「エンド・オブ・ライフ(EOL)・ドゥーラ」――聞きなれない言葉だが、超高齢社会から多死社会に移り行く中、人生の最後をしめくくるにあたり、重要な役割を果たす存在だ。
EOLドゥーラは、「デス・ドゥーラ」とも呼ばれ、「死/終末期を迎えた人のサポートを行う人」のことだ。終末期患者と家族に対し、医療以外の、総合的なケアを提供し、困難が多い時期を少しでも快適に過ごせるよう手を貸す。これには、両者への教育や指導、感情的・精神的かつ実践的なケアが含まれる。
ドゥーラを、ボランティアとして行う人と、給与をもらい、仕事として行う人がいる。米国をはじめ、オセアニア、英国、カナダなどでは、EOLドゥーラを利用する人、特別な訓練を受け、EOLドゥーラになる人の双方が増加中だ。
感情面でのサポートにまで手が回らない医療スタッフ
超高齢社会とは、総人口に占める65歳以上人口の割合が21%を超えた社会のことだ。2018年の日本の割合は約28%。日本が世界一とはいえ、イタリア、ドイツ、フランス、スウェーデンなど、ほかの国も追随する。2050年までには世界人口の16%が65歳以上になると、国連は予想。高齢化の波はどの国にも押し寄せている。
多くの人が平均寿命に達し、病老死する多死社会に突入するまでもなく、すでに寿命などで亡くなる人は増えており、そうした人に対する終末医療は進歩してきた。ホスピスや病院、在宅で緩和ケアを受けられるようになり、末期がんなどで用いられる鎮痛剤の種類も豊富になった。
しかし、看護師などで構成される緩和ケア・チームは、医療面で患者の面倒を見るので精いっぱいなのが実情だ。病状が悪くない限り、1人に多くの時間は割けない。死に直面する人の感情や、周囲の人の気持ちをくむ余裕がない。最期を迎える時だからこそ、その人の「心」を支えることが大切なのに、である。
EOLドゥーラの誕生
EOLドゥーラのコンセプトは、米国のニューヨークにあるホスピスでソーシャルワーカーとして勤務していたヘンリー・ファースコ・ワイスさんによるものだ。ファースコ・ワイスさんは、最期をまさに迎えようとしている患者と、ストレスで疲弊し、悲しみに暮れる家族に対し、医療スタッフができることの限界を目の当たりし、失望していた。
世界各地には産婦に常に付き添い、出産を医療面ではなく、感情面で支える「バース・ドゥーラ」がいる。それを知っていたファースコ・ワイスさんは、死にゆく人に対して、バース・ドゥーラのようなサポートができないかと考えた。そして2003年に、EOLドゥーラのトレーニングを行う非営利組織、インターナショナル・エンド・オブ・ライフ・ドゥーラ・アソシエーション(INELDA)を立ち上げた。
© Bart Harris
最期まで人生の選択を行い、形にするのを手助け
エンド・オブ・ライフ・ドゥーラは正直さと思いやりをもって、終末期から死後まで継続的に、本人はもちろん家族に対して支援を行う。
多くの人が抱く死への恐れ。それを解消するために、ドゥーラは死に直面する人にいろいろなことを尋ね、話し合う。死のどのような点が不安なのかをはじめ、どんな人生を送ってきたか、どんな意味があったと感じているかなどだ。また何かやり残していることはないかを確認し、もしあるようであれば、やり終われるよう手を貸す。
最期まで自分で人生のかじ取りができるよう助ける。日々どのように過ごしたいかや、どこで最期を迎えたいか、誰に看取ってほしいか、お葬式のスタイルや埋葬方法を、ドゥーラは毎日一緒に過ごし、話をし、アイデアを共に形にする。自分で自分のことを決められれば、納得がいき、満足感を得られる。不安感も減る。体が弱っていても、決断を下せることは存外に多い。それに気づかせ、勇気づける。
死を迎える人は、例え家族や友人に囲まれていても、孤独感にさいなまれるという。ドゥーラには本人と周囲との仲立ちの役割もある。後に残される者の悲しみをおもんばかり、子どもや家族にお葬式や埋葬について生前話すのを控えるケースはよく聞かれる。
