「世界一○○なタイマーを作る」 新人研修でチャレンジをさせる理由とは

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【TDKの研修制度】

〇モノづくり講座

【制度内容】
新人研修の一環として、『TDKのモノづくり』を実際に体験する研修制度。「世界一〇〇なタイマーを作ろう」をテーマに、3人チーム×2でグループを組み、 各チームがオリジナリティあふれる製品を考え、商品企画から資材調達、原価計算、工程管理表の作成、試作、量産までを実践する。

「社員全員がモノづくりを知ってほしい」モノづくり企業ならではの新人研修

「チャレンジ」と「失敗」はビジネスでは欠かせないもの。特に新人時代に体験したチャレンジや失敗は、後々の成長につながる重要な経験となる。

今回「モノづくり講座」を導入している、スマートフォン、パソコン、車などに使われている電子部品を扱う“モノづくり”企業、TDK株式会社 人事部 田内 俊輝氏にモノづくり講座についての詳細や、この新人研修を行うことで得られることのお話を、また、2019年に入社したアレクス カステン氏に研修を受けての感想を伺った。

───なぜ新人研修で「モノづくり講座」を行うのでしょうか

田内 氏(以下、敬称略):大きく分けると3つの目的があります。

まずひとつは、我々はモノづくりの会社なので、新入社員に「モノづくりのプロセスを体験、理解してもらおう」という目的があります。

そのため、モノづくり講座では現場で製品の製造に携わる人だけでなく、人事や総務など、直接モノづくりには関わらない部署に配属される人も一緒になってモノづくりの研修を行います。

二つめは、「計画段階から品質を作りこむなどの、TDKのモノづくりの方針を学ぶ」こと。現状からより良くするためにはどうすれば良いだろうと考えることは、どの業務でも共通することだと思います。

三つめは、「学生から社会人への意識転換」ということで、ルールを守り、チームで働くということを学び、同期との仲を形成してほしいという目的もあります。

これらのポイントを達成するためにはどうしたら良いかを考え、始めたのが「モノづくり講座」です。

「学び」と「チャレンジ」を促す研修

モノづくり講座は2001年にスタート。はじめは「竹とんぼ」をテーマに研修を行っていたようだ。2018年からは竹とんぼ作りから「タイマー」作りにテーマが変更された。

───なぜ新しいテーマとしてタイマーが選ばれたのですか?

田内:数値で客観的に評価が決まるものを作ろうということで、タイマーになりました。

というのも、竹とんぼの場合「3秒以上飛行する」というルールを作っていまして、テーマを変える場合、竹とんぼのように定量的な数値で結果が出せるものが必要だったんです。

タイマーの場合は各チームごとに「決めた数値の±5%」というルールを作っています。例えば、180秒と決めたら±9秒以内で測れる装置を作りましょうと。

また、実際の製品は量産できなくてはならないので、「2機の量産」も条件に入れています。研修では、実際に作ったタイマーを別のチームにも作ってもらい、量産できるかどうかを見ています。

───それらのルールは難しいですか?

田内:難しいですね。事前にどんなタイマーにするか目標を決めてもらいますが、2機の量産を達成できるチームはほとんどいません。80チームあったら、10チームが達成できるかどうかです。

弊社は、当時どのように使われるか未知数だった世界初の磁性材料「フェライト」を事業化しようという目的で創業した企業のため、チャレンジすることを応援する風土があります。「失敗しても良いからとにかくチャレンジをしてほしい」という考えで、あえて難しいルールを条件に組み込んでいます。

実は、テーマもただの「タイマー」ではなくて、「世界一○○なタイマー」とし、各チームごとのオリジナリティも期待しています。だから研修では、世界一のモノづくりとしてより高い目標にチャレンジしてもらいます。

製品企画から行い、目標を立て、実際やると難しいということも実感してもらいながら、学びを深められる。これが、モノづくり講座の特長です。

実際に体験することで、知識をアップデートしていく

モノづくり講座は毎年新入社員に人気の研修のようだ。その理由を深堀りしていく。

───なぜモノづくり講座は評判が良いのでしょうか?

田内:得られる学びが深いものになっていることが理由だと思います。

弊社には、学生時代に一生懸命研究をしてきた方、専門領域を深堀してきた方が多く入社されますが、「製品となるモノづくり」という経験は、皆さんほとんどしていません。専門用語も、言葉の意味をなんとなく理解しているだけという人は少なくありません。
そのため、モノづくり講座では勉強してきた知識を活かしつつ、現場での知識も学んでもらいます。

座学ではインプットするだけで終わりますが、モノづくり講座ではインプットと同時にアウトプットや、結果をもとにした知識のアップデートもできます。ここまで深くまで学べるのは、モノづくり講座ならではですね。

───多角度的に学べる研修なんですね。

田内:「自分でやる」「結果が出る」「こうしておけば良かったと考える」という一連の流れを、自分主体となって経験できることも大きいと思います。

我々は「自律型人材」を育てたいという気持ちがあります。自分で考え・行動し・成長できる人材になってもらいたいんです。モノづくり講座は、そういった自律思考を育てる一歩として役立っているのかなと思います。

───モノづくり講座を新人研修で行うからこそのメリットは?

田内:「チャレンジした経験」は大きいですね。モノづくり講座を受け、実際にチャレンジしたという経験を持つことで、今後のモノづくりでも積極的にチャレンジできるような意識作りができていると思います。

モノづくり講座で、業務が異なるからこそ学べたこと

2019年に入社したドイツ出身のアレクス カステン氏は、今年モノづくり講座を受けたばかりとのこと。そこで、感想などを伺った。

───モノづくり講座をやってみての感想は?

カステン 氏(以下、敬称略):技術部門ではなく、人事として就職したので、いきなりモノづくりに参加するのは難しかったです。技術的な知識はないので、全体の意見をまとめたり、チェックしたりする立場で参加しました。

人事なので、この講座が終われば、モノづくりの現場に直接関わる機会は少なくなります。だから、モノづくりの体験ができる良い経験だったと思います。

以前はドイツで働いていましたが、製品がどのように作られているかは考えたことがありませんでした。しかし、モノづくり講座を体験した今は、自社製品がどこで使われているのかなど色々考えるようになりましたね。

───色々と学ぶ機会の多い講座だと思いますが、講座が終わった後、仕事に活かせていますか?

カステン:チームとしての動きは、今の仕事でも役立っています。チームとしてどうしたら一番良く動けるか、コミュニケーションができるのかなど、モノづくり講座では限られた時間で一連の行動を考える必要があったので良い勉強になりました。

───ありがとうございました。

【今回取材させて頂いた会社】
TDK株式会社。電子材料の「フェライト」を事業化する目的で1935年に設立。車、スマートフォン、電子製品などに使用される電子部品を扱うモノづくり企業。世界30カ国以上にネットワークを有し、現在、ICT(情報通信機器、コンシューマー製品)、自動車、産業機器&エネルギーの分野において、電子部品のリーディングカンパニーを目指しビジネスを展開している。

取材・文:成田千草

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