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今、子どもたちの教育が変わりつつある。
中でもここ数年で大きく変わる可能性のある分野は「プログラミング学習」だ。
高校生は以前から選択科目である「情報」の授業、中学生は2012年から「技術・家庭科」の技術分野の授業でプログラミング学習が取り入れられている。
そして、来年の2020年度から小学校の授業でプログラミング学習が必修化となる。子どもたちにとって、プログラミング学習は待ったなしの状況になってきたのだ。
このプログラミング教育に目を付け、子ども向けプログラミング教室「TechAcademyジュニア」を日本全国にサービス提供する企業がある。その名もキラメックス株式会社だ。同社は「プログラミング教育を通じて世界を豊かに」をミッションに、これまで社会人向けのプログラミングオンラインスクール「TechAcademy」を展開していた。
今回は、なぜ子ども向けプログラミング教室の展開を始めたのか、そして、これからのプログラミング学習への見解を、キラメックス代表取締役社長・樋口 隆広氏に話を伺った。
2020年に向けて子どもがプログラミング学習をできる場所を生み出す
—— なぜ子ども向けプログラミング教室を提供するに至ったのでしょうか?
樋口:子ども向けプログラミング教室のニーズがあると感じたからです。
我々がもともと提供していたオンラインプログラミングスクール「TechAcademy」では、20~30代をコアユーザーとしていました。ところが、中には小中高生の子もスクールを利用してくれていたんです。
その子たちに、ユーザーヒアリングの一環でなぜうちのスクールを利用しているのか話を聞いてみると、「プログラミングを詳しく学びたい」と。町のPCスクールのプログラミング講座やロボット教室、キャンプ形式のプログラミングスクールには通ってみたけど、さらに実践的なことが学びたいと思ったときに学べる場所がなく、うちのオンラインスクールを利用してくれていたんです。
確かに、PCスクールの先生や塾の先生が本格的なプログラミングを教えるのはハードルが高いです。そもそも、そこまで詳しく教えられる人も少ない。そのため、詳しく学べる場所が限られています。
—— プログラミング授業の必修化が始まっていない今の時点でもいるということは、2020年の必修化が始まったらもっとプログラミングに興味を持つ子が増えてきそうなのに、学べる場所がないのは不便ですね…。
樋口:そうなんです。
なので、子どもに寄り添った形だけれど本格的に学べるプログラミング教室を提供することで、子どもたちにとって良い学びの場づくりができるのではないかと。そこで、全国にオフラインの教室スタイルで「TechAcademyジュニア」の提供を開始しました。
一つひとつ僕らが教室をつくっていくBtoCの形ではなく、既存の塾や英会話スクール・学童などの場所で教室を開いてもらうBtoBtoCの形を取ったことで、早い段階から全国にプログラミング教室の展開ができました。
—— 社会人向けにはオンラインスクールという形で事業を展開していたのに、なぜ子ども向けにはオフライン型の教室を展開していこうと考えたんですか?
樋口:アナログな考え方かもしれませんが、子どもたちが学習を継続させていく上で、オフラインのコミュニケーションがとても重要だと感じたからです。大人と違って、子どもは勉強に対して明確な目的意識を持つことが難しいケースが多かったです。「将来役に立つからプログラミングの勉強を頑張らないと!」と本人が思い立つことはそんなに多くないんじゃないかと。
それよりも、自分がつくった物を誰かが褒めてくれるとか、教室に通っている友達と競争して凄い物をつくるとか、コミュニケーションの中で勉強のモチベーションが生まれる。そのモチベーションが継続的に学びを深められると考えました。
「成功」と「失敗」を繰り返すことが継続的学習のカギ
—— プログラミング教室を運営していく中で、子どもたちが楽しんで学習できるようにカリキュラムなどで工夫している点はありますか?
樋口:自分の手でプロダクトアウトして「成功体験」を得られるようなカリキュラムを意識してつくっています。
言われたことをただひたすら聞いて学ぶのではなく、実際に手を動かしてアプリやゲームなどのプロダクトを“自分の手で”完成させる。今まで遊ぶだけだったアプリやゲームが、実は自分でもつくれると分かることで、より成功体験を感じやすくなる。そういったコンテンツの提供は心掛けるようにしています。
サービス内で作れるコンテンツの一部
さらに、「失敗体験」を感じることも非常に重要です。
プログラミングってどんなに優秀なエンジニアでさえも、初めてつくるアプリケーションでエラーが一つも出ないなんて基本的にはあり得ない。開発段階でエラーが出るのは当たり前。そのエラーをなくすために、“考えること”が学びを深められる部分でもあります。
なので、上手くいかなかったとき、「なぜ上手くいかなかったのか」を考えさせ、完成に向けて何度もトライしようと思ってもらえるよう、先生たちにはコミュニケーションを意識してもらっています。
—— ちなみに、どのようなプログラミング言語が学べるのでしょうか?
樋口:コースによって学ぶ言語は違うのですが、一番最初の導入のコースでは、ビジュアルプログラミング言語のScratchを採用したオリジナル学習画面を利用し、ゲーム・アニメーションをつくります。Scratchはコードを書くのではなく、ブロックを組み合わせてプログラムをつくるので、初心者でも子どもでも無理なく取り組めるのが特徴です。
次のコースではScratchを使って、テキストプログラミングの導入でつくるようなゲーム・アプリの開発をしてもらう。実際にプログラムを書いてなくても、コーディングの入口に立てるようなカリキュラムを用意しています。
プログラミングの基本を学んだあとは、Rubyを利用してアプリケーションをつくったり、JavaScriptを利用してゲームをつくったり、Pythonを利用してロボット制御システムをつくったり…子どもの興味関心に合わせてコースを準備している感じです。
—— 言語選択で意識している点はあるんですか?
樋口:入口として理解しやすいかは意識していますね。
言語って流行り廃りがあるので、絶対これを学んでおけば大丈夫という保証はありません。今はPythonがAI領域で用いられていることで流行っているものの、子どもたちが社会人になる10年後にそうとは限らない。
なので、子どもたちが導入として入りやすいか、プログラミングを理解しやすいかが重要です。例えば、Rubyはモノづくりをする上で一番扱いやすい言語ですし、JavaScriptはゲームをつくりやすいライブラリを使用して教えている。アウトプットのイメージが湧きやすい言語を選択の基準に考えています。
僕らには、もともとオンラインスクールの方で培ってきた経験やユーザーフィードバックがあります。オンラインスクールでプログラミングを教えている先生から、小中高生や初心者が勉強している上で楽しく感じているポイント、躓きやすいポイントなどはかなりヒアリングを重ねていて。これまでの実績に基づいた言語選択・カリキュラム設計をしているからこそ、子どもたちに良い学びの場が提供できると考えています。
大人の先入観が子どもの学びをブロックしているのか
—— とはいえ、中にはプログラミング言語を見て「難しそうだからやりたくない!」という子どももいますよね?
樋口:“難しそう”という先入観って大人の方が思ってるだけの場合がほとんどですね。
実際、子どもはコードやプログラミングを見ても難しそうと感じないんです。プログラミングを学習している子どもにプログラミングの第一印象を聞いてみると「格好良い!」「これでモノづくりできるなんて凄い」と。
大人が「子どもには難しいからできないだろ」と勝手にブロックしている部分があります。子どもにとっては初めて見聞きすることなので、“難しい”と決めつけたりしない。実際、社会人と中学生が同じ内容のプログラミング学習をして、中学生の方が進みが早いとか全然あって(笑)先入観を持たずに学ぶ姿勢は子どもの方があるので、子どもを子ども扱いしないことは意識している部分でもありますね。
—— 確かに。大人の先入観が、子どもの学習の妨げになる可能性もありそう…。
樋口:未だに「プログラミング教育に何の意味があるの?」と感じている親御さんもいますからね。教室を開かせていただく提供者さんにも同じような考えを持つ方もいます。テクノロジーへの理解がないことがディスアドバンテージになってくることの理解がまだされていない気がします。
すでにテクノロジーは生活の中になくてはならないものとして浸透し、インターネットのある生活は当たり前のものとなっています。だからこそ、僕ら事業者がもっとプログラミングを学ぶ意味を啓蒙していく必要があると感じています。
一方で、プログラミング教育の必要性を感じないことは、仕方ない部分もあるのではないかと思っているんです。
—— 仕方ない、というのは?
樋口:プログラミングを学ぶことの投資対効果が分からないんですよね。小学生・中学生がプログラミングを勉強して、中卒で大手有名IT企業のエンジニアになれるか、大学に行かなくてもIT系の会社起業ができるか、と聞かれるとそんな事例はほとんどなくて。子どもの将来に本当に必要なことなのかを理解できない。
なので、まずは将来どのように役立つのかという事例・ロールモデルをつくっていくことが一番の啓蒙活動になるんじゃないかと。
親は自分が経験してきていないことを、子どもの将来に当てはめることはなかなか難しい。でも、身の回りでロールモデルが生まれれば、選択肢として追加されると思います。今はもう地域関係なく勉強できる環境はあるので、色んな場所でロールモデルをつくることが重要ですね。
また、2020年に小学校でプログラミングが必修化するので、そこで親御さんの意識が少しは上がりそうな気がしています。
TechAcademyが目指す、子どもが「学び」を得られる環境」
—— それでいうと、2020年にプログラミング教育の必修化って世界的と比較するとどうなんですか?
樋口:かなり遅れてると思いますね…。
インドは2005年、アメリカ・イギリスは2014年、中国は2017年からプログラミングの授業を開始しています。一通り運用してみて、上手くいかなかったことを潰していくフェーズにいます。そんな中、日本は来年から始める。
英語の例だと、2010年の教育指導要綱変更のタイミングで小学校で必修化になり、10年経過した2020年のタイミングで教科化になった。同じ時間軸で考えると、教科化は10年後になるかもしれない。正直やばいと感じています。時代の変化が早くなっているので、それに合わせて子どもたちが身につけるべきスキルを学べる環境ができないと、世界からどんどん遅れを取ってしまいます。
とはいえ、始めるタイミングの遅さはどう頑張っても、もうカバーできないので、PDCAをどれだけ速く回せるかが大事だと思います。まずやってみて、失敗して、その失敗を潰して、成功に導く。まさにプログラミングと同じように失敗と成功を繰り返していくことが重要です。
—— そんな中、キラメックスは今後どのように子ども向けプログラミング学習のアプローチをしていこうと考えているのでしょうか?
樋口:プログラミング教育において、公教育(学校)の良い意味でのカウンターパートのような立ち位置になりたいと考えています。
小学校だけでなく、中学・高校のプログラミング学習も徐々に変化していて。2021年に技術・家庭科のプログラミング学習、2022年に高校の情報のプログラミング学習の内容が変わります。教育の中にプログラミングの要素が増えていくのは間違いない。
しかし、子どもたちの学習はそれだけじゃないですよね。国語・算数・理科・社会に加えて英語が増え、体育ではダンスが必須、などやることが沢山あります。その中で、プログラミング学習が丁寧に学べるかと考えると恐らくそこまでではないでしょう。
だからこそ、授業で興味を持った子、もっとプログラミングに触れたいと思った子にとって、専門的に学習できる機関はとても大切です。なので、全国どこでも誰でもプログラミングが学べる環境をもっと増やしていきたいと考えています。
取材・文:阿部裕華
写真:西村克也