最近、ビジネスパーソンの間でブームとなりつつある「筋トレ」。
皆さんの中にも、デスクワーク続きですっかり鈍った体を鍛え直すため、ジム通いを続けている方は多いのではないでしょうか。
しかし、トレーニングや運動に興味はあっても、「それを仕事にしてしまおう」と考えるまでのめり込む人は少数派のはず。
そこで今回は、TV出演やYouTube活動など多方面で活躍されているパーソナルトレーナーの田上舞子さんから、パーソナルトレーナーになった理由や仕事の内容について詳しく話を伺いました。
筋トレを感覚ではなく「理論的に」学ぶ
——まずはパーソナルトレーナーの仕事内容について教えて下さい。
田上:基本的には、約束した時間の範囲内でお客様のトレーニングを、マンツーマンでサポートします。
お客様が理想とする体に近づけるためにトレーニングメニューを組み、食事の指導なども行います。
——パーソナルトレーナーを目指したきっかけは、何だったのでしょうか。
田上:始まりはダイエット目的の筋トレでした。食べることやお酒を飲むことが大好きなのですが、若い頃に比べると代謝落ちてきて、次第にだらしない体になってしまって。
それまで、様々な方法で摂取カロリーを落とす方向のダイエットを試してきたのですが、なかなか理想の体型にはなれませんでした。
そこで、自分の力だけでなくプロに助けてもらおうと思ってパーソナル専門ジムに通うようになったのが最初のきっかけです。
実際に何度も通って取り組んでいる内に、鍛えたら鍛えた分だけ目に見えて体に変化が現れるのが楽しくなり、トレーニングにのめり込みました。
それで、「どうせならパーソナルトレーナーの資格も取ろう」と考えるようになったんです。
——トレーナーになるには資格が必要なんですね。
田上:中には、資格が求められないプライベートジムもあって、筋トレの知識だけでトレーナーをやられている方もいます。
ただ、大手のジムは資格がないと入れません。私の場合は、世界的にメジャーな資格を取得し、大手ジムと現在契約をしています。
資格試験の内容は、3時間の筆記試験で、栄養学や解剖学など体の仕組みや筋トレに関する様々な知識が問われます。
——普通は筋トレを始めただけではそこまでいかないと思うのですが、なぜそこまでのめり込んだのでしょうか。
田上:自分の出身大学が理系だったというのもあるかもしれませんが、筋トレを何となく、形だけで覚えるんじゃなくて、理論的に学びたくなったんです。
筋トレは、同じ動きでもちょっとした角度や握りの強さで効く部位や効果が変わります。そうした知識を伝えられた時に、「なるほど」で終わるんじゃなく、「それはなぜ?」ととことん疑問を追求していくタイプなんです。
それと、元々は受付の仕事をやっていたんですが、長く続けられる仕事でないことは分かっていました。なので、勉強して資格を取って、手に職をつけたいという思いもありましたね。
成果を「見える化」を意識することが継続のヒント
——ダイエットには様々な方法があると思いますが、パーソナルトレーニングを選んだのはなぜですか。
田上:先ほども言ったように、それまでにも何度かダイエットに挑戦したことはありましたが、ジムに入会しては行かなくなる、ジョギングを始めては途中で止める、というのを繰り返して挫折していました。
そういう経験から、自分は一人でトレーニングができないと知っていたんです。でも、パーソナル専門のジムに通えば、「予約して先生の予定をおさえた以上、穴は空けられない」という意識が働くだろうと。
——トレーナーをつけても三日坊主で続かない人も多いかと思います。田上さんがジム通いを続けられた理由とは何でしょうか。
田上:毎日自分の体を鏡で見て、小さな変化にも気付くようにしていたからだと思います。
私のお客様にも、「毎日自分の身体をしっかり見たり、写真に記録して残すように」とお伝えしていますが、自分の身体をちゃんと定期的に見ない人は、たとえ10キロ痩せていたとしても気付かないことが多いんです。
でも毎日目標に進んでいる実感があれば、辛いことでも続きます。
それと、私の場合はジムで先生に測定してもらって、数値で効果を実感できたというのも大きいですね。
——成果の「見える化」ということですね。
田上:そうです。さらに、理想型に近づく実感は自信を生むことにも繋がり、心にも良い影響をもたらすはずです。
自信がつけば全てに前向きになれる。自分のだらしない体を見て、毎日罪悪感を抱えて生きていたら、前向きな気持ちで生活できないでしょう。
目標に向かって進んでいると確認できれば、心は前に向いていくと思います。
“食べないことは不要” バランスを考えることが重要
——食生活はどうでしょう。鍛えている方は食事を厳しく管理しているイメージがありますが。
田上:イメージ通り、減量中はささみや卵の白身、牛の赤身を食べています。でもそれは大会前3ヶ月くらいの話です。
しかも、期間中には1日限定で高カロリーなものや炭水化物を沢山食べる「チートデイ(自分の中で好きなものを食べて良い日というルールにしています)」を設けています。
質素で低カロリーな生活をずっと続けていると、体内に限られた栄養しか入らず、体がその栄養範囲内で生きていこうとするので、一定以上体を絞れなくなってしまう。
でもチートデイを作れば、エネルギーがいっぱい入ってくる環境なんだと体が認識して、脂肪を燃やし始めるんです。
——あえて食べることでダイエット効果を高めるんですね。ベタな話ですが、バランスが重要ということでしょうか。
田上:そうですね。
例えば、糖質制限ダイエットは流行りですが、知識のあるトレーナーが推奨することは、ほとんどないと思います。
