セックスはよりオープンでクリーンなものに。米セックス関連企業の最新動向

これまで性が辿ってきた歴史の大半は男性を優位とする社会で築かれ、そのカルチャーは男性を主体として発展してきた。一方でこれまで女性がセックスを公に語ることは多くの場合タブーとされ、女性のセックスにフォーカスされることは少なかった。

しかし今、その風潮は終焉を迎えつつあり、我々の生活の中でセックスの位置づけが徐々に変わってきている。本稿では、その変化を示すアメリカでの具体事例を挙げつつ、その新しいカルチャーを考察していく。

女性の性をよりオープンに。父娘で作る女性用品ブランド


Sustain NaturalのWebサイト

驚くべきことに、アメリカ発の女性衛生用品ブランド「Sustain Natural」を運営するジェフェリー・ホランダー氏とメイカ氏は親子。コンドームやローションについてじっくり話し合える異性の親子が、世界中にいったいどれほどいるだろう。

父であるジェフェリー氏はエコなナチュラル系ソープで有名な「Seventh Generation」の共同創始者としても知られる。2016年からユニリーバの傘下にある同社は、大型量販店やドラッグストアなどで手に入る部類のナチュラル系ブランドでは一番メジャーな存在と言ってもいいだろう。

そのSeventh Generationの創業以来、25年以上に渡りアメリカのサステイナブルビジネスの第一線を走ってきた彼が挑戦する新たな事業は、女性の健康の増進だった。

アメリカ国内で販売されているコンドームの多くは発がん性物質であるニトロソアミンを物質を含んでいることから、世界保健機関と国際連合人口基金が2010年にメーカーに対してその使用を最小限に抑えることを警告した。

にもかかわらず、2014年に行われた調査によると、ニトロソアミンフリーのコンドームを販売しているのは、国内でSustain Naturalを含む2ブランドのみだったという。


Sustain Naturalの製品群。コンドームにローションなど、この他には生理用ショーツやタンポンも(同社公式Facebookページ)

セックス時にコンドームの使用の有無を話し合うカップルはいても、使用するアイテムの成分にまで目が向けられることはあまりなかった。体内に入れるものの原材料を見直した「ヴァギナ・フレンドリー」と同社が謳うアイテムはどれも、既存製品に含まれている香料や殺精子剤など、本来身体によくないものが排除されている。

ヴァギナは身体の中でも最も外部からの刺激を吸収しやすい箇所だという。また、自浄作用により通常時3.5~4.5の弱酸性に保たれているPh値はバランスが崩れると炎症などにつながることから、丁寧なケアが必要なパーツだ。

そのためSustain Naturalのボディーウォッシュやオイル、ローションなどは弱酸性保てるように調整されており、生理用品も無漂白のオーガニックコットンを使用するなど、肌に触れる部分には徹底的に気を使っている。

また、アメリカ合衆国農務省のオーガニック認証や生産過程で動物実験を行わないクルエルティ・フリー、またヴィーガンなど品質に関する多くの認証を取得している。

さらに製品のクオリティに関する認証だけでなく、環境や社会に配慮した事業活動をしている企業に与えられるコーポレートBも取得済みであるなど、同社が周囲に与えるインパクトは大きい。

コンドームの主な原材料であるゴムが生産される農園は、これまで奴隷制度とともに発展を遂げてきた歴史を持ち、その劣悪で悲惨な労働環境は大きく問題視されてきた。

しかしSustain Naturalのようにクリーンな労働システムで運営されている農園も増え、その労働者を取り巻く環境も改善の一途にある。

ジェフェリー氏は、サステイナブルビジネスはもはや流行ではなく、消費者と従業者を含む全ての人の健康を守ることにつながる、企業の果たすべき使命だと断言する。

また、アメリカ国内の2,000万人を超える女性が本来必要な医療にアクセスできず、21%の独身女性がコンドームを使わないセックスをし、望まない妊娠が全体の48%を占めるという調査結果も公表している。こうした現状を改善するために、同社は製品の売り上げの10%を女性の福祉向上に関する非営利団体に寄付している。

環境に配慮したセックス用玩具も続々登場

アメリカでは今さらに、環境に配慮したセックス用玩具の登場も相次いでいる。2014年に性科学者とMIT卒のエンジニアの女性二人組がスタートさせたセックス用玩具メーカー「Dame」は「性のギャップを埋めよう」をミッションのもと運営されている。

同社のバイブレーダーに使用されているのは医療グレードのシリコン製で、プラスチック性の既存製品に多く含まれており、人体に有害な影響を及ぼすと報告されているフタル酸エステルを使用していないことが大きな特長だ。

また「Blush Novelties」による「The Gaia Eco Bullet」はでんぷんをベースにしたバイオプラスチック製で、世界初の”土に還る”素材のバイブレーダーだ。

薄いピンクやブルーの親しみやすい外観もあり、アメリカ国内ではミレ二アル世代やZ世代に多く顧客を持つセレクトショップのアーバンアウトフィッターズやフリーピープルなども取り扱われ、同世代の間でじわじわと人気が出てきているという。日本からもアマゾン経由で購入可能だ(1,102円)。


The Gaia Eco Bullet(同社公式Facebookページ)

「Kindred Black」は、消費一辺倒のファッション業界に疲弊した女性コンビが2015年にスタートしたライフスタイルブランドで、洋服からインテリア家具、ソープやオイルなどのアポセカリーまで幅広く扱う。どのアイテムも原材料から製造方法まで精査され、環境に対するインパクトを配慮したインディーデザイナーによる作品を販売している。

同ブランドの取り扱いカテゴリの一つであるセックスの「ウェルネスコレクション」では、美しいガラス製のセックス用玩具がWebサイト上に並ぶ。しかもアイテム名も「透明の青虫」や「アザミ」などキャッチーだ。

このようにデザイン性の優れたアイテムが多く登場していることで、これまであったであろうセックス用玩具を所持することに対する気まずさや後ろめたさも薄れてきていて、性に関するイメージは確実に変わってきている。


一見オブジェとしてインテリアにも使えそうなセックス玩具(Kindred Blackの公式Facebookページより)

エロとエコのコラボ 世界No1ポルノサイトのキャンペーン

このようにセックスを取り巻く環境が大きく変化してきている中、月に約1億人が視聴する世界ナンバーワンのポルノサイト「Pornhub」が先日ローンチしたキャンペーンが話題だ。

2019年8月下旬に、下品なポルノ映像の意である「Dirty Porn」をもじった「The Dirtiest Porn Ever」というタイトルのポルノビデオがリリースされた。

内容は男女カップルが海辺でセックスを行うというものだが、注目したいのはロケーションが世界で一番汚いとされるビーチである点。カップルがセックスに没頭するすぐ傍で、淡々とゴミ拾いを続ける収集員との対比が実にシュールだ。


「Dirtiest Porn Ever」(Pornhub公式Webサイトよりスクリーンショット)

Pornhubはこれまでにもミツバチやパンダを救うためのチャリティー動画を制作したりと”エロ”をフックにしたさまざまなエコキャンペーンを行ってきた。今回この動画による収入はすべて、海洋汚染を除去する非営利団体「Ocean Polymers」に寄付される予定で、ムービーは9月27日まで視聴可。

環境という規模の大きなテーマと結びついて性が語られるようになったのは、それがますますオープンになってきている証で、セックスがただ性欲を満たせれば良しという考え方から、当事者を取り巻く環境を含め、より広い視点を持って語られるべきトピックになってきたことの表れだと言えよう。

文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit

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