「人生100年時代」。リンダ・ グラットン氏とアンドリュー・スコット氏の著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』や、日本政府の「人生100年時代構想会議」によって耳にする機会が増え、世間にも認知されるようになった。
厚生労働省によると、ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が、107歳より長く生きると推計されている。
これを受けて、多くの企業や個人が、自身の人生設計を意識し、今後のキャリアプランや働き方、学び方などを見直すようになった。
今年4月には、経団連の中西宏明会長や、トヨタ自動車の豊田章男社長など、経済界トップが終身雇用について、相次いで持論を展開しており、話題を集めている。経済界の重鎮がこういった発言をするのは非常に珍しく、それだけ事態の深刻さを表しているといえるのではないだろうか。
こういった背景から、近年転職を支援するプロである「キャリアアドバイザー」の存在が注目を集めている。
最近の転職事情、企業が求める人材、キャリアコンサルタントとの違いなどについて、「キャリアアドバイザーの本音」と題したTwitterアカウントなどで人気を博す、えさきまりな氏にお話を伺った。
終身雇用が崩壊し、転職が当たり前の時代に
——キャリアアドバイザーになるまでの経歴を教えてください。
えさき:現在32歳になるのですが、私自身、最終学歴である短期大学卒業後に、転職を2度経験しています。
ファーストキャリアは大手自動会社の事務職でした。短期大学のキャリアセンターでは、事務職を紹介されることが多いため、何の疑いもなく、周りと同じように事務職の仕事に就きました。
当時は親世代の考え方に影響を受けており、この会社に入れば安泰だと思っていたのです。そしてそのまま寿退社をするという流れが当たり前だと思っていました。
入社して1年経った時に、ここではキャリアを積めないということに気づき、退職を決意しました。思えば学生時代にしていたバイトも、ビールの売り子や飲食店など、人と関わる仕事だったので、そういった仕事の方が向いていると悟りました。
しかし、転職するにあたって、短大卒で元事務職というキャリアでは、なかなか実を結びませんでした。それならばと、今後成長していくであろうベンチャー企業に入ろうと決意しました。そして、エステティックサロンを運営していた前の会社に、入社をすることに。
そこではカウンセリング業の傍ら、新規出店や本部の様々な業務に携わりました。この頃から、アドバイザー業務に魅力を感じ、現在の会社に入社しました。
——キャリアアドバイザーになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
えさき:1つ目は、前の会社では、脱毛系のエステサロンを運営していたのですが、人が持っているコンプレックスに対し、解決策を見出し、アプローチしていくという部分で、すごくやりがいを感じたことです。
そして、美容という狭い領域ではなく、もう少し広い領域に介入し、「困っている人たちの悩みを聞いて解決策を出していきたい」と強く思い、キャリアアドバイザーを志すようになりました。
2つ目は、安易に退職し、路頭に迷ってしまった後輩たちをたくさん見てきたことです。
美容業界は学歴社会ではないため、高卒や中卒の子も多いのですが、「先輩が怖い」「土日休みたい」など、簡単な理由で辞めてしまい、退職後に後悔している後輩たちがたくさんいました。
誰もが「一定収入のある方と結婚して安泰」という道に行ける訳ではありません。ずっと独身の子もいれば、離婚してしまった子、シングルマザーの子もいます。そういった子たちの生活は困窮していってしまうのです。
そういった背景から、キャリアアドバイザーになり、ファーストキャリアや若い頃の安易な転職、辞職によって、大幅なキャリアダウンをしてしまっている子たちを救いたいという思いが芽生えるようになりました。
——キャリアアドバイザーとして、普段どういったことをされているのですか?
えさき:まず、登録済みの求職者の方にご来社いただき、1時間から1時間半ほどキャリアカウンセリングをします。
内容としては、生い立ちから希望条件、悩みなどを聞きます。そして、本人が言語化できない部分をしっかり言語化してあげるということに力を入れています。
転職活動をしている方の多くが、面接のわずか30分間でしっかり言語化することができずに、不合格となってしまうことが多いからです。
本人のやりたいことや悩みを再確認した後は、現職へ残るという選択肢を残しながらも今の年齢だからこそ挑戦できる企業やご自身のキャリアとも向き合うために転職活動をスタートしていただいてます。実際に転職活動をすることが決まった際は1ヶ月や2ヶ月のスパンでお手伝いをしていきます。
日程調整や企業との交渉も私たちが行い、最終的に面接に合格した場合は、ご入社を支援していきます。転職の成功までサポートしていくというのが私たちの仕事になります。
——よく聞く「キャリアコンサルタント」との違いとは?
