フレキシブルワーク先進国フィンランド、新法導入でさらにフレキシブルに

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「フレキシブルワーク」や「リモートワーク」という言葉が広く知られるようになって久しい。日本企業の間でも具体的な取り組みが少しずつ増えているように見える。

一方、海外ではこのところ急速な勢いでこうした新しい働き方が広まっており、90%以上の企業がフレキシブルワークを導入したという国も出てきている。

労働時間・場所に関して世界で最も柔軟といわれるのが北欧フィンランドだ。1996年に導入された労働時間法。これが同国の労働の柔軟性を高めている大きな要因と見られている。

すでに労働の柔軟性が高いフィンランドだが、このほど労働に関する新法案を可決、柔軟性をさらに高める姿勢を示しているのだ。

フィンランドの労働環境はどれほど柔軟なのか。また新法導入で、何が変わるのか。フィンランドの労働環境と世界の潮流、その最新動向をお伝えしたい。

2020年に施行されるフレキシブルワーク法、労働時間の半分は社員に裁量

1996年フィンランドで導入された労働時間法。従業員は職場での労働において、始業・終業時間を3時間前倒し・後ろ倒しすることが認められている。

国際会計ファームGrant Thorntonが2011年に発表したレポートによると、フレキシブル労働時間を導入している企業の割合はフィンランドで92%に上り、調査対象となった39カ国中トップとなったことが明らかになった。この調査では39カ国7700社が対象となっている。

フィンランドに次いでフレキシブル労働時間の導入割合が高かったのは、スウェーデン(86%)。これにオーストラリアとタイがそれぞれ85%で並ぶ形となった。このほか割合が高かったのは、ニュージーランド(84%)、オランダ(82%)、スイス(80%)、英国(79%)、米国(79%)、アイルランド(77%)など。

一方フレキシブルワーク労働時間の導入割合が低い国は、日本(18%)、ギリシャ(26%)、アルメニア(35%)、マレーシア(39%)、トルコ(44%)、ポーランド(47%)、台湾(49%)、UAE(49%)、ロシア(50%)、シンガポール(50%)などであることが分かった。

このほど可決された新法案、2020年1月1日に発効するものだが、柔軟性を一層に高めるものになるとして注目を集めている。

新法では、1週間の労働時間40時間のうち、半分の時間について従業員がいつどこで働くのかを決められるようになる。新法に関して、テクノロジー普及の文脈で労働規制を「時代に即したものに(modernize)」することが目的だと述べられている。スカイプやスラックなどのコミュニケーションツールの普及を念頭に置いた新法ということができる。


フィンランド・ヘルシンキ

国民を信頼する文化的な基盤とフレキシブルワーク

新法の施行に先立ってフィンランド国内では自主的に労働時間・場所について柔軟性を高めていこうとする企業が増えている。

英BBCによると、フィンランド・ヘルシンキのIT企業に勤める管理職の男性は、日照時間が短くなる秋・冬期の6カ月間、スペインのリゾート地マラガに移住し、リモートワークしているという。秋・冬期が終わるとヘルシンキのオフィスに戻るという生活だ。

この企業以外にも、フレキシブルワークを推進する企業が増えているが、その背景には人材獲得が厳しくなっているという状況があるともいわれている。

フィンランドでもデジタルスキルを持った人材の需要は高まっているが、同時にそのようなスキルを持つ若い世代の間では都市部以外に住みたいという需要も高まっているというのだ。リモートワーク制度はこのような人材を魅了するための重要な労働条件になり得るという。


都市部以外の居住需要が高まるフィンランド

またリモートワークやフレキシブルワークが生産性を高める可能性を示唆する調査が増えており、こうした取り組みに正当性を与え、より多くの企業のフレキシブル化を後押ししていることも考えられる。

International Workplace Groupが96カ国1万8000人を対象に実施した調査では、82%がフレキシブルワーク制度で生産性が上がったと回答。またHSBCが英国のテクノロジー企業を対象に実施した調査では、89%の回答者がフレキシブルワークは生産性を高めるモチベーションにつながると回答している。

フレキシブルワークの普及において、文化的な要素も無視できない。働く時間と場所について社員に裁量を与え、それに見合うパフォーマンスを達成してもらうには、企業と社員の間の信頼が不可欠となる。この点において、フィンランドは文化的にフレキシブルワークが浸透しやすい文化的基盤があると考えられている。

フィンランド地元メディアYleが伝えたEurobarometerの調査によると、EUの中で最も自国民を信頼している国がフィンランドであることが分かった。

この調査はEU諸国2万8000人を対象にしたもので、フィンランドの回答者は1000人。フィンランドでは80%以上が自国民を信頼すると回答。このほか、デンマークとスウェーデンの割合も高かったという。専門家は、福祉国家であること、また平等性が高いことなどがこの調査結果に反映されたと説明している。

世界ではこのほか、ITや人材分野でオフィスを持たない企業が増加するなどフレキシブルワークをめぐる環境は大きく変わってきている。ワードプレスを開発する米Automattic社は1000人近い社員を抱える企業だが、オフィスは持っておらず、すべての社員はリモートワークで働いている。リモートワークと親和性の高い分野では、このような企業が今後も増えてくることになるだろう。

[文] 細谷元(Livit

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