昨今、ビジネスを効率化しようとミーティングツールや顧客管理など様々なサポートツールが登場している。その中でもベルフェイス株式会社では、商談や顧客との面談など“営業に特化したWeb会議システム” bellFace(ベルフェイス)を提供している。同社は「It’s OLD営業」など、キャッチーなフレーズやタレント起用がCMや広告でも話題となっている。
bellFaceはアプリのインストールが不要で、デバイス・ブラウザの種類によらず使用できる。つまり、相手の業種やIT知識によらず商談や打ち合わせを行うことが可能だ。さらに事前の資料共有をはじめ、共有メモで商談相手と同時に閲覧・編集や使用中の録画・録音も可能となっている。営業をする上で、データとして残しておきたいことがしっかりと詰まったシステムでもある。
今回は同サービスの生みの親である、ベルフェイス株式会社の代表取締役社長 中島氏に“営業に特化したシステム開発の背景”をはじめ、“現在の営業が抱える問題点”や“今後のビジネスツールが成長する上で大切な要素”などについて伺った。
カギは営業業務の効率化、インサイドセールスで20倍の効果を達成した原体験
——なぜ、bellFaceは“営業特化”を切り口に製品開発が進められたのでしょうか。
中島:これは私の原体験に由来します。過去に「社長.tv」という、各県の中小企業の社長にインタビューした内容を動画で紹介する広告メディア企業を起業しました。その際に営業拠点である福岡から全国へ電話・メールなどのインサイドセールスを実施したところ、それまで年間300件だった掲載企業を2年間で6,000社まで拡大することに成功したのです。
当初、全国的な代理店展開を予定していましたが、ノウハウの共有やモチベーションの維持など中々上手くいきませんでした。しかし、インサイドセールスに切り替えたところこれだけの成果が出せたので、ビジネスにいかせないかと考えました。
——2年間で20倍もの効果を達成できた要因はどこにあったのでしょうか。
中島:“訪問スタイルの効率化”です。ビジネスといえば、足で稼ぐという精神がいまだに根強いと思います。しかし、限られた人員で全国展開しようとするには、時間もお金も足りません。その中で商談や打ち合わせなど、本質的な営業を多く行うために考えた結果が、インサイドセールスだったのです。
同時にこの手法に限界も感じました。電話やメールだけでは、その場ですぐに資料を見せたり、契約を結んだりするのは難しいです。また担当者の人としての魅力をお客様に直接見せることもできません。
2回目の起業であるベルフェイスは、こうした自身の原体験が反映されたサービスです。現在でもサービスや使用感のフィードバックをメンバーに戻す時、「初めて使うお客様がどうしたら使いやすいか?」を必ず意識しながらコメントします。
営業は30年以上仕事の「あり方が変化しない職種」
——中島さん目線から、これまでの営業の問題点を教えてください。
中島:これまでの営業の問題点は、“行動のブラックボックス化”“社員教育にバラつきがある”などです。
特に営業の中でも、外回りを担当するフィールドセールスに当てはまります。日報などで報告されてるとはいえ、実際にその通りにお客様の元へ訪問しているのかどうかまで会社は分かりません。また営業成果が上手く出ない場合にも、原因は発見しづらいと思います。
ロールプレイングやOJTなどの研修はどこの企業も取り入れてると思いますが、それが直ぐに営業成果に結びつくかと言うと難しいところです。
——つまりインサイドセールスの支援に力を入れているのは、より効率の良い営業を実現させるためということでしょうか。
中島:そうです。bellFaceは契約までのラストワンマイルとブラックボックス化された部分の透明化を担うことが目的でもあります。
インサイドセールスの利点は、“商談効率のアップ”“社員教育の成果が直ぐに分かる”などです。社員教育はフィールドセールスも行いますが、インサイドセールスの場合には同じ空間で仕事をしているため、成果を周囲が把握できます。上手く行かない場合でも、直ぐに相談・軌道修正できるのは利点です。
——日本ではフィールドセールスが主流ですが、インサイドセールスが根付かないのはなぜだと思いますか。
中島:一言で言うなら、日本という国の地形と営業文化です。アメリカでは国土面積の関係から、会いに行くだけで1日を要するというケースが多々あります。例えば、ニューヨークからサンフランシスコまで行こうとすれば、日本からハワイに移動するのと対して変わりません。
そのため、アメリカを始め、ヨーロッパも含めてインサイドセールスが発達したのは必然だと思います。なおヨーロッパにおけるインサイドセールスはセールス全体のおよそ40%を占めていると言われてます。それに対して日本は2〜3%ほどです。
“会わないと相手に失礼”という、日本文化もインサイドセールスの普及を妨げている要因です。実際にユーザーヒアリングをすると、「最初はお客様の反応が不安でしたが、使用を重ねるうちにオンラインが当たり前になった。」という話を頂戴します。
サービスは布石、全てはセールスビックデータの活用基盤
——インサイドセールス領域において、今後どのような事業や展開を検討しているかを教えてください。
中島:2019年7月にインサイドセールスに特化したIPフォンサービス“bellFacePhone” を年内リリースすることを発表しました。
これまでbellFaceはシステムの安定性を考慮し、既存の電話回線を利用していました。しかし、お客様のより良い営業を実現するためには、電話から得られる情報は欠かせません。
電話もサービスとして提供することで、インサイドセールスの全データを獲得できるようになります。
——ここまでのお話から“ビックデータ”の活用を視野に入れて行動されている印象を受けました。実際、いかがでしょう。
中島:私たちが目指すのは“セールスビックデータの活用基盤”を作ることです。bellFaceを始めとする各種サービスは、こうした基盤を築くための布石です。
ぜひ日常の仕事を振り返って欲しいのですが、会社で報告する内容は要点のみを厳選していませんか。もちろん、これはビジネスパーソンとして当たり前だと思います。つまり何十分の一に集約された内容のみが、会社には報告されているわけです。
しかし、実際に得ている情報はもっと膨大な量のはずです。それこそ、顧客がどのようなことに喜んだり、今後必要そうになりそうなことを雑談ベースで聞いたりなど…皆さんにも心当たりはありませんか。
そうした感情、ニーズ、情報といった今後の顧客を知る手がかりとなるデータを効率的に残すためにも、ITを駆使した営業サポートは欠かせないのです。
あくまでツールは道具。大切なのは導入目的と意思決定
——今後、営業サポートツールとしてITはますます欠かせない存在になると思います。その中でより良い成果を出すために利用者が意識すべきことを教えてください。
中島:私が大切だと思うのは、導入目的を企業内で意思疎通できているかです。いくらツールがあったとしても、意思決定や導入意義が社内で定まってなければ成果は出ません。
例えば、過去にこんなお話をいただいたことがあります。
「2ヶ月後にどうだったか、結果だけ教えて」
このような他人任せな感じでは、成果を高めることは難しいと思います。ご自身が当事者として動くことはもちろん、導入によって何を会社として変えたいのか、達成したいのかなど含め、利用者に共有することが重要です。
意思や意義が共有されていなければ、形骸的な導入で終わってしまい、ツール自体も本来の能力を十分に発揮できないまま終わってしまうからです。
——このお話は営業を始め、マーケティングや企画などあらゆる職種に当てはまる本質だと思います。こうした意義を持って行動するために、より重要となることは何でしょうか。
中島:“習慣を変える価値がある、それに向かって行動できるか”だと思います。私たちを始め、B to B向けのSaaS事業は、言ってしまえば“利用者の習慣を変えるサービス”です。
ですがこれまでの習慣が根強いほど、頭では便利だと分かっていても、「手間が増えるかも」「実は大変かも」と実践する前から考えたり、行動に変化が起こせないのが人間です。
だからこそ、導入における本当の意味での費用対効果が何なのかを明確にした上で、社員の習慣を変えてでも導入する価値があるのかを考えて欲しいのです。例えば、“PDCAをとにかく早く回したい”“将来の事業を見据えたビジョン”など企業によって様々な理由があるはずです。
ぜひ導入を目的にせず、導入までの道筋とそれからの変化に覚悟を持って営業ツールは決めて欲しいと思います。
取材・文:杉本愛
写真:西村克也