“日常茶飯事”という言葉は私達にとって馴染み深いが、その意味を改めて考えてみたことはあるだろうか。“茶飯”が毎日の食事やお茶のことを指すように、お茶を飲むこと、そしてご飯を食べる習慣がしっかりと日常になっていることは昨今少ないように感じる。

沢山の飲み物が溢れている現代で、ジュースやお酒を選びがちであったり、猛暑による夏バテから食事をしっかりととれていなかったりする人は少なくない。

夏場でも心身のコンディションを整え、パフォーマンスを落とさずに過ごすヒントは“茶飯事”に詰まっている。

そもそも夏バテは、暑さを凌ごうと冷たい水を飲みすぎて胃腸の機能が弱ることに始まり、エアコンの効いた室内と屋外との寒暖差が激しく、その極端な温度差の中を移動することで、自律神経に支障をきたすことが影響している。結果的に食細りなどで免疫力が下がり、体力が追いつかなくなってしまうのだ。

夏バテの食細りによって栄養のバランスが偏ることももちろん、汗をかいて電解質が失われた状態は身体にとって負担でしかない。そこで食事と同様に大切になってくる水分補給に、お茶を飲むことが有効だ。

なぜお茶が身体に良いのか、そのメカニズムについて帝京平成大学健康メディカル学部の教授であり、医学博士の松井輝明氏に伺った。

緑茶を飲むメリットと仕組み

——緑茶は私達が日常的に口にしている飲み物ですが、どのような理由で健康に良いのでしょうか?

松井教授:緑茶の成分は他の飲み物に比べて、色々な成分が含まれています。具体的にはカテキン、テアニン、ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB6、カリウム、食物繊維、サポニンなどです。皆さん実は緑茶にビタミンが含まれていることまでは知らないと思います。

緑茶は年間を通してバランスの良い飲み物と言えますね。他の飲み物と比べて一番と言っても良いくらいです。特に夏は緑茶に含まれるカテキンやビタミンの抗酸化作用が紫外線対策に有効です。

——カテキンが身体に良いとは聞きますが、カテキンの効果について教えてください。

松井教授:カテキンの効果としてはまず脂肪の吸収を抑えることですね。それから抗菌作用です。インフルエンザや食中毒に有効とされています。

免疫力が低下している夏は色々な怖い病気が流行りますよね。風邪のウイルスは低温と乾燥を好むので、夏に蔓延するなんて考えづらいにも関わらず、夏風邪が流行し治りにくいのは、それ以上に我々の免疫力が下がっているからです。

カフェインは理解すれば悪ではない

——一方で緑茶などに含まれるカフェインは、身体に悪影響という意見もありますよね。

松井教授:よくカフェインは脱水作用があるので水分補給に向いていないと言われていますが、科学的にもそんなことはありません。

なぜならカフェインと同時に水分を摂取しているので、もちろん利尿作用はありますが、脱水には繋がりません。我々人間の身体の機能は優秀なので、脱水時には自然と水分を保持するようになっています。

——カフェインで夜眠れなくなるからと、控えている人も多いと思いますが。

松井教授:カフェインは交感神経を刺激するので、眠る直前に飲むのはお勧めしません。目安としては夕食の前ぐらいまでが良いですね。カフェインが入っている飲み物は飲む時間を工夫してみてください。

朝など早い時間に飲めば体がシャキッとしますし、血流も良くなるので仕事の前などには良い作用を得られます。時間を意識して効果的に摂取すると良いですね。

——摂取しすぎによる中毒などは怖くはないのですか?

松井教授:緑茶ではまずあり得ません。WHOが定めた基準では子供が過剰摂取しないようにとは言われていますが、成人ならば毎日ペットボトルを2本飲むのを習慣にしたとしても影響はありません。

私は緑茶でカフェイン中毒というのは見たことも聞いたこともありませんね(笑)

夏を乗り切る最強ドリンク“水出し緑茶”

——ではどのくらいの頻度で緑茶を飲んだら良いのでしょうか。

松井教授:1日に飲む緑茶の量は、コップ5杯程度がお勧めです。ただ、静岡の川根町や天竜川、大井川などお茶の産地の方は飲む量がとても多い。さらには天ぷらの衣に緑茶を混ぜるほど、食事としても取り入れているのには驚きです。このように日常的に摂取している地域では、以前から胃がんと大腸がんなどの消化器疾患がとても少ないという調査データがあります。

——なるほど、茶道も伝統的な日本文化ですよね。

松井教授:お茶は元々薬として伝わってきたものですが、それが文化として、さらに飲み物として広がり、これだけ親しまれているからには、日本人にはお茶が一番合っている証拠じゃないですかね。

およそ1500年前から飲み続けられているのには間違いなく理由があるのでしょう。

——お勧めの緑茶の飲み方はありますか?

松井教授:夏に熱い緑茶を飲むのは大変ですから、氷や水で抽出する「水出し緑茶」がお勧めです。水出しではカフェインの量が4分の1になりますのでテアニンの量が相対的に多くなります。

テアニンにはリラックス効果があるほか、カフェインを抑制してくれるので夜寝る前にも良いですね。

——水出し緑茶なら夏でも手軽に飲めますね。

松井教授:専門的な話をするとカテキンは8種類あるのですが、お湯で抽出すると抗酸化作用と抗菌効果が高いカテキンが出ます。対して水出し緑茶のカテキンは違います。これは免疫力を上げるカテキンになるので、夏バテにもとても有効です。

水出し緑茶の作り方は簡単で、お湯ではなく初めから水(5~15℃程度)の中に茶葉を入れて数時間かけて抽出するだけです。水でじっくり抽出することで、旨み成分のアミノ酸が溶け出すほかに、渋みが抑えられまろやかな風味で飲みやすくなります。

今だからこそ「茶飯事」を日常に取り戻す

現代の食事は多様化している。それはもちろん、食自体も飲み物もそうだ。食の西洋化によって腸内環境の悪化が懸念されているように、事実腸疾患の割合は増加傾向にあるのだという。

そんな今だからこそ、日本人が親しんでいる緑茶や白米といった“茶飯事”を見直すべきではないだろうか。とくに飲み物である緑茶なら積極的に日常に取り入れやすい。

さらに緑茶にはまだ健康につながる様々な可能性があるそうだ。松井教授によれば、緑茶は現在も積極的に研究されていて、例えば腸内環境の改善や痴呆の予防など多くの好効果が見込まれている。

ぜひ緑茶を飲むことで、心身のバランスを整えると共に、猛暑が続くこの夏を上手く乗り越えて欲しい。

文:飯森雅子
写真:西村克也