人口増加や資源の枯渇に伴う水や食糧、エネルギー不足の問題に対し、これまで世界各国でさまざまな取り組みが進められてきた。
その際の大きなキーワードが「サステナビリティ」つまり「持続可能性」である。このサステナビリティの考え方を生活全体に適用し、コミュニティ単位で環境に負荷を掛けない持続可能な暮らしを追求していくのが「エコビレッジ」だ。
世界で誕生しているエコビレッジの様子、そしてAIなど最先端のテクノロジーを駆使した直近のサステナブル・コミュニティのトレンドについて見ていこう。
食の自給自足を軸にした素朴な暮らしのエコビレッジ
エコビレッジの事例で多く名前が挙がるのが、環境意識の高い北欧諸国だ。中でもデンマークはエコビレッジ先進国と呼ばれ、さまざまな特徴を持つエコビレッジが存在している。
たとえば1978年創立と長い歴史を持つSvabholm(スヴァンホルム)というエコビレッジでは、400ヘクタールもの敷地内で小麦や野菜、果物などが無農薬栽培されている。牛や豚、ヤギ、ニワトリなども飼育され、100名を超える住人の食糧が自給自足で賄われている。
このようにエコビレッジは食糧の自給自足を軸に設計されることが多いため、農業との繋がりが強かった。すると必然的に、エコビレッジの立地は都市部から離れた農村部になる。
「自然に囲まれた場所で畑を耕しながら、昔ながらの素朴な暮らしに回帰する」というのが少し前までのエコビレッジのイメージで、むしろ先端テクノロジーとは対極の存在という印象が強かったように思う。
エコと快適な生活水準をテクノロジーで両立させるサステナブル・コミュニティ
オランダで完成間近の現代的なエコビレッジReGen Villages
しかし数年前から、最新のテクノロジーを駆使したエコビレッジの計画が急速に進むようになった。中でも注目を集めているのは、オランダのアムステルダム郊外に完成間近のReGen Villagesだ。
これまでのエコビレッジのイメージとは一線を画す現代的なデザインで、テクノロジーの力を使って、現代人の快適な生活水準とサステナブルなコミュニティ作りを両立させるのが狙いだ。
ReGen Villagesでは地熱、太陽光、風力、バイオマスからエネルギーを自給自足。雨水や生活排水はアクアポニックス(魚の養殖と野菜の水耕栽培を同時に行うシステム)として循環させ、生ごみの処理もビレッジ内で完結する。
野菜栽培用の温室には温度センサーやモニターが付き、生産性を上げるためのデータはクラウド上で一元管理されて住民に提供される仕組みだ。
テクノロジーの力を起点としたサステナブル・コミュニティReGen Villagesは2020年に完成し人が住み始める予定だが、既にスウェーデン、デンマーク、イギリスやアジアにも横展開の計画が進んでいるという。
隔絶された環境下でのエコビレッジ作りに挑むイスラエルのスタートアップ
Village in a Boxは砂漠でも機能するオフグリッドなエコビレッジを目指す
そして2019年、中東に現れた新星がイスラエル発のスタートアップThe Sustainable Group。彼らがイスラエル南部のネゲヴ砂漠で開発中のエコビレッジVillage in a Boxには、まさに近未来を思わせる楕円形の住宅が並び、「中東のシリコンバレー」とも呼ばれるイスラエルの最先端テクノロジーが集結する予定だ。
彼らのコンセプトはVillage in a Boxという名の通り、「エコビレッジの建設キットを箱の中に入れて輸送可能にする」ということ。中東の砂漠地帯では、たとえ家を建設したとしても、生活する上で必要な水や電気、物資の輸送といった公共インフラから隔絶されている。
「だったらそれらのインフラも自給自足でまかなえるようなエコビレッジ全体の建設キットを開発して、それを運んで行きさえすれば、どこにでもエコビレッジを作れるようにしよう」というのがVillage in a Boxという壮大なプロジェクトだ。
屋根と壁が一体化したテント状の住宅は、特殊なセメントを型にスプレーして広げるという技術で設置され、資材を細かく組み立てていく必要はない。
各住居や野菜栽培用のビニールハウスなどはパイプラインで結ばれ、自製した水や電気、ガスが供給されるだけでなく、各戸のキッチンから出た生ゴミはシンクに流すだけで自動的に粉砕・集積されてエネルギー源として再利用する。これらの循環型システムにより、30%ものエネルギーが節約でき、それにより生活コストも引き下げられる計算だ。
Village in a Boxのキットに含まれるのは、設備などのハードウェアだけではない。エコビレッジを運営するためのマネジメント、トレーニング、メンテナンス、モニタリングなどのソフトウェアもパッケージ化される。
さらにテクノロジー大国イスラエルらしく、コミュニティマネジメントにはAIモニタリングが組み込まれ、人々や環境の傾向を把握し、最も生産性の高い仕組み作りに貢献する見通しとなっている。
エコビレッジは先進国だけのものではない。途上国でも導入できるパッケージを
Village in a Boxの取り組みによって、The Sustainable Groupは2019年のChivas Venture Competitionのファイナリストに選出され、世界的にも注目が集まり始めている。
Village in a Boxが他のテクノロジー系エコビレッジと大きく異なるのは、決してハイエンドのサステナブル・コミュニティの構築を目指しているわけではないということだ。
彼らが目指しているのは、公共インフラに頼らなくても、人間が最低限必要とする住環境を適切なコストで整える仕組みであり、その手段として最先端テクノロジーを集結させた循環型ビレッジに行きついたと表現できるだろう。
今Village in a Boxの開発が進められているネゲヴ砂漠のMizpe Ramonという町は、イスラエルの中でも最も周囲と隔絶された地域だ。このエコビレッジが砂漠の真ん中という厳しい環境でも機能するならば、Village in a Boxは世界のどこへでも横展開が可能なことを意味する、と彼らは言う。
例えば人口増加によりインフラの整備が追い付いていない途上国の都市部や、大きな災害でインフラが破壊されてしまった地域など、ニーズは世界中で数多くあるだろう。
エコビレッジ全体をパッケージ化したVillage in a Boxの取り組みは、先進国だけでなく途上国にもサステナブル・コミュニティを広げる大きな切り札となるかもしれない。
文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit)