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「監視カメラ」と聞いてどのようなイメージを持つだろうか。日本を含めプライバシーの概念が確立・共有されている国々では、プライバシーが侵害される恐れから、ネガティブな印象を持つ人が多いかもしれない。
AIを活用した顔認証技術が急速な発展を見せる中、誰がどこで何をしているのかが一目瞭然になるディストピア的な社会になることを懸念する声が大きくなっている。
一方、監視カメラを設置することで犯罪を抑止できるという主張もあり、その存在意義についての議論は世界各国で活発化している。
監視カメラは犯罪抑止につながる?
英国の比較サイトComparitechがこのほど発表した世界各都市の監視カメラ動向をまとめたレポートは、監視カメラに関わる問題を考える上で有益となるかもしれない。
このレポート、世界120都市の監視カメラ(CCTV)の台数を分析。都市人口1,000人あたりの台数に換算し、それを順位付けしている。
監視カメラが多いのはどの都市か、またなぜそうなのか。世界各都市の監視カメラ動向に迫ってみたい。
「監視カメラ都市ランキング」圧倒的差でトップとなった中国・重慶
Comparitechの「監視カメラ都市ランキング」レポート、1位となったのは中国・重慶市だ。人口1,535万人に対し、監視カメラ台数は257万台。人口1,000人あたりの監視カメラ台数は168台となった。
監視国家と呼ばれる中国。率先して監視カメラの導入を進めていることから、中国の都市が1位であることにそれほど違和感はない。
さらにいうと、このランキングトップ5を中国都市が独占し、トップ10のうち8つが中国の都市であることも驚くことではないだろう。
トップの重慶に次いで、監視カメラが多かったのは深セン。人口1,212万人に対し、監視カメラは192万台。人口1,000人あたりでは159台となった。
以下、3位上海(人口1,000人あたり113台)、4位天津(92台)、5位済南(73台)、6位英ロンドン(68台)、7位武漢(60台)、8位広州(52台)、9位北京(39台)、10位米アトランタ(15台)。
Comparitechの「監視カメラ都市ランキング」(Comparitechウェブサイトより)
監視カメラの台数と安全性の意外な相関
Comparitechはこのレポートの中で、監視カメラを設置する理由としてよく挙げられる「監視カメラを増やすことで犯罪抑止になる」という主張が妥当なのかどうかを安全指数(犯罪指数)に照らし合わせ、その相関関係を分析している。
この分析における結論は、監視カメラの数と安全性の相関関係は弱く、この主張の妥当性は低いというものだった。つまり、監視カメラを増やしたからといって、必ずしも街の安全性が高まることはないということだ。
人口1,000人あたりの監視カメラ台数トップの重慶。Comparitechがまとめた安全指数は66.82。安全指数で見たランキングでは分析対象となった120都市中、33位にとどまっている。
安全指数が最大だったのは中国・南昌市で91.91。監視カメラ数ランキングでは22位(1,000人あたりの台数9.22台)だった。
また、このほど英エコノミスト誌の安全都市ランキングで1位となった東京の安全指数は81.00で、Comparitechの安全ランキングでは6位に位置している。一方、1,000人あたりの監視カメラ数ランキングでは、0.65台で77位と低い位置につけている。
一方、エコノミスト安全都市ランキングで東京に次いで2位だったシンガポールは、Comparitechの評価では安全指数ランキング20位(安全指数71.64)、監視カメラ台数ランキングでは11位(1,000人あたり監視カメラ台数15台)だった。
こうした数字から、監視カメラの台数と安全性(犯罪抑止力)に、特に強い相関がないことがうかがえるだろう。
中国以外の都市で比較的監視カメラ台数が多いシンガポール。安全性が高いことでも知られているが、監視カメラが多いから安全性が高いというわけではない。
同国の安全性が高いのは、昔からむち打ちや死刑など厳しい刑罰が導入されていたからである。監視カメラが増えてきたのはここ最近のこと。
中国が監視カメラを増やす犯罪抑止ではない理由
Comparitechの監視カメラ都市ランキングでトップ10に入った中国都市を含め、中国全土では今後も監視カメラを増やすことが計画されている。CompariTechのまとめによると、2020年までに中国国内の監視カメラ台数は2億〜6億2,600万台に達する見込みだ。現時点で192万台の監視カメラが設置されている深センでは、今後数年で新たに約17万台が設置されると見られている。
なぜ中国はここまで熱心に監視カメラを導入するのか。犯罪抑止という側面もあるが、多くの海外メディアや専門家が指摘しているのは、社会監視システムである「天網(スカイネット)」の強化だ。
監視カメラの映像とAIによる画像解析によって、中国国内にいるすべての人々の身元を特定するシステム。2012年に北京で始まった取り組みだが、中国政府は2020年までに中国全土での導入を目指している。また、この仕組みは中東、アジア、アフリカ、南米などに輸出されているといわれている。
中国メディアは天網の存在意義について、犯罪者や行方不明者を見つけることに寄与するシステムであると主張。
一方、欧米メディアや米国議会は、このシステムが中国国内の活動家の不当逮捕、ウイグルやチベットなどでの少数民族の弾圧に利用されているとし、厳しい非難を浴びせている状況だ。
AIによる画像認識精度は、アルゴリズムの発展とデータベースの増強によって日々高まりを見せている。世界はテクノロジーによって、ディストピアを生み出してしまうのかどうか、中国の事例はそのことを考えるよい材料といえるだろう。
文:細谷元(Livit)