アメリカで2015年に実施された調査では、回答者の65%が「夏の(デザートではなく)食べ物と言えば?」と問われ、アイスクリームと回答。
ハンバーガーの63%、ホットドッグの52%、リブの45%などを上回り、アイスクリームが単なるデザートを超える存在になっていることが示唆された。
一方、今アメリカではウェルネス志向の高まりにより、「ファンクショナルフード」=従来の栄養素や効果よりさらに健康にプラスに働く食べ物に対する需要が拡大中だ。
昨年発売以降、注目を集めるヘルシーなアイスクリームなどの事例をもとに、スナックに対するニーズの変化について考察する。
スーパーマーケットのアイスクリームの棚。ブランド豊富で種類もオーガニックのものから乳製品不使用のものまで多数揃う(筆者撮影)
アメリカ初の「スリープ・フレンドリー」アイスクリーム
「夜に何か食べたくなるのは、私たちの習性。なかなか変えられるものじゃない。それなら食べるものを変えようと思った」とFast Companyに対して話すのは、昨年アメリカで初となる「スリープ・フレンドリー」なアイスクリームをリリースした「ナイトフード インク(以下「ナイトフード」)」のCEO、Sean Folkson氏。
ある調査では約1億人のアメリカ国民が、夜寝る前にアイスクリームを食べる習慣があるといわれている。またリサーチ会社 IRI Worldwideのレポートによると、おやつの41%が夜間に消費されているとのこと。
事実、ナイトフードが顧客300人にアンケートを取ったところ、80%がアイスクリームを晩御飯とベッドタイムの間に食べると回答したという。Folkson氏はそうした背景から夜食用のアイスクリームを開発する着想を得た。
一般的にアイスクリームというのは多量の砂糖、脂肪分やカフェインなどが含まれており、これらは睡眠の質を下げる成分であることから、睡眠前のデザートとして不向きである。
しかし、ナイトフードのアイスクリームはこれらの成分や人工甘味料を排除し、代わりに睡眠機能に働きかけるミネラルやアミノ酸が使用されている。
ちなみに睡眠導入剤やメラトニンなどのサプリメントなどは一切使用されていない。
この商品はシェフと睡眠や栄養学の専門医が研究を重ねて開発したもので、味はもちろんのこと医学的見地に基づいたアイスクリームであることも大きなセールスポイント。
開発チームの一員である医師のMichael Breus氏は、「ここ10年で、夜に食べるお菓子でベストな選択を探している人が増えていると感じる。睡眠前に食べるものと睡眠の質との関係性も以前よりも注目されるようになった」と語っている。
ナイトフードのアイスクリーム(同社公式Facebookページより)
ナイトフードは味のバリエーションも豊富、チョコレートにバニラ味、ミルク&クッキーやコーヒー味など誰もが楽しめるベーシックなラインナップだ。
価格もリーズナブルで、約500gで5.99USドル(約670円)、アマゾンでは8つ入りのパックが66USドル(約7,400円)と、現在アメリカで最も売れている「Halo Top」のアイスクリーム(8つ入り64USドル、約7,100円)と同等である。
また、アメリカ国民の好む夜食としてアイスクリームに次ぎ、チョコレートやクッキーなどが挙げられることから、同社は夜食に適したスナックバーも販売している。
こちらも睡眠を妨げる成分やカロリーをカットしてあり、罪悪感なく食べることができるという。
オンラインストアのレビューでも「一本で満腹になるし、よく眠れる」「美味しいので繰り返し購入している」といった購入者の声が見られ、アマゾンでは購入者の66%が5つ星を付けている。
ナイトフードのスナックバー。(同社公式ウェブサイトより)
さまざまなシーンで増えるファンクショナルフード
リサーチ会社 Mintelのレポートによると、従来のスナック市場はここ3年連続で縮小傾向にある一方、ヘルシーなスナックは年間6%伸長を示しているというデータもあり、アメリカ国民がスナックにより健康な原材料を求めていることを示している。
ナイトフードのFolkson氏の試算によると、夜用のおやつのマーケットだけで500億USドル(約5兆6千億円)、ファンクショナルフード市場に至っては3000億USドル(約33兆円)の需要があるという。
巨大なマーケットを前に大手企業も黙ってはいない。ユニリーバが昨年2018年にリリースしたアイスクリームの新ブランド「Culture Republick」は、乳酸菌とプロテインを配合したアイスクリーム。アイスクリーム1パイント(約500g)あたり17gのプロテインが入っている(ちなみに一般的なプロテインバーに含まれるプロテイン含有量が20g前後)。
フレイバーは「ミルク&ハニー」「抹茶&ファッジ」など合計7つで、パッケージが若手アーティストによるスタイリッシュで目を引くデザインであることも魅力の一つ。
Culture Republick(同社公式ウェブサイトより)
また食品大手のケロッグが昨年2018年に発売したファンクショナルフード「Hi! Happy Inside」は、善玉菌など体内環境を整えるとされるプロバイオティクス、オリゴ糖など整腸作用を促すプレバイオティクス、そして食物繊維が同時に摂取できるシリアルだ。
同社によるとアメリカの成人の92%が健康を維持する上で消化器系の健康に着目することが大切だと考えており、そのニーズに答えるべく朝食として好まれるシリアルを開発したのだという。
また「Hi! Happy Inside」は上述の消化器系に働く成分を3-in-1で摂取できることに加え、そのほかに使用される穀物もホールグレインでフルーツやヨーグルト成分などが使用されていたりと、朝食として積極的に摂取したい原材料が多く含まれている。
Hi! Happy Insideは3つのフレイバーから選べる(同社公式ウェブサイトより)
また、スポーツ用飲食料メーカーである「GU」が手がける「GUエナジーストループワッフル」には、良質な炭水化物にアミノ酸、体内の水分を保つ電解質などが含まれており、運動の合間に手軽にエネルギーチャージできるよう開発されたワッフルだ。
味もチョコレート味、ベリー味やキャラメル味など豊富に揃っており、ただの栄養補給剤のような味気なさはない。
このように朝食からスナックまで日常の至るシーンでファンクショナル・フードの存在感が高まってきている。
GUストループワッフル(同社公式Facebookページより)
ウェルネスブームがスナックの消費に与える変化
Food BusinessNewsによると、昨年2018年にアメリカ国内で消費された3,860億個のスナックの中でも、ヘルシーなもの、プロテインを多く含むもの、持ち運びしやすく個包装されているものの売り上げが堅調だという。
近年はスナックにもユニークな経験を求めている消費者が多く、珍しい味のものもヒットしやすい傾向があるという。
筆者の家にあったナチョスチップスもプロテインと繊維入りのファンクショナルフードだった(右)。また子ども用スナックにもヘルシーな選択肢は多い。オーガニックでグルテンフリーなものや砂糖不使用でフルーツと野菜のみで作られたスナックバーなど(左)(筆者撮影)
ウェルネスの機運が高まり、より身体によいものを摂取するといっても、美味しさを損なったりストレスを感じさせたりせず、継続可能な方法が歓迎されていることがわかる。
もはやスナックは「なんとなく」空腹を満たすためのものではなくなっているといえるだろう。今後も美味しさと効果面の両方を備えたファンクショナルフードがより充実していくことが予測される。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)