世界最大の旅行プラットフォーム「トリップアドバイザー」がこのたび、2019年度口コミで選ぶ世界の人気テーマパークランキング・アジア版を発表した。このランキングは、2018年に集計した旅行者によるサイトへの投稿の数と、口コミ評価の平均から同社が独自のアルゴリズムで決定。日本の人気テーマパークはもちろんのこと、トップ10には今回インドのテーマパークが3つランクインしている。

インド勢の台頭

今回のトリップアドバイザーによるテーマパークランキングは、世界ランキングも同時に発表された。世界ランキングでは上位10位中アメリカが7つランクイン、その他フランス、ドイツ、デンマークが1つずつという内訳。

ちなみにアジア限定のランキングで1位に輝いた、ユニバーサルスタジオ・シンガポールがランクインするのは、21位以降。テーマパーク大国アメリカの強さを見せつけている。

同時に、日本で、そして世界でもそれほど知名度が高いとは言い難いインドのテーマパークが3つもランク入りした。その実態が気になるところだ。

インドのトップ3テーマパーク

まずはアジアで6位にランクインした「ラモジ・フィルムシティ」。南インドの代表的都市、ハイデラバードにある世界最大(ギネスブックでも承認)の映画村だ。

1996年にインドのテルグ語映画の有名監督兼企業家であるラモジ・グループのラモジ・ラオ氏によって創設され、数年後に観光客へと開放された。

その総面積は1666平米、東京ドームに換算すると実に145個分の広さ。敷地内には大規模な映画のセットが組まれているほか、子供用の遊園地や結婚式や企業の会議、展示会などに使用できる宴会場、植物園などを備えている。


なぜか西部劇のセット。ショーも行われている / Ramoji Film City より

日本でも大流行したインド映画『バーフバリ』も多くのシーンがここで撮影され、現在も見学することができる。インドでは、アメリカの映画界「ハリウッド」をもじって「ボリウッド(都市名ボンベイのB)」や「トリウッド(テルグ語のT)」という言葉があり、映画は国民的娯楽。その映画とテーマパークを一体化させた、インド人にとってはまさに夢の国だ。


日本でも人気を博したインド映画『バーフバリ』


『バーフバリ』の撮影現場と観光客 / Ramoji Film City より

ちなみにこの映画撮影用セット、規模は日本の映画村とははるかに桁違いだ。空港をそっくりそのまま模したものから、病院、街を丸ごと再現したものまで用意され、年間に大小含めて百本近くの映画が撮影されている。映画で見た「あの」シーンが目の前に広がるため、訪れる映画好きのインド人はテンション高めにパーク内を楽しんでいる。

人気俳優たちの等身大パネルや、映画を思い出させる看板も数多く設置されており、観光客の人気撮影スポットになっている。園内ではインド映画さながらの、ダンサーによる歌と踊りのショーもあり、運が良ければ将来公開される映画の撮影に遭遇するかもしれない。ただし撮影中は原則見学ができないよう、迂回コースを通るそうだ。

このテーマパークは、映画の制作側にも嬉しい設備が整っている。数十を数えるロケーション、特撮もできるスクリーン、屋内外のセット、スタッフ用の食事のケータリング、大勢でダンスを踊るシーンを撮影するのに欠かせない広い屋外の庭(数パターン用意)など。

また環境に配慮したこのパークは、開園に際して山を切り崩したり、木を切ったりしたことは一切なく、1996年当時に建てたセットは今なお一つも取り壊していないという。

その他、日本人の我々が気になるのは「日本庭園」と称した不思議な庭園の存在と、ボンサイ・ガーデンあたりであろうか。この時代にありながら、遠い異国でイメージされているちょっと間違えた日本像に、懐かしい衝撃を受けるかもしれない。

ラモジ・フィルムシティ内 日本庭園 Japanese garden/Ramoji Film City より

敷地は莫大のためツアーバスに乗り(エアコン付きバスとそうでないものは、料金と待遇に差がある)、園内をめぐるのが基本だ。それでも、バスの停車位置から見どころのスポットまではかなりの距離を歩く必要があるため、体力も必要になる。

