10月1日の消費税引き上げと共に、「キャッシュレス・消費者還元事業」がスタート。2020年6月30日までの間、対象店舗で対象となるキャッシュレス決済をすると、最大で5%のポイント還元が得られるとあって、対象店舗がすぐわかるアプリが登場するなど、盛り上がっている。
このような政策により、ますますキャッシュレス化が進むことが予想される。キャッシュレス化によって現金の流通が少なくなると、利用回数が減っていくのが銀行のATMだ。
銀行が自前で管理するATMの数を減らしている
キャッシュレス決済に馴染むと、ATMで現金を引き出す回数が減る。もちろん現金の流通も徐々に減っているので、キャッシュレス化が進む一方で、銀行のATMが減りつつある。ATMは1台でクルマが購入できると言われているほど高額。その運用や管理を他銀行に委託し、手数料を支払ったとしても、自前で維持するよりコストが低く済む。
そんなことから新生銀行では、ピーク時に約380台あったATMを約76台まで減らし、その全てをセブン銀行に委託。自前で管理するATMを0台にした。奈良県の南都銀行でも、全体の4割に当たる239台の支店外にあるATMをセブン銀行に委託。これにより南都銀行は1億円以上のコスト削減を目標にしている。
そのような他銀行への委託が進む一方で、メガバンクの三菱UFJ銀行と三井住友銀行は、ATMの相互開放を2019年9月22日よりスタート。互いの預金者が相手先の支店外のATMで現金を引き出した時に、平日8:45~18:00の利用であれば手数料を無料にする。
それ以外の時間帯も手数料110円と、自行を利用する場合とほぼ同じ扱いに。 そしてこれまで自行ATM以外では取り扱いができなかった預け入れについても、利用できるようにした。この相互開放によって、隣接する拠点のATMを廃止。支店外ATMは両行で約2800拠点となり、それらを整理することで数十億円のコスト削減に繋がるという。
セブン銀行では次世代ATM「ATM+」を開発
このような流れを受けて、銀行からの委託業務が増えるセブン銀行では、より利便性の高い次世代ATM「ATM+」を開発。2020年夏までに都内、2024年度までに全ATMの入れ替えを行う。この「ATM+」の進化した点は、ATMだけで本人確認ができ、口座開設や住所変更が可能になること。
「ATM+」の発表会に登壇したセブン銀行 代表取締役社長 舟竹泰昭氏(右)と、日本電気 代表取締役執行役員社長兼CEO 新野 隆氏(左)。
顔認証にはNECの世界No.1の認証精度を誇る顔認証AIエンジン「NeoFace」を採用。事前にパソコンやスマホで入力した個人情報を基にQRコードを出力し、それをATMで読み取る。
そしてATMに搭載されたカメラやスキャナーで顔と、本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)を撮影し、認証することで、本人確認の一連の手続きが行える。この口座開設の実証実験は2019年10月下旬より開始する予定だ。
上下一体画面の採用で、ATM画面が見やすくわかりやすい。
本人確認書類の読み取りとATM側のカメラの撮影で本人確認ができる。
従来機ではATM画面にQRコードを表示し、ユーザーがそれをスマホで読み取るスタイルだったが、「ATM+」ではスキャナーを搭載し、QRコードの読み取りが可能に。またBluetooth 機能の搭載で利用明細票やお得なクーポンなどをスマホに配信。AIやIoTの活用で、ATMごとに現金の需要をAIが予測したり、IoTによって故障を感知、予測することで、運営の効率化も図る。
ATM側にスキャナーが取り付けられたことで、QRコードの読み取りが可能になった。
キャッシュカードレスATMや移動ATM車の開発も進行中
次世代型のATMの開発は、鹿児島銀行と沖電気工業によっても行われている。ATMでキャッシュカードを使わずに取り引きできる「顔認証キャッシュカードレスATM取引」で、その顔認証本人確認システムにデンソーウェーブのQRコードが用いられている。
「顔認証キャッシュカードレスATM取引」サービスを提供するATM。
QRコードを読み取り、ATMに設置されたカメラで顔認証する。
あらかじめ顧客の顔を撮影し、顔認証に必要なデータを暗号化してQRコードに格納。そのQRコードを顧客のスマホに保存し、そのデータとATMのカメラで撮影を行って本人確認する。使用するQRコードは、よりセキュリティーが高く偽造や改ざんに強いタイプのもの。
キャッシュカードがなくても、より安全に便利に顔認証と暗証番号入力で取り引きできる。鹿児島銀行では現在、このキャッシュカードレスによる取り引きを試行中。その結果を基に、採用を検討する考えだ。
鹿児島銀行は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と提携し、「移動ATM車」の実証実験も実施中。MUFGのグループ会社で、次世代の金融サービスを開発するJapan Digital Designの「ATM mini」プロジェクトに参画。
これはミニバンの荷室部分に小型のATMを積載し、ライブ会場や花火会場などにATMを移動させるサービス。地方ではATMが減少することで現金が引き出しにくくなることが予想されるが、将来的には自動運転車を活用し、利用者が希望する場所に呼び出せるサービスを目指している。
「CEATEC JAPAN 2018」に出展された「ATM mini」プロジェクトのミニバン。
移動するATM。会場で実際にお金を引き出すことができ、鹿児島銀行以外の顧客は216円(当時)の手数料が必要となった。
ATMが様々な次世代型に変貌する一方、小売店のレジや自動精算機などで、自分の銀行口座から現金を引き出せる「キャッシュアウトサービス」も進行中。銀行法の規制緩和を受けて2018年4月からイオンのサービスカウンターやレジで、少額の現金が引き出せるサービスをスタート。2020年2月末までに、約400店舗への導入を目指す。
また東急電鉄では、東急線各駅の券売機(一部除く)で現金が引き出せるサービスを2019年5月より提供。横浜銀行の「はまPay」とゆうちょ銀行の「ゆうちょPay」が利用できる。
キャッシュレス化が進むことで銀行のATMは減少するものの、それに変わる新たなサービスが進行中。まだまだ現金社会の日本において、現金の利便性は今後しばらくは変わらないと言えそうだ。
取材・文:綿谷禎子