糖質はトレーニングのエネルギー源として絶対に必要です。だから、ダイエット中でも「もう絶対に揚げ物食べない」とか「スイーツ食べない」とかはやらなくていい。リバウンドの原因にもなりますから。
結局、長く続けられる方法を実践しないとダイエットは難しいと思います。私も友達と外食する時とか、普通に気にせずお酒も好きなので楽しんでいますね。減量中も、量は減らしますがそれでも飲んでいます。
——間食はしませんか。
田上:お菓子は食べないですけど、食事を1日4、5回に分ける分食はやっています。
—— ー分食にはメリットがあるのでしょうか。
極端な例ですが、お相撲さんって1日2食しか取りませんよね。すると栄養が全然入ってこないから体が栄養を溜め込もうとして、結果、体格が大きくなると。
また、食事と食事の時間が空きすぎるとドカ食いの原因にもなります。
反対に、1食の量を抑えた分食なら常に栄養が入ってくるから、体が栄養をどんどん消費しようとしてくれる。なので、前日の夜食べすぎて朝食べられないという時でも、プロテインは飲むようにしています。
ダイエットは「食事が8割、運動が2割」
—— 一般的な社会人でもできる、効果的なダイエット方法はありますか。
田上:まずは、食事の内容を見直してみましょう。
ボディメイクの世界では「食事が8割、運動が2割」と言われているくらい、食事は重要ですから。何も考えずにランチパスタや焼き肉などを食べ続けていたら、ボディビルダーの方々でも絶対太ってしまいます。
逆に食事に気をつけていれば、運動していなくても太りません。
——具体的にはどのように気をつければいいのでしょうか。
田上:基本は毎食タンパク質を取るようにすることです。
油の少ない肉とか魚とかを中心に食べる。「肉を食べて」と言うと「チェーン店の牛丼でもいいですか」と聞かれますが、そういったお店の肉は脂質が多く、しかも砂糖を使って煮ていることも多いので、ダイエットには向きません。
おすすめは鶏肉などを買って自炊すること。安いところだと、100g60円くらいの鶏胸肉などを買えば、食費も抑えられてお得ですし、良質なタンパク源ですよ。
自炊が苦手な方は、今はコンビニにサラダチキンなどが置いてあるので、そういう食材を利用すると良いでしょう。
外食をする際は、グリル系のお店などに行って、赤身を食べたり色々な工夫をしてみて下さい。
——食事以外に、日常でも実践しやすいトレーニングがあれば教えて下さい。
自宅でも気軽に出来るトレーニングと言えば、“スクワット”が最も効果的です。
足の筋肉は体全体の筋肉の7割を占めると言われるくらい大きなものです。なので、足の筋肉量を増やすことで、基礎代謝が上がることで痩せやすい体になると思います。
お客様を安全に「目標に近づける」ことが喜び
——田上さんが考えるトレーナーの仕事の楽しさ、逆に辛いと感じる点があれば教えて下さい。
田上:お客様がトレーニングを楽しんでくれている時、あるいは、目標に近づいて喜んでいるお客様の姿を見る時は嬉しい気持ちになります。今のお客様は本当に長いこと続けていただいている方が多く、ただのトレーナーとお客様との関係以上になっていて、プライベートな話もしたりするので楽しいです。
逆に、辛いことというのは、今の仕事ではあまり感じませんね。強いて言うなら、私が減量末期の時に行うお客様のサポートくらいでしょうか。減量末期はパワーが無くなるので、100キロ以上担いでスクワットされる方をサポートする場合、安全面で一層の配慮が必要になりますので。
——体の変化には予測不能な部分が多いかと思います。その意味で、お客様の理想を実現することに難しさはないですか。
田上:やはり難しいですね。ダイエットの知識自体は、努力して勉強すれば誰でも身に付けることは出来ます。
そして、高タンパク低脂質な食事を心がけていれば、ある程度までは痩せられます。でも、それ以上の成果を求められるお客様もいらっしゃるので、そういった方のためにも、トレーナーは絶えず新しい知識を得て、自分でも実践していく必要があります。
だから私は自主的に大会に出場しています。求められる体は大会によって違い、細マッチョな体型が求められるところもあれば、女性でも鍛え上げられた体が求められることもあります。
ただ基本的には、かなり低い体脂肪率まで絞られた身体が求められる世界なので、そこに行き着くまでに色々停滞を経験することもあります。でも、その体験から多くのことを学べます。日々勉強ですね。
——田上さんが毎日楽しく仕事ができている理由は何でしょうか。
田上:パーソナルトレーナーの仕事って、似た者同士が集まってくるという特徴があると思うんですよ。
真面目なトレーナーには真面目なお客様が集まりやすく、ゴリゴリに鍛えているトレーナーにはそういうお客様が多かったりする。
私のお客様の場合は、明るく陽気な方が多いので、楽しくお仕事をさせていただいています。
田上舞子流、指導のコツ
——田上さんが仕事の中で大切にされていることは何でしょうか。
田上:お客様自身が気付かないような小さな変化にも気付くことです。
お客様の体を毎回しっかり見て、「ここがこういう風に変わってきましたね」と伝えると、お客様にも体の変化を実感していただきやすくなります。基本的には褒めて伸ばすというスタイルです。
褒められて嬉しくない人ってあまりいませんから。
——最後に、田上さんの今後の目標や実現したいことを教えて下さい。
田上:長期的な目標としては、世界中を回って美しい景色を見ること。海と山が本当に好きなので、これからも続けていきたいと思っています。
短期的な目標としては、次の大会で良い成績を残すことですね。
※編集部註:取材後の8月25日に行われた東京選手権で初優勝されたとのことです
取材・文:花岡郁
写真:西村克也