えさき:キャリアアドバイザーというのは、正式な職種名ではなく、人材紹介会社や転職エージェントが独自に設けている名前になります。キャリアアドバイザーになるための資格もありません。
そのため、会社によっては、キャリアアドバイザーではなく「キャリアコンシェルジュ」や「キャリアパートナー」と呼ぶ会社もあり、業務の総称として使用されています。
一方、「キャリアコンサルタント」というのは名称独占資格で、国家資格を取得し、名簿に登録している方が「キャリアコンサルタント」と名乗ることができます。
しかし、この資格は元々民間の認定資格で、2016年4月に法律の改定により、国家資格になりました。そのため、これを持っていないからといって「キャリアの相談に乗ってはいけない」ということではないのです。
なので、実際は人材紹介会社に勤めていても、この資格を持っているキャリアコンサルトの方ばかりではありません。
資格を持っていなくても、実務経験が10年あったり、立派な成績を出している方もたくさんいるというのが実状です。
転職に成功する人は「行動する人」
——転職に成功する人の特徴や、失敗しがちな人の特徴とは何でしょうか。
えさき:成功する方の特徴は、行動をすることに対する着手のスピードが速く、フットワークが軽い方が多いです。
失敗する方の特徴は、頭で考え求人サイトを見たり、周りから話を聞いて知識や情報を吸収することはあっても、実際に行動をしていないという方が多いです。
「やりたいことが見つからない」という言葉をよく耳にしますが、やりたいことが見つからない人の多くは、行動が少ない人なのです。
学生時代、これでもかというくらい行動してきてる人は、やりたいことがいくらでも出てきます。なぜなら、「やりたいこと」は、自分が見たものや、携わったことのあるものから生まれるからです。
行動している範囲が広い人は、確かに失敗を経験したり、回り道をすることもあるかもしれません。
しかし、行動してない人は「何がつまらないのか」という判断基準すら分からないのです。そのため、「何がしたいか分からない」という状況に陥ってしまいます。
——好きだけど苦手なもの、得意だけど好きじゃないもの、仕事をする上でどのような組み合わせが一番良いと思いますか?
えさき:得意なことを仕事にして、それを好きになっていくことが、一番幸せになれると思っています。
最近よく「好きなことを仕事にする」という言葉を耳にしますが、退職をしてしまった方は、その意味を誤解し、「好きなコト」じゃなく「好きなモノ」にフォーカスしている場合が多いのです。
例えば、「服が好きだから」とアパレル業界に行く人がいますが、大体の方は最初は販売員からスタートします。しかし、その人たちは服というモノは好きでも、洋服を売るコトが好きなわけではないため、「ノルマがつらい」「シフトがいや」「立ち仕事がつらい」などの理由から退職してしまいます。
「サッカーが好き」「化粧品が好き」「服が好き」など、「モノ」に惹かれてしまっているわけです。
自分を客観視し、自己肯定することの大切さ
——自分の強みが分からず、人に言える趣味や経験もなく悩んでいる方はどうしたら良いと思いますか?
えさき:日本人の特性なのかもしれませんが、多くの方が「私なんて大したことしてきてない」と謙遜します。
しかし、日本の仕事ってすごいと思うのです。例えば接客業に携わっている方は、「ただ接客してるだけ」と自己肯定感が低い方が多いですが、日本のおもてなしって、他では真似できない極上のサービスだと思うのです。
日々やってきたことが当たり前すぎて気づいていない方が多いのですが、自分を客観的に見ること、そして自分がやってきたことにきちんと自信を持つことが大事だと思います。
——キャリアアドバイザーとして、どのような点にやりがいを感じますか?
えさき:もちろん、求職者の方が転職に成功したタイミングはとても嬉しいのですが、そこはまだスタートだと思っていて。入社後にその会社で活躍している様子を、ご本人や人事担当の方から聞けた時に、格別の喜びを感じます。
もう一つは、本人が気づいてないご自分の強みや性格的特徴にハッと気づけた時ですね。
私と出会ったことで過去の布石を全部回収し、「あなたにはこういった特性があります」ということをフィードバックした際に、「自分のことを理解してくれる人が現れた」「自分の課題がクリアになった」というように、一瞬で生き生きした表情になるのです。その瞬間がすごく嬉しいです。
私たちの仕事は、コーチングというよりは、メンター的な側面があります。
——近年、転職をする人は増えているのでしょうか。
えさき:増えています。やはり数ヶ月前に報じられた経団連の中西会長やトヨタ社長の「経済界はもう終身雇用を守れない」という発言も、すごく影響力が大きかったのではないかと思います。
今までは「新卒で就職活動をして、定年まで勤めれば安泰」という流れだったのが、今後は会社自体どうなってしまうか分かりません。そうした中で、自分が「会社」という看板を下ろした時に、一体何ができるのかが大切になってきます。
そういった背景から、転職というのはあくまでも手段ではあるものの、転職をすることで「自分のスキルが欲しい」「手に職をつけたい」など、市場価値をつけたいと思う方が増えています。
面接は恋愛と同じ。相性が合うか合わないか
——キャリアアドバイザーの仕事において、大変な点はありますか?
えさき:求職者の方が最終面接に落ちてしまって、自暴自棄になってしまったり、精神的にまいってしまい、キャリア形成を諦めてしまうことがあります。
しかし、日本には現在400万社も会社があります。なので、その内のたった1社のたった1人の面接官がその人のことをダメだと言っても、それは決してその人自身が悪いということではありません。
恋愛と一緒で、その人との相性が合わなかっただけなのです。
——キャリアアドバイザー側から見て、企業が求めている能力とは何だと思いますか?
えさき:一番求めてることは、実績を作る力でしょうか。たまたま周りの環境が良かっただけとか、会社の看板や商品力に頼ってきたなど、結構ビギナーズラック的な実績を持ってしまっている方って多いのです。
そうではなく、次の職場で再現性のある実績を作る戦略や手段、自走力、どういう状況に置かれても対処できる力が強い人は求められると思います。
あとは会社にもよります。日系大手の老舗企業だと、長く働いてくれて、素直かつ従順なタイプを必要としています。
しかし、ベンチャーや、これからの日本を引率していく中小企業にとっては、受け身で単に従順な方は望ましくありません。これらの企業においては、自分で考えて自走し、成果を出し続ける人を求めていると思います。
——キャリアアドバイザーとしての今後の目標を教えてください。
えさき:転職をするしないに関わらず、私との出会いによって、次のアクションを起こすための原動力に繋げることができたら、本望です。
そして、今後はミドルやエグゼクティブ、CXOなど、自分がまだあまり携わっていない層にも携わりたいと思っています。そのためにもより知見や経験を高め、ビジネスの最先端で活躍している人たちを突き動かせるようになりたいです。
若手もいける、クリエイターもいける、CxOの方もいける、というように、幅を広げたいと思っています。
——えさきさん自身の今後のキャリアについてはどうお考えですか?
えさき:私自身もここで終わりだとは思っていません。キャリアアドバイザーって、自分の転職経験も一つのアドバイスに繋がるため、一生かけて積み上げていくものだと思うのです。
なので、「私が経験してきたことを知りたい」とか「そこから見える景色を教えて欲しい」という需要がある限り、フリーランスや個人など、どのような形であれ携わっていくつもりです。
ただ、もう少し視野を広げたいのと、ウェブメディア方面にも興味があるので、今後はそういった方面にも知識を高めていきたいです。ゆくゆくは二足のわらじで、二枚の名刺で仕事するのが目標です。
- えさき まりな
- キャリアアドバイザー
短大卒業後、大手自動会社の事務職やエステティックサロンでのカウンセラーや店長を経験。現在は都内の人材会社で4年間キャリアアドバイザーを務める。現場のみならずオンラインでも活動の場を広げ、「キャリアアドバイザーの本音」と題したTwitterアカウントが好評。現在約6,000フォロワーを獲得するなど、高い発信力を誇っている。
取材・文:花岡郁
写真:西村克也