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国内外で絶えない「生産性」についての議論。日本でも生産性の向上、残業時間の削減、プレミアムフライデーなど働き方改革と言われる活動も活発化している。
国全体で、そして会社ぐるみで取り組んでいる生産性の向上。しかしながら生産性の高い人、仕事がデキる個人になるにはどうやらコツがあるらしい。
驚くべき日本の生産性と働き方改革
GDPでは世界第3位の日本。実は主要7か国G7内では生産性が最下位という不名誉な記録を過去20年間保持している。
OECD加盟国間では35か国中2015年の統計で第20位、数値は平均を下回る生産性という結果もある。さらに最新の2017年の統計では第21位へとランキングを落としている。
これに対し有識者たちは、日本特有の「無償サービス」が他国に比べて過剰であることや、作業を進めるにあたってかかる組織内での時間(社内承認作業)、残業や長時間労働を美化する社風などを挙げる。または「こうした欧米主体の指針に一喜一憂する必要はない」と無視を決め込む向きすらある。
確かに日本では経済活性化のキーワードとして、政府が働き方改革を呼びかけて久しい。働き方改革を実行することによって生産性がアップすると考えているからだ。
首相官邸ホームページによると現在の日本には大きな課題が3つあるとしている。1つは正規雇用と非正規雇用の理由なき格差、2つ目に長時間労働、そして3つ目は単線型の日本のキャリアパス。
これらの3つの課題をクリアすることによって日本企業の生産性が改善され日本経済が活性化すると考えているようだ。
個人の生産性
日本ではこうした日本らしい「社会全体で、会社全体で」変えていこうと呼びかけられている一方、世界では個人の生産性に注目したマサチューセッツ工科大学の教授が実施した調査結果に注目が集まっている。
この調査を実施したのは、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院のロバート・ポーゼン教授。世界6大陸の約2万人の管理職層を対象に生産性に関する調査を実施した。教授は「生産性とはいかなる場所、いかなる産業や職業においても、プロとして直面する課題」として調査を実施。7項目に分かれる21の質問を通じて興味深い結果が出たと発表した。
生産性の高い人となるコア・スキル
生産性の高い人には7つの中核となる能力が備わっているそうだ。
それは、スケジュール管理の能力、日常のルーティンワークをこなす力、大量に届くメッセージ(メール)の処理能力、マルチタスクをこなす力、コミュニケーション能力、効率的な会議を開く力、他人への仕事の割り振り能力。ポーゼン教授の生産性向上セミナーや研修でもこのスキルをどう伸ばしていくかがしばしば語られている。
2万件近くの回答は約半数が北アメリカ、ヨーロッパ21%、アジアが19%、残りの10%はオーストラリア、南アメリカ、アフリカから寄せられたもの。このうち高度な生産性を持ち合わせた人のグループを分析したところ、共通項目が浮かび上がった。
- 最優先事項を決めそれを実現するための計画を練っている。
- 大量の情報やタスクを処理するテクニックを習得、実施している。
- 同僚のニーズを理解し、会議を短時間で効果的に終わらせ明確な指示を出し、迅速なコミュニケーションをしている。
この3つが共通するルールであると明らかになった。
属性による差異
生産性に関して属性による差異にも興味深い結果が表れた。まず地域別では、アメリカ人がヨーロッパやアジア、オーストラリアの平均結果と比べて低いスコアとなった。長時間労働の傾向があるにもかかわらずの結果だ。
今回、最も調査結果に密接に関連していたのが職級及び年齢だった。年齢が高く職級が上の人ほど生産性が高く、若年層で職級が低い人たちとの差が大きく開いた。
上級職のグループが顕著にその能力を発揮したのが、重要度の低いルーティンワークの処理能力、メッセージの取り扱い、効率的な会議の開催、そして他人への業務振り分け能力。いずれも場数を重ねたからこそのテクニック、経験がものをいうスキルだ。
また性別に関しては開きが見られず、男女ともに同様のスコアを算出したが、特徴的な現象はそれぞれに突出する共通の優位性があったことだ。
女性の場合、効果的な会議の開催能力について非常に優れており、次のステップへの合意点を見出しつつ90分以内に会議を終わらせることが得意であった。
一方で男性は膨大な量のメッセージの処理能力に長けている。Eメールを必要以上に頻繁に確認せず、重要性の低いメールを飛ばすことが出来るのが男性だった。
メールの処理がカギ?
