「必要なのは学校の再発明」人生100年時代に向けて必要な学び直しの形とは —— Schoo 森健志郎

TAG:

『人生100年時代』
ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン、アンドリュー・スコット教授の著作『LIFE SIFT(ライフシフト)ー100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)によって、一躍知られるようになった言葉だ。

高齢化が進んだ先に訪れる、寿命が100年を超えることが前提となる人生100年時代の到来。そのまま今後の社会に当てはめることは難しいにしても、超高齢社会に突入した日本の現状を鑑みると、考えさせられる部分は大きいだろう。

技術革新により到来するであろう、就業・産業構造の変化、終身雇用制度の崩壊、新卒一括採用の見直し。刻々と進む高齢化により増える社会保障費、老後金融資産の不足といった課題に端を発するリタイア後の生活への不安。

学生・就職・リタイアといった日本でこれまで当たり前に考えられてきた人生設計のあり方やそしてそのために有用とされてきたスキルセットは変更を余儀なくされつつある。人生のあらゆる場面に併せて学び続けることの重要性がより強まりつつある。

こうした中で“リカレント教育”つまり、社会に出てから、学びなおすことへの関心が官民問わず高まってきている。

今回は40万人以上の登録者、生放送を活用した、大人たちがずっと学び続ける生放送コミュニティ「Schoo」を運営する、株式会社スクー(東京・渋谷)代表の森健志郎氏にこれからのリカレント教育のあり方、オンライン学習が目指す地平について伺った。

Schooが目指すインターネットによる学校の再発明

そもそも、森氏がオンライン教育の場に興味を持ち、起業することになったのだろうか。そのきっかけは既存のオンライン学習に対して抱いた不満だったという。

森「前職のリクルート2年目の時です。eラーニングによる企業研修を10時間くらい受けました。そうしたらこれが本当につまらない。おじさんが出てきてカメラ目線でスライド片手にひたすらプレゼンする、しかも資料も面白くない。

テクノロジーが進化してインターネットもある時代なんだから、もっといいものができるはずだと思いました」

新たな学びの場を考える中で、森氏が着想を得たのは“ニコニコ動画”だ。ニコニコ動画のような双方向型のサービスをいかにビジネスとして実現するのか、森氏の頭に浮かんだのは“学校”だった。

森「我々が学んできた学校教育の場を考えると、友人がいて、いろいろな授業があって、中には面白い先生がいて、そんな関係の中で新たな学びが生まれて、“有機的な学びの場”がありました。

翻って、インターネットでのeラーニングを比較したときに一緒に学ぶ人やコミュニケーション、コミュニティという概念がすっぽり抜け落ちていた。

それが結果としてインターネットの学びは進化しないし、進歩しない。だからこそ有機的な学びの場で学校をインターネットならではの形で“再発明”していきたいと考えたのです」

思案の結果生まれたのがSchoo独自の生配信授業だ。365日、毎日更新される無料の生配信授業では講師が一方向で教えるだけでなく、オンタイムで生徒がコメントすることができる。授業中にはまるで学校のようなやりとりが繰り広げられる。他のサービスにはない強みだ。


Schoo Webサイト

森健志郎が提唱する、学習に必要な“エモさ”とは

Schooが目指す学びの場は、学びなおすことに及び腰な人たちが学ぶ意義を見出すことへもつながると森氏は語る。

森「なぜ学ばないのかというと、お金がない、時間がないといろいろ言うのですが、究極的に言えば“面倒くさい”という話になる。例えば20代の方だと飲み会とかコンパとか他に楽しいことがあって後回しにしてしまう。

どうやって、学ぶ方に意識を向けてもらうのか。これまで我々が学んできた学校、という場がどういうものなのか考えてみると、合理的に何か理由があるというよりも仲間に会いたい、あそこに行くと楽しいという気持ちがあったと思うのです。

一人で教材に向き合うのではなく、SchooのユーザーさんもFacebookでつながっていたりする方がいますが、みんなで『あの授業を一緒に受けに行こうよ』なんて話すことができる、こういったことが大切ではないでしょうか」

特にオンライン学習の場合、合理性を追い求めるだけでは、普及は進まないという。

森「もちろん、価格を最適化したり、利便性を追及したりという合理的に参入障壁を低くしていくことは重要でしょう。他のEdtech事業者さんも共通の認識だと思います。

ただ、それだけでは難しい。例えば、いい質問が出たら、先生も乗ってくるかもしれませんし、他の生徒から『待ってました』と声がかかるかもしれない。今時でいうエモさみたいなものがオンライン学習の場でも重要な要素になってくるのではないかと思います。

