキルが軽視される傾向にあるとされている。彼らが重視しているのは給与以上にスキルの習得だ。
Justin Wood氏は「テクノロジーが仕事の未来をどのように変えるか予想は不可能です。唯一確かなのは、雇用市場で多くのスキル寿命が短くなったことで混乱が生じていること。ASEANの若者がこれらの課題を認識し、継続的な学習へのコミットメントを示しているのは心強い」と語る。
ASEANの労働力を支えてきたローカルの中小企業ができなかったワークショップとトレーニングをNetflixが担う−−これはとても合理的なことだ。複数の言語を使いこなすというASEANの若者と約6億5千万人というポテンシャルの高い魅力的な市場、Netflixはどのようなストーリーを描くか?その結末は成功となるか?今後の展開を視聴して行きたい。
文:羽田理恵子
編集:岡徳之(Livit)