政府によって発表された働き方改革が話題となっているが、実際にどのような事例があるのだろうか。

自分の周りで目に見える形で起こっていないと働き方改革を実感するのは難しい。そこで、今回の記事では、働き方改革の事例について以下の順で解説していく。

  • 働き方改革を推進する理由
  • 働き方改革の事例
  • 働き方改革を実現するためのステップ

働き方改革を推進する理由

働き方改革とは、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く人々がより良い将来の展望を持てるようにすることを目指して実施されている。

現代の日本では、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や育児や介護との両立などの問題に直面しており、このような問題を解決するためにも、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが必要だと言われている。

働き方改革の事例

では、働き方改革の事例としてはどのようなものがあるのだろうか?働き方改革の事例には、以下の9つがある。

  1. 育児休暇
  2. 介護休業
  3. 短時間勤務制度
  4. フレックス制度
  5. テレワーク(在宅勤務)
  6. 長時間労働の禁止
  7. 副業解禁
  8. 生産性・業務効率向上
  9. ダイバーシティ

それぞれ、働き方改革の事例を詳しく解説していく。

育児休暇

育児休暇は、少子高齢化が進む日本において、多くの企業で取り組まれている働き方改革の一つだ。女性社員を対象とする育児休暇が多いが、男性社員の育児休暇を促進している事例もある。

「日本生命保険相互会社」では、男性の育児休業取得率100%を実現している

従業員の9割が、女性社員である日本生命相互会社では、男性が育児・家事へ積極的に参画することで、女性の働き方を理解し、職場の風土を変えることに繋がると考えて取り組み始めた。

その結果として、男性の育児休業取得率100%を実現。また、累計取得者数は1,200名を超えている。

介護休業

少子化と合わせて、課題となっているのが、高齢化だ。

高齢化により、生産年齢人口が減少するだけでなく、親の介護問題を抱えている子供世代が増えている。親の介護のために、仕事を辞める人も少なくない。

そのような介護問題を解決するために、仕事と介護の両立支援を「三井不動産」では取り組んでいる。

介護に携わる社員に対し、フレックス型の介護時短勤務制度の導入や、介護休業になった場合も通算1年間を上限に取得できる制度を導入した

また、介護休業や短時間勤務はもちろん、精神面のサポートも実施。年2回、全社員を対象に介護セミナーを実施し、介護に直面した際に慌てないように基礎知識を伝えている。

短時間勤務制度

短時間勤務制度は、育児休暇と合わせて多くの企業が取り組んでいる。短時間勤務制度を実施することで、育児や介護をしながらでも働くことが可能。

短時間勤務制度を社員の働き方に合わせて、8つのパターンを設けた「高島屋」について紹介する。

短時間勤務制度は、1日の労働時間を30分〜2時間程度短縮しているのが一般的だ。ただし、この場合だと社員の多様なニーズに応えることが難しく、充分に活用されない場合もある。

高島屋では、以下のような短時間勤務のパターンを設け、多様な社員の働き方に対応した。

  • 1日5時間、休日は通常勤務者と同一の122日
  • 1日6時間45分だが、休日を92日にし、総労働時間は通常勤務者と同一の1841時間
  • 1日6時間45分、休日は通常勤務者と同一の122日

また、事前申請をすることで、4週間で9回までを限度とし、フルタイムで勤務できる制度もある。

勤務時間にバリエーションを持たせることで、社員が自由意志で選択できる制度だ。

フレックス制度

フレックス制度は、社員が仕事の始業・就業時間を決定し、働くことができる制度だ。

フレックス制度を導入することで、通勤ラッシュを避けられたり、個人の効率良い時間配分で仕事ができるので残業の削減につながるなどのメリットがある。

ここでは、地域に根付いた企業がフレックス制度を導入した事例を紹介する。

福島県福島市に本社を構える「東邦銀行」では、地域金融機関として先駆けてフレックス制度を導入した。2016年に導入し、毎月社員の約7割が利用している。

コアタイムを11時〜16時としているため、窓口業務に支障をきたすのではないかという懸念されていたが、これまで生じた例はないようだ。

山口県山陽小野田市の「西部石油」では、業務の繁閑や個人の事情などに合わせた働き方ができるように平成22年4月よりフレックス制度を導入した。西部石油では、10時〜15時をコアタイムとしている。

フレックス制度を導入した結果として、平成25年度には、約140名が利用するなど働き方として定着している。

テレワーク(在宅勤務)

テレワークは、会社に出社せず、主に自宅にいながら働くことができる働き方だ。

テレワークを導入することで、育児や介護だけでなく、身体障害などによって通勤が困難な方でも働きやすい環境を整えることができる。

「イオンスーパー」では、障害者の在宅勤務制度を導入している。

この制度を導入した目的としては、以下の2つ。

  • 店舗の作業効率の改善
  • 障害者の雇用実現

実施方法として、本社で21店舗分の作業を管理し、社員の業務量の調整を行っている。テレワークとして働く社員は、業務開始及び終了の報告、質問等をメールを活用してコミュニケーションをとるようにしており出社をしなくても働くことが可能だ。

テレワークで希薄になりがちなコミュニケーションを深めるために、就労支援事業者の担当者による月1回面談と人事担当による四半期に1度の面談を実施し、サポートを行っている。