しかも、生徒たちは片方は中学生で東京に住んでいて、もう片方は40代くらいの女性で北海道に住んでいる。そんなこともオンラインであれば実現する。極端な話かもしれませんが、Schooで学んでいる人たちが結婚するようになったら、もっと普及も進むし、勉強する人も増えるのではないかと思っているんです」

状況が変化してからでは遅い。“学び直し”を余儀なくされる時代

とはいえ、学びなおそうにもなかなか重い腰を上げられないという場合もある。各種統計でも学びなおしに興味は或るものの、金銭的、時間的な余裕など様々な理由から断念している人たちは少なくない。だが、森氏はそこまで悠長に構えていられない時代が来る、と語る。

森「長期的に見た場合には学びなおさなくてはならない環境になってくる。例えば、スマートシティが出てきて、ドローンが飛んだりモビリティが代わったり、道路が整備されて全部自動運転車が走っているようになる。

こうなった時に既存のタクシードライバーさんやトラックの運転手さんはどうなるのか。学ばないと確実に食べれなくなってくる」

人生100年時代が近づいてくる中、学びなおしを余儀なくされるような急激な変化は、今後様々な分野で加速度的に現れると森氏は語る。

森「6月に金融庁が老後資産が2,000万円必要だという試算を出したという報道があった。でも、現在の学校教育では貯蓄やお金の運用のことなんて教わっていません。いきなり言われても困る。

他にもプログラミング教育の必修化や働き方改革もそうでしょう。プログラミングを必修にしたところで、どれだけの人がビジネスで使えるようになるのかはわかりませんが、プログラミングができるとかっこいいというポジティブな価値観は加速していく。

また、働き方改革でいうと、ホワイトカラーの方たちが、フリーランスのような働き方を一つの選択肢として取りえるようになってきた。でも、どうやって仕事を取っていけばいいのかタイムスケジュールの管理はどうすればいいのか。そんなことはこれまで教育されていませんよね。

こうした流れに取り残される人が出てくる可能性は十分にある。今は学びましょうと口うるさいお母さんのように言っているところなのですが、最終的には学びなおしの必要のある方々に手を伸ばしていけるよう、事業規模等広げていけたらと考えています」

学び続けるために世の中から“卒業をなくす”

『世の中から卒業をなくす』これはSchooが創業当時から掲げているミッションだ。Schoolの最後の“l”を取ったSchooという名称もここからきている。最後にミッションを達成するうえで今後どのような展開を考えているのかを森氏に伺ってみた。

森「まずは地方展開ですね。今は9個の自治体さん(千葉市・福岡市・神戸市・釜石市・横須賀市・奄美市・高知県・南相馬市・ホーチミン市:2019年6月時点)と協力しているところですが、対応自治体を広げていきたい。

今はフリーランスの方たちも増えて、地方で仕事をということも増えていますが、移り住んで教育の機会がなくなり進化できなくなってはもともこもない。でも現状十分にあり得る。そこをどう担保していくのか、というのが一つの課題ですね」

森氏の指す“世の中”は何も日本国内のことのみではない。

森「70億人の人たちが学び続けられて、よりよい暮らしをするために何をすればいいのか、あくまで頭の中で、ですがグローバルは考えています。そもそも、Schooの強みである生配信授業は日本という時差がない国を前提としている。そのまま海外で当てはめることは難しいでしょう。

ヒントになると思っているのは日本で暮らす海外の人たちです。日本はこれから人口が減るので当然外から働き手を入れなくてはならなくなる。では彼らが適切な場所で働けているのかと。ちょっと発音のおかしい日本語を話すコンビニ店員の方も見かけますが彼らは少なくともバイリンガル、ベースが優秀です。

でも彼らは日本人よりもはるかに安い給料で働いています。構造がそもそもおかしい。加えて日本という国家単位で見ても損でしょう。こうした人たち向けにいい学びを提供していこうということも考えています」

実現に向けて動き出すために必要なのは民間企業の力だけではない。

森「toB,toCというだけでは、卒業はなくならない。我々としては大学・大学院など既存の教育機関は競合ではないと考えています。すでにいくつかの教育機関さんと提携していますが、to Universityのような形で貢献していく。

また、世界的にみてスウェーデンやシンガポールのように生涯学習の場が整っているところは基本的に国策主導。官を変えるためにも我々がボトムアップさせて国を本気にさせていく。官民で本当によい学びのあり方、そして人の暮らしのあり方を考えていくことが必要になっていくでしょう」

取材・文:小林たかし
写真:西村克也

モバイルバージョンを終了