実際に半日席を外しただけで、受信箱に登場する3桁もの新着メールの知らせ。見ただけでもう、すっかり働く気力を失いそうな経験をしたことは誰にも何度かあるだろう。
出社して朝パソコンを開いたら大量の新着メールが受信箱に届いていたため、午前中をメールの返信だけに追われた経験もあることだろう。
もちろん他の業務は一切放置しているはずだ。たとえ自分自身そのような経験がない人でとも、メールのやり取りに時間を取られている部下や上司を目の当たりにしてイライラした経験があるかもしれない。
仕事で受信箱に流れ込んでくる大量のメールの処理能力が自分の生産性とリンクしていることは、重々承知している。とはいえ、読み残したメールの多さにおびえるばかりで具体的にどう対処すべきか知らない人たちも多いことだろう。
ここでポーゼン教授は大胆に提唱する。「メールの確認は1~2時間毎に1度きり」。
メールに時間を取られがちで他の業務を疎かにしてしまう人は、なるほど3~5分おきにメールをチェックしている。
そして教授はメールをチェックするときにはまず「件名」と「送信元」だけを見て優先順位を決めるべきだと主張する。このことによって、受信箱の約60~80%のメールが自分にかかわりがなく、不必要なメールであることに気付き飛ばし読みが出来るからだ。
また重要なメールには即答をするよう勧めている。フラッグを付けたり、後で返信しようと別のフォルダーに保存するのはその作業自体が時間の無駄で、それにたちまちそのことを忘れてしまうことが多いからだ。思い当たるふしがあり、なんとも耳の痛いアドバイスだ。
個人の生産性でマクロに改革を
上記のようにメールの処理能力は非常に重要なスキルであるが、より優先順位の高い他のタスクを見極める、というようなマクロな視点での効率化と同時進行すべきであると強調する。
教授は「プライベートでもプロフェッショナルな場面でも、明確なゴールを設定していない人は道に迷いやすく、例えばメールの返信といった小さなことに時間を取られて目標達成に必要なステップに十分な時間を費やしていないことが多い」と指摘する。
なお、潜在的に持ち合わせている生産性を高めるためのヒントは今回の調査で生産性の高いグループが実践している共通のルールから浮き彫りになった。すぐにでも始められる、としてポーゼン教授が薦めているのは、
- オリジナルの目標に集中すること――毎晩次の出勤日のスケジュールを見直し、最優先事項は何か再認識する。長文の資料などを読む前には必ず何のために読むのかを決めてから読み始めること。
- 過重な仕事量をコントロールする――件名と送信元だけから判断して50~80%のメールを飛ばし読みする。大きなプロジェクトは細かいステップに分断して、一番最初から始める。
- 同僚をサポートする――会議は90分以内に終え、次へのステップを定めて終了する。チーム内で成功の指針とは何か話し合い合意する。
の3つのポイントだ。
個人の生産性が高まるということは、大雑把を承知で言えば短時間により大きな成果を上げるということだ。当然残業や休日出勤はなくなり、家族との時間や趣味に費やす時間を充実させることが出来る。
とくに世界経済が停滞しつつあり、人材不足による一人当たりの労働量の増加が懸念される現代社会において、これは切実な問題だ。
シンプルかつコアな3つのスキルも
ポーゼン教授のいう「エクストリームな生産性」を実現させるのに個人で出来ることが他にもある。それが読む、書く、話す、のシンプルかつ基本的な3つのスキルをブラッシュアップすることだ。
現代の経済社会において効率よく文書を読み、書き、そしてスピーチすることは必要不可欠なスキル。この3つを自分のものにし、ブラッシュアップするだけで個人の生産性は格段に向上すると考えられている。
そのうえで、メールの返信、のような些細なことに時間を取られないよう自分の時間をコントロールし、毎日のルーティンワークに明確な目的意識と優先順位付けを心がける。これが個人として心がけるべき要素だとしている。
とは言え、自分の職場では定時で帰宅したり会議をさっさと切り上げたりする社風ではないから、と諦め嘆いている読者も多いことだろう。ポーゼン教授はこう締めくくっている。
「どんな職場環境であれ、社風であれ、上記に挙げたテクニックは有効です。なぜならば結局のところ、短時間に最良の生産性を発揮するのは自身の内に秘めたる力なのだから」。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)