長時間労働の禁止

長時間労働は、日本の働き方で最も問題視されている事案だ。長時間労働をなくすためには、一つの施策だけでなく、複数の施策を行うパターンが多く見らる。

三越伊勢丹グループである、「岩田屋三越」では、パソコン使用時間適正化システムとシフトの固定化によって、時間外労働の削減を実現した。

1つ目の「パソコン使用時間適正化システム」は、パソコンの使用時間を8:30 〜 21:30に設定し、設定時間以外は業務ができないシステムだ。

もし設定された時間で業務を行う場合は、上司に報告されるシステムになっており、いつでもパソコンが使えるという環境をなくしている。そのことによって、限られた時間を有効活用できるようになり、業務時間内で仕事を進める意識が高まる要因となった。

2つ目の「シフト固定化」は、早出・遅出のシフトを部門ごとで固定化し、シフトで決められた時間内で業務を進める制度だ。

シフトが固定化される前は、早出で出勤しているにもかかわらず、早帰りができない状態が蔓延していた。営業時間=就業時間となってしまい、帰るにも気を使ってしまう状況だった。

しかし、シフトが固定化されることで付き合い残業が減り、時間外労働時間の削減を実現している。

副業解禁

副業解禁は、働き方改革の中で非常に注目を集めた事案だ。副業解禁することで、企業は以下のようなメリットを受けられる。

  • 優秀な社員へのPRになる
  • 社員の成長につながる
  • 新たなアイデア・イノベーションが生まれる

実際に副業を解禁した事例として、「クラウドワークス」が挙げられる。クラウドワークスでは、人事制度「ハタカク」で、副業・リモートワーク・フレックス制度、の3つの制度を開始した。

社外で仕事をすることで、社員のスキルや経験の幅が広がることを期待。さらに、自社サービス「クラウドワークス」を利用して仕事を受けるケースもあり、社員がユーザーとしてサービスを利用することによりサービスの改善につなげている。

生産性・業務効率向上

ITツールの発達などによって、生産性・業務効率は飛躍的に向上した。

茨城県水戸市に本社を構える「常陽銀行」では、「紙文化」を改善するためにタブレットなどを活用し、業務効率を向上させただけではなく、サービスも向上されている。

店頭でタブレットを導入し、顧客がタブレットに入力した内容をそのままシステムに反映させることで、手続きを簡略化し、社員の業務改善と顧客の待ち時間の短縮を実現。

他にも、TV電話を利用した顧客面談など、様々な場面で利用されている。

ダイバーシティ

働き方改革におけるダイバーシティは、多様性を受け入れ、企業の成長に活かす考え方だ。

ダイバーシティの考え方を企業に取り入れることで、人材不足の解消や多様化した顧客ニーズへの対応などのメリットがある。

ダイバーシティと言っても様々で、高齢者・障害者・外国人材・LGBTと、これまで注目されていた女性だけではなく、さらなる広がりをみせている。

実際に人手不足の課題を解決した事例として、愛知県瀬戸市の「大橋運輸」の取り組みが挙げられる。

運輸業は、業界全体で慢性的な人手不足だ。そのような状況の中で、大橋運輸ではダイバーシティを推進し、様々な人材が活躍している。

女性社員の採用には、バリエーションのある短時間勤務を導入し、女性社員のニーズに応えて採用を増やした。また、海外への新規事業展開を視野に入れ、外国人採用にも力を入れている。

フィリピン出身の人材を採用し、里帰り旅費の補助や語学が堪能な社員が通訳を務めるなど、異国で働く際のストレスを軽減できるような環境を作っている。

働き方改革を実現するために重要な3ステップ

働き方改革を実現するためには、以下の3ステップが重要になる。

  • 現状把握
  • 導入する手段を選択
  • 導入後の効果検証

それぞれのステップを詳しく解説する。

現状把握

現状把握をせずに、他の企業が成功しているからと新たな制度を導入しても、同じような効果を得ることはできない。

実際に何が経営上の課題なのかを把握し、適切な手段でアプローチする必要がある。

経営上の課題を発見するためには、まず社員とコミュニケーションを取り、働き方改革を実現することでどのようなゴールを目指すのかを決めるのが重要だ。

その上で、ゴールを達成するために足りない部分を、日々の業務ベースで浮き彫りにしていくことにより現状の問題を把握することができる。

導入する手段を選択

現状を把握したら、次にどのような手段で働き方を見直すのかを検討していく。企業の課題によって、実際に導入する手段は変わる。

例えば、離職率が高く、優秀な社員が辞めていってしまうのが問題であれば、リモートワークや副業解禁を導入し、より自由な働き方が実現できる制度の導入であったり、育児や介護などのプライベートを両立できるよう、短時間勤務の導入などの手段が考えられる。

制度を取り入れることで、どのような結果が得られるのかも含めて検討する必要がありそうだ。

導入後の効果検証

課題を把握し、課題を解決するための制度を導入したら、その後実際に効果があったのかを検証する必要がある。企業の風土や状態によって、得られる結果は同じ手段でも他社とは異なるからだ。

例えば、リモートワークを導入した場合、どれくらいの人数が利用したのかを利用した人へのヒアリングをあわせて行い、企業全体の時間外労働の変化などを検証していく必要がある。

想定していた効果が得られなかった場合は、より多くの改善案を試していく。そうすることで、より企業にフィットする方法を見つけることが可能だ。

まとめ

以下、今回の記事の要点となる。

  • 働き方改革を推進する理由は、日本の社会問題を解決するため
  • 働き方改革の事例は、課題に合わせた様々な事例がある
  • 働き方改革を実現するためには問題を把握し、制度を導入した後の検証も必要

働き方改革は、多様な働き方を選択できる社会を実現し、日本の社会問題を解決するために行われている。

今回紹介した事例を参考に、働き方改革に取り組んでいこう。