副業・複業を解禁する企業が近年、増えつつある。
「サイボウズ」「ソフトバンク」「LINE」「丸紅」「佐川急便」「サントリー」「日産自動車」「カゴメ」と言った様々な企業が副業を解禁している。
厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、“許可なく他の会社等の業務に従事しないこと”を“原則的に副業を認めるべきだ”と改めたことから日本は副業・複業時代を迎えたと言っても過言ではないだろう。
その中でも、サイボウズ株式会社が運営している「サイボウズ式」ではそういった次世代に向けて新しい価値を生み出すチームの情報を発信している。
また同社でも副業の解禁はされているため、サイボウズ社員の副業・複業に関する記事なども紹介されている。
サイボウズ式 ウェブサイト
そこで今回は、サイボウズ式 編集部で編集長を務める藤村能光氏にこれからの副業・複業時代に備えるための体制作りについて伺った。
副業・複業が社員の自立をもたらす
── 貴社では副業・複業を積極的に推奨されていますよね。
藤村:基本的に、会社の資産を使わないもの、または雇用される形でなければ、申請の必要はありません。例えばフリーランスでピアノの先生や、テニスのコーチの仕事をする場合は報告義務はありません。
しかし、僕がサイボウズ式編集長として、サイボウズ式のメディア運営関連の講演をする場合、「肩書き」や「本業の内容」という会社の資産を使うことになるので事前に申請する必要があります。しかし趣味のサウナについて講演をする場合は、申請する必要はありません。
── 事前に申請の時点でNOと却下される事はありますか?
藤村:難しい質問ですね(笑)。僕はまだNOと言われたケースを見たことはありませんが、可能性はあります。コンプライアンスに抵触する可能性が高い場合は却下されるでしょうね。
── 藤村様自身は副業、もしくは複業をされていますか?
藤村:取り組んでいます。「会社を超えて自分の価値があるのかな」って逡巡した時期がありまして、2018年から複業をスタートしました。代表的なものでは「イケウチな人たち。」というメディアにアドバイザーとして携わっています。
イケウチな人たち。 ウェブサイト
こちらはオーガニックコットン100%の今治タオルを製造・販売するIKEUCHI ORGANIC 株式会社が展開しています。メディアの方針を一緒に考えたり、公開する記事をよりよくするためのアイデア出しをしています。
── サイボウズ式 編集部で培われた経験・知識を活用された複業なのですね。本業とは異なるメディアに携わられた事で得たものはありますか?
藤村:まずは自身の市場価値が分かりました。僕がこれまで培ってきたキャリア、スキルに良い意味で値段がついたことで「自分の市場価値はこういうところにあるんだ」と改めて実感できました。
これは僕以外の皆にも言えることなのですが、会社側が副業・複業を許容してくれることで将来に向けて、様々な選択肢を確保することができますよね。
ハッキリ言ってしまえば今後は終身雇用、定期昇給が保証されることはまず難しいでしょうから、自立する準備を進めることができます。サイボウズで働く従業員は自立することを求められます。
── 会社側は一方でどのようなメリットを得られると考えますか?
藤村:僕の場合では複業したことで得ることができた経験・知識をサイボウズ式編集部にもフィードバックできています。
── それだけ様々な所からニーズがあるのならば藤村様自身で会社を立ち上げることは考えないのですか?
藤村:今は、特に起業は考えていませんね。僕はサイボウズでの仕事が大好きですし、何より掲げている「チームワークあふれる社会を創る」に強く共感しています。
サイボウズで仕事ができるということが自分にとっては報酬だとも言えるのかもしれません。
── 副業・複業という選択肢を提示されながらも、会社を愛すると言うことはつよい定着率を生み出す要因になりそうですね。
サイボウズ式が見据える、副業・複業が解禁される時代にチームに“求められるもの”
── これからの企業が貴社のように副業・複業を容認する体制を作るために必要なことを教えて下さい。
藤村:体制を整えるに当たって必要なのは「風土」「制度」「ITツール」の3つを揃えることですね。
まずは公明正大に、オープンに情報を共有するという風土が組織に備わっていることが重要です。
そういった土台があるからこそ、複業をOKとしても良いといった制度が生きます。複業の様子も積極的にツールを使って、社内にオープンに共有することで、風土や制度がより良いものに変わっていくと思います。
この3つの要素がうまく循環し出すと、体制もできてくるのではないかと思います。
── 風土作りで最も効果的な方法は?
藤村:とにかく情報をオープンに共有することです。それこそ弊社では副業は報告する義務はありませんが、社内のグループウェアで「こんな副業(複業)をしています」と共有する人もいます。それこそ経営会議の議事録も即日、共有されます。勿論、部署間の情報もオープンに共有されています。
── 皆の情報がオープンなら「この人は何やってるんだろ…」って疑心が生まれないですよね。制度に関してはいかがでしょうか?