じっくりと楽しみたい人のため、また旅行客にはアクセスが不便なロケーションにあるため、1泊したいと考える人にはパーク併設のホテルで宿泊することも可能だ。各ランク揃っているので、予算に合わせて選べる。なお入場料の目安は1日のバスツアーで約2000円から3500円。

水がカギの7位と8位

続いて注目するのは7位にランクインした「VGPユニバーサル・キングダム」。

VGPユニバーサルキングダム HPより

当初VGPゴールデン・ビーチという名称で家族向けの海浜レジャー施設だったそれを、アメリカやイタリア、日本といった世界の有名遊園地の乗り物を導入し、名称を現在のものに変更して本格的なテーマパークへと変貌を遂げたのが1997年。現在インドで最大級のテーマパークとなっている。

このパークの特徴は、ビーチ併設のウォーターパークであること。ランキングはアジアで7位、しかも初登場の快挙を遂げている。しかし、旅行客の感想はまちまち。ビーチ歩きができることや、ウォーターパークと遊園地の両方で家族全員が1日中たっぷり楽しめる、というレビューが多いなか、「非常にがっかりした」というレビューが多いのも特徴的だ。

がっかりした理由は、施設の不具合、遊園地の乗り物の故障が多くて乗るものがほとんどない、水質が悪いといった致命的な内容だったのは興味深い。一方で施設は「王国(キングダム)の王様キャラクターマスコット」の設定や動物と触れ合うコーナー、ライブショーなどがあり、非常に充実している。入場料の目安は、遊園地とウォーターパーク両方の利用を含めて約800円前後。

最後にランキングでアジア8位に輝いた「ワンダーラ」。こちらもインド最大をうたっている、ウォーターパークと遊園地の融合施設。ウォーターパーク利用に際しては100%ナイロン製または化繊の着衣(水着、Tシャツ、短パンなど)が必須で、ジーンズや学生服、スカーフ、ルーズなサリーなどの民族衣装で水へ入らないよう注意が呼びかけられているのもインドならでは。

園内には絶叫マシンが多数揃い、水着での行き来も自由なのでびしょ濡れになるマシンも多い。


ワンダーラ・バンガロール HPより

またユニークな施設、レイン・ディスコがある。その名の通り、雨の中のディスコ。暗闇で人工の雨が降る中、大音量の音楽が流れる施設だ。

このディスコでは、インド映画のダンスシーンに紛れ込み、大雨の夜に踊っているかのような感覚が味わえる。いかにも大音量の音楽と踊りが好きなインド人好みの施設だ。雨が降っているが、すでにウォーターパークや水浸しの乗り物で衣服は濡れているのだから問題はない。降雨のシステムは音楽とシンクロナイズし、インド随一の施設としてパークの自慢となっている。パーク入場料金の目安は2000円前後。


ワンダーラ・バンガロール HPより レイン・ディスコの様子

テーマパークの将来


中国・合肥のワンダ・テーマパーク完成予想図

世界全体ではいまなおテーマパークは開業ラッシュだ。既存の遊園地やテーマパークも、超高速、より重力に逆らったスリリングなアトラクションへと進化を続けている。

専門家によると今後テーマパークのトレンドは、スマートフォンやデバイスを利用した行列の軽減、よりインタラクティブなアトラクション、環境に優しく緑化に配慮、飲食部門の充実になるそう。よりインタラクティブなアトラクションが増えれば、毎回違う体験ができるためリピーターの増加にもつながる。

また飲食部門では、これまでは期待できなかったほぼ単一メニューの遊園地の食事も、品質の改善がみられれば、食事目当ての来場者やより長時間園内にとどまる客が増え、売り上げの増加にもつながるとみられており、期待が高まっている。

2020年までに世界が注目する新たなテーマパークの開業は、中東と中国が中心だそうだ。中東では既存の欧米系テーマパークが進出するが、中国ではインド同様に独自路線のテーマパークが開業する予定だ。その土地ならではの独特なテーマパークを楽しみに行くのも、また新しい旅の形になるかもしれない。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit