数字を使って分析し、説明できることは、ビジネスにおいて欠かせない手段のひとつ。しかし、一方で数字に抵抗があり、なかなか効率的に結果を出せない人も少なくないのではないだろうか。
ビジネス数学教育家・深沢真太郎氏曰く、「数学的思考を身につける」ことがビジネスにおいて大事だという。数字に強いか弱いかではなく、数学的思考ができるか否かということなのだ。では、その数学的思考とはどういうものなのか。また、それを養うためにはどうすればいいのだろうか。今回はその秘訣を深沢氏に伺ってみた。
数学的思考は行動力に繋がる
深沢氏によると、ビジネスにおいての数学的思考とは、数字で考える、論理的に考える、数字で伝える、論理的に伝えるのたった4つに集約されるという。
ビジネスマンの行動は基本的に「考える」と「伝える」の2種類にほぼ限定される。そのため、仕事の質を高めたいのであれば、この2つの質を高めることが近道であり、その有効な方法のひとつが「数字」なのである。
数字を使ってロジカルに考えるということは、すでにかつての算数や数学で経験しているが、それをビジネスマン向けにカスタマイズしたものが、深沢氏の提案する数学的思考なのである。
この数学的思考をビジネスに取り入れることによって、どのようなメリットに繋がるのだろうか。
それに対して深沢氏は、「行動力」を手にすることができると語る。
なぜなら、数字を使ってロジカルに考えることによって、分析の精度が高くなり、物事の原因を明確にすることができるからだ。
例えば、部下に対してただただ「残業を減らせ!」というよりも、「会社のコストのうち人件費がこれだけあって、その内残業代がこれだけかかっている。残業代を何%減らすことでコストを削減でき、利益に換算するとこれくらいになる」など、しっかりとした根拠を提示することで、相手に納得感を持ってもらうことができるのである。
そしてこの納得感が、行動力に直結するのである。
現代は、とりあえず失敗してもいいから何でもやってみろという世の中ではない。経営者だろうが新入社員だろうが、失敗を恐れてなかなか行動に移すことができない時代だ。だからこそ、コミュニケーションに納得感が必要になってくる。
論理的に数字で導き出された根拠があり、それを数字を使いながら簡潔に筋道を立てて(まるで数学の証明問題を説明するかのように)説明できれば、それは意思決定の場で大きな納得感を生み、行動を起こすきっかけになるからだ。
また、裏を返せば失敗したときの言い訳にもなる。行動してうまくいかなかったとしても、単なる直感で仕事をするよりロジカルに仕事をした方が、同じ失敗でも周りの自分に対する評価や信頼度が変わってくる。
数学的思考は相手を納得させ、行動を促すとともに、信頼を獲得するための非常に重要な手段になり得るのである。同時にこれは、自分への納得感と自信にも繋がると言えるだろう。
「数会話」で数学的思考を身につける
この数学的思考は、数字が苦手だったとしても身につけることは十分可能だ。その有効な方法のひとつが、「数会話」である。これは深沢氏の造語であり、大手企業の研修や著書などを通じて習慣にするよう提唱しているものである。
深沢氏曰く、数学的に仕事をするとなった時、「統計学を勉強した方がいいのか」「計算が早くなるようにトレーニングした方がいいのか」など、人は「考える方」を先にやりがちだという。けれども実際は、「考える」よりも「伝える」の方から見直した方が効果的とのこと。
その時に役に立つのが「数会話」だ。これは、とにかく何でもいいので数字を入れて会話するという極めてシンプルなものだ。例えば、「部長、ちょっとだけ時間貰っていいですか」と伝えていたものを、「部長、3分時間貰っていいですか」という風に変えるだけでもいい。これを意識して続けることで、自分の仕事を数字で表現することが癖づいてくる。なぜなら、数字で喋った方が伝わり、伝わることで相手が納得して動いてくれる。それはつまり、ビジネスの成果に直結していくことでもある。
数字が嫌いというのは、ある意味一種の思い込みでもある。「数字で伝えたことで自分の意見が伝わりやすくなった」という成功体験を得られれば、それが数字に対するネガティブな感情を払拭し、数字に対する抵抗を軽減してくれるのである。そうすると、次第に数字で「考える」ステージに移っていき、物事を数学的に分析することができるようになるという。
数会話をすることでちょっとした成功体験を得ることが、「数字嫌い」を忘れさせる。あくまで人間は主観や感情の生き物なのだと深沢氏は強く主張する。
成功体験が数字との付き合い方を変える
深沢氏は数字が嫌いな人は「数字を好きになる必要はない」とも語る。大切なのは、数字との付き合い方を考えることだ。数字は、自分の成果を分かりやすく伝え、評価してもらうためのツールのひとつ。
仕事においてロジカルさが求められるとは言えど、人間はやはり心の生き物。誰かに褒められたい、認められたいという感情がどこかにある。
そのため、数字を使うことで自分の頑張りが認められれば、それが成功体験となって、数字との付き合い方が変わってくる。自分が認められるために必要なものだという紐づけがしっかりできれば、例え苦手であっても数字を使って効率的に仕事で結果を残すことができるはず。
苦手を克服する必要はない。成功体験を得るために、そしてそれを正しく伝え、その頑張りを認めてもらえるように、ツールとしてうまく使えばいい。数字とは「いいね」をもらうためのツール。実は極めてエモーショナルな言語なのだ。
- 深沢真太郎(ふかさわ しんたろう)
- ビジネス数学教育家・BMコンサルティング株式会社代表取締役。予備校講師や外資系アパレル企業での管理職を経て独立。ビジネス数学を提唱し、数学的・論理的に仕事をするためのメソッドを展開。企業や教育機関等の人材育成やコンサルティングを行っている。主な著書に『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(
日本経済新聞出版社)、『マンガでわかる デキる人は「数字」で伝える』(幻冬舎)等がある。
取材・文:志田智恵