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セックスアイテムでお馴染みのテンガがアメリカで行った調査によると、同国の男性の95%と女性の81%がマスターベーションを経験したことがあるとしながらも、そのうちの半分以上が「そのことを人には言いたくない」とし、全体の29%はマスターベーションの有無や頻度について嘘をついていると報告している。
その理由については家族や恋人、友人に知られたら恥ずかしい、もしくは気まずいからだという。
このように、どこか閉鎖的で時にネガティブなイメージさえ付きまとう「セックス」というテーマだが、アメリカでは今、この現状に変化が生まれている。
「セックスについて知識を深めること=自分をより深く知ること」としてウェルネスと結びついたビジネスが多く生まれており、「セクシュアル・ウェルネスマーケット」が活況を迎えている。同市場は2024年にはグローバルで390億USドル規模にまで成長するとの予測も。
本稿では、このような市場の盛り上がりを牽引し、セックスのイメージをもっとヘルシーでオープンにするために奮闘するアメリカの女性起業家たちが提供するプロダクトとサービス、そして若い層で起こるセックスに対する意識の変化について深掘りする。
性に関することならおまかせ。若い女性に人気のWebサイト
「Allbodies」は性についての学び、買い物体験をワンストップで提供するデジタルプラットフォーム。
同サイトでは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の婦人科が定めたガイドラインに則り、医学的見地からのチェックを経た月経・妊活・避妊やLGBTQ+など、性をテーマにしたさまざまなコンテンツを配信している。
Allbodies(同社の公式Webサイトより)
またオンラインショップでは、バイブレーダーから排卵チェッカーまで女性が各ライフステージで使用するあらゆるセックