インドネシア、2024年に首都移転。費用は3兆5,000億円。飛び交う期待と懸念

2019年8月26日、インドネシアのジョコ大統領が同国首都をジャカルタから東カリマンタンに移転することを発表した。インドネシア国内では長らく議論されてきた案件であるが、この発表を受け国外でも多くの人々が関心を寄せ始めている。

インドネシアはなぜ首都を移転するのか。同国の国内事情に触れつつ、首都移転計画をめぐる期待と課題についてお伝えしたい。

費用466兆ルピア、移転計画の概要

首都移転計画に関して2019年8月末時点までに明らかになっている事実をまとめておきたい。


インドネシア首都ジャカルタ

ジョコ大統領の発表によると、移転先はカリマンタン島・東カリマンタン州の東部。

日本では「ボルネオ島」と呼ばれる島だ。島といっても、その面積は72万平方キロメートルで、日本の国土(約37万平方キロ)の2倍近い広さ、世界の島の中ではグリーンランド、ニューギニアに次ぐ世界3番目の大きさを誇っている。

カリマンタン島北部はマレーシアとブルネイの領土、南部がインドネシア領土となっている。


首都の移転先、ジャカルタの北東に位置するカリマンタン島

移転費用は466兆ルピア(約3兆5,000億円)。このうち19%を国費で、残りを官民パートナーシップや民間投資によって賄う方針という。

移転開始時期は2024年。今後、国会での議決を経て、来年からインフラ整備を行っていく計画だ。

インドネシアの首都移転計画は数十年前に持ち上がり、歴代大統領ら検討してきた案件だが、費用問題などが足かせとなり実現していない。1945年、インドネシア独立宣言後に初代大統領となったスカルノ大統領の時代、すでにカリマンタン中部パランカラヤに首都を移転する計画があったともいわれている。ジョコ大統領の任期が終わる2024年までに、移転プロジェクトを軌道に乗せられるかどうかが焦点となる。

この計画で主な移転対象となるのは行政機能で、金融・商業機能は当面ジャカルタに残るという。移転フェーズ初期段階で新首都に移転するのは国家公務員とその家族、約150万人。ただし、インドネシア政府が移転を急ぐ理由を鑑みると、10〜20年後には金融・商業機能の移転・分散が進む可能性も十分にあると考えられる。

首都移転が必要な理由、ジャカルタが直面するさまざまな問題

首都移転が必要とされる理由はいくつかある。

ジョコ大統領が強調するのは、国内の経済格差だ。1万7,000ともいわれる群島からなるインドネシアだが、その経済活動や人口はジャカルタのあるジャワ島に集中しており、他の地域との格差は拡大の一途をたどっている。

インドネシアの人口は約2億7,000万人、そのうち60%、約1億6,000万人がジャワ島に住んでおり、ジャカルタ都市圏の人口は3,000万人ともいわれている。またインドネシア全体の経済活動の50%以上がジャワ島で行われているとの試算もある。

一方、カリマンタン島のインドネシア領土は、ジャワ島の数倍の広さがあるものの、経済活動規模は国全体の10分の1以下。この格差を是正したい考えという。

またジャカルタの急速な都市化に伴う諸問題が深刻化していることも移転を急がせる要因になっている。主な問題として挙げられているのが、交通渋滞とそれに伴う大気汚染、また地下水の過剰利用による地盤沈下などだ。

3,000万人ともいわれるジャカルタ都市圏の人口。郊外とジャカルタ中心部を結ぶ道路は通勤する自動者やバイクで混み合い、交通渋滞と大気汚染が悪化している。

ガーディアン紙などが伝えたところでは、2019年6月にはジャカルタの大気汚染レベルが、世界最悪といわれるインド・デリーや中国・北京などと同じ水準に達した。国内の環境活動家らがインドネシア政府を相手取った訴訟を起こす事態に発展しているという。


ジャカルタの交通渋滞

地盤沈下に関して、都市人口の増加とそれに伴うオフィスやショッピングセンターの建設が進み、市内のすべてに水道水を供給することができておらず、多くの人々が井戸水に頼る生活を強いられている。その結果、地盤沈下が起こっているのだ。沈下のスピードは1年間に25センチといわれており、建物への影響や洪水リスクの高まりを指摘する声がある。

首都移転に対する国民・企業の声

首都移転に対して、国民や企業はどのような意見を持っているのか。

国民の意見は地域ごとに分かれているのが特徴的だ。インドネシア民間調査機関Kedai Kopiが2019年8月26日に発表した首都移転に関する世論調査がある。これによると、インドネシア全体で首都移転に賛成とする割合は35.6%、反対が39.8%、無回答が24.6%とやや反対が上回る結果となった。

反対の割合が最大だったのがジャカルタ。同市では、反対が95.7%、賛成が1.8%と圧倒的多数が首都移転に反対していることが判明。一方、カリマンタンでは反対が28.9%だったのに対し、賛成が48.1%で、賛成が多い結果となった。賛成がもっとも多かったのがスラウェシで、賛成の割合は68.1%に上った。

Kedai Kopiは、首都移転後の計画や政策が明確になっていないことがジャカルタ市民の懸念を増幅していると指摘している。

国民の大半が首都移転に対し懸念を抱いている一方、産業界は概ね首都移転計画を好意的に受け止めている。

地元メディアによると、インドネシア商工会議所(Kadin)のロサン・ルスラニ会長は8月26日、ジョコ大統領の首都移転発表を受け、首都移転がビジネス機会の拡大につながるとの認識を示し、起業家らに大統領の移転計画を支持するよう訴えかけた。またインドネシア・ビジネス・アソシエーション(Apindo)も大統領の決定を支持する構えだ。

PwCの2050年未来予測によると、インドネシアはあと30年ほどで世界第4位の経済大国に躍進する見込みがある。首都移転をスムーズに実現できるのか、また移転を経済促進につなげ、PwCが予想するような発展を遂げることができるのか、今後の展開からも目が離せない。

文:細谷元(Livit

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