藤村:会社に貢献する内容、割合から判断して適切な雇用形態を結んでいます。それこそサイボウズ以外での仕事を本業、サイボウズでの仕事を複業としている人もいらっしゃいますね。新潟で本業のNPOの経営の仕事をしながら、複業としてサイボウズで働いている人もいるんですよ。
── ITツールについて教えて下さい。ビジネスチャットを活用されるイメージですか?
藤村:弊社ではフレックスタイム制、リモートワークも許容しているのでITツールを積極的に活用していますね。
弊社では「キントーン」というツールを活用することで遠隔地、そして生活時間が異なるメンバーとのコミュニケーションを成立させています。
実際、僕も平日のうち1日は、タスクに集中的に取り組む時間を確保したいので、平日の水曜日だけ在宅勤務にしています。普段は朝の8時から夕方の5時半まで勤務しています。
── 朝が弱い人にも優しい制度ですね(笑)。
藤村:実際、始業時間を遅くする代わりに終了時間を遅くされている方もいますよ(笑)。
先ほどお話しした新潟県でNPOを経営しているメンバーは、サイボウズではリモートワークで週2日働き、月1回東京のオフィスに出勤するというスタイルで働いています。皆が同じ場所に一同に集まるという事が少ないのでオンラインで手軽にコミュニケーションを取れることが重要です。
── 藤村様が執筆された“「未来のチーム」の作り方”では様々なオンラインコミュニケーションの実例を出されていましたよね。
藤村:仕事のことはもちろんですが、仕事外のこともつぶやけるようにしていました。例えば僕の場合は「昨日はサウナに行きました」とか、業務に関係ないことも積極的に呟くようにしています。
── 書籍内でも「記事内の関西弁の使い方があっているか?」などのフランクな実例がでていましたよね。ある意味では昭和の時代のタバコ部屋でのコミュニケーションのようですよね。
藤村:弊社ではキントーンを使って対面のコミュニケーションを再現しているとも言えます(笑)。こういう何気ない呟きからメンバーの体調の変化がわかったり、何を悩んでいるのかが伝わってきます。
── 他にも“「未来のチーム」の作り方”では遠隔地のメンバーが円滑にビデオ会議に参加する方法が紹介されていたり、風通しの良いチームの作り方が紹介されていて非常に興味深かったです。
藤村:他にもサイボウズ式編集部内のユニークなエピソードも紹介していますのでご興味のある方は是非、お手に取ってみてください(笑)。弊社の「風土」「制度」「ITツール」がよく伝わるかと思いますし、副業・複業を容認する体制作りの参考になると嬉しいです。
段階的な導入を。サイボウズから学ぶ「新時代への対応」
── これからの新卒社会人は最初から副業・複業を許容された体制に適応できると思いますか?
藤村:難しい質問ですね…。従業員側も企業側も最初から「フルリモートで副業・複業もOKです」っていうのは難しいと思います。実際、弊社でも10年以上費やしながら働き方改革を行い土壌を整えてきました。
── 本業との分量の調整、体調の管理、確定申告を含めた税務知識などある程度の社会人としての経験と知識が無いと厳しそうですね。
藤村:いきなり選択肢が増えてしまうとセルフマネジメントが難しいですからね。副業・複業をやりすぎて体調を崩してしまって本業に支障がでてしまっては意味はないです。段階を踏みながら導入していくほうがベターだと思います。
例えば、まずは1週間のうちの土日の数時間だけを複業に充ててみる。それである程度できるという実感が湧けば、時間数を増やしてみるといったように、自分のキャパシティ(許容量)と常に相談をしながら、段階を踏んで導入してみるとよろしいでしょう。
── ある意味では小さな失敗を繰り返すことで、それぞれに合った体制を作り上げていくのがよろしいということですね。
藤村:それこそ僕も段階を踏みながら複業をはじめました。開始当初はクライアントを1社に制限して、他社からの依頼は断っていました。いくら依頼をたくさん、いだただくことができても本業や体調に影響が出ては意味がありません。僕の本業はあくまでサイボウズ式の編集長です。
── そこから段階的に入れつつ細かい失敗繰り返しながらスタイルを作り上げるのが望ましいということですね。
- 藤村 能光
- サイボウズ式 編集長
1982年生まれ、大阪府出身。神戸大学を卒業後、ウェブメディアの編集記者などを務め、サイボウズ株式会社に入社。製品マーケティング担当とともにオウンドメディア「サイボウズ式」の立ち上げにかかわり、2015年から編集長を務める。メディア運営や編集部のチームビルディングに関する講演や勉強会への登壇も多数。複業としてタオルブランド「IKEUCHI ORGANIC」のオウンドメディア運営支援にも携わる。著書に『「未来のチーム」の作り方』がある。
取材・文:小林英隆