しかし、ドゥーラには腹を割って話せることが多いのだそうだ。本人の希望を聞いたドゥーラはそれを家族に伝える。コミュニケーションの輪を保つのに貢献している。
ドゥーラは日常的にスキンシップも行う。終末期の人の気持ちを安らかにするためだ。手を握ったり、ハグをしたりする。マッサージやめい想などを行うこともある。
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レガシーや儀式――最期までクリエイティブに
レガシー(遺産)づくりはEOLドゥーラが終末期を迎えた人に勧める重要なことだ。自分の人となりを語るものを、ドゥーラの手を借りながら制作する。ビデオやアート作品など本人が創りたいと思うものでいい。出来上がったら、それを見て自分の人生を振り返り、感情の整理をする。そして、家族や友人に残す。誰にとっても大切なことだ。
「儀式」を考え出すのを手伝い、落ち着いた気持ちで死と対峙するための準備を整える。これは、子どもが寝る時の就眠儀式のようなもの。お祈りでも、音楽でも、本人次第だ。本人のスピリチュアル面を尊重して模索し、一緒に決める。
また、死をイメージすることも促す。死への旅路はどんなものになりそうか、心に思い描いてみるよう勧める。怖がらずに死を迎えられるようにする。
周囲で見守る家族にも、EOLドゥーラは気を配る。看病疲れにならないように、代役を引き受け、息抜きをする時間を与える。最期まで本人と共に充実した時を過ごせるよう、どのような兆候や症状が現れたら、死が近いのかを教える。
亡くなった後もサポートは続く。亡くなるまでの時期、苦しかったことを皆で認め、それをポジティブに受け止められるよう導く。死に向かいながらも、幸せだった瞬間、楽しかった出来事を思い出してもらう。死別がもたらす悲しみを受け止め、そこから立ち直っていく道筋を説明し、家族を感情面・スピリチュアル面で支える。
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社会的に認められ、必要とされるようになったEOLドゥーラ
米国では、INELDAの設立以来、EOLドゥーラの認知度は上がり、需要も増えている。人材養成のために、INELDAのほかにも、ライフスパン・ドゥーラズなど、トレーニング組織ができてきた。中には、ドゥーラギヴァーズ・インスティチュートのようにオンライン講座を提供しているところもある。EOLドゥーラ養成コースを大学で初めて設けたのは、バーモント大学薬学部だ。2017年に始まったこのコースもオンライン上で行われている。
現在どの国でもEOLドゥーラの資格は、国全体をまとめるエンド・オブ・ドゥーラの組織や、個々のトレーニング組織の倫理規定に則ったもので、国家資格になっていない。オーストラリアでは、国の職業教育訓練を管理するオーストラリア技能質保証機関下の資格として認められるよう、国内のグループなどが政府に働きかけている。
2018年米国では、全米ホスピス緩和ケア協会下に、エンド・オブ・ライフ・ドゥーラ協議会が発足した。国を問わず、ホスピスでもEOLドゥーラを導入している。これは、ドゥーラが社会的に認められるだけでなく、高い評価を受け、必要とされる存在になってきていることの証明でもある。
EOLドゥーラと共に過ごす終末期の人の中には、ドゥーラを「天使」と親しみを込めて呼び、頼りにする人もいるという。家族も同様だ。ある遺族はINELDAにこんなコメントを寄せている。
「EOLドゥーラの導きで母は安らかに逝き、私たちは不安感を最低限に抑え、終末期から埋葬までの全過程を充実して過ごすことができた。今思い返せば、ドゥーラは、母の死を深い意味を持つ経験に替えてくれた『天使』だった。この経験を胸に抱いて、悲しみを乗り越え、生きていこうと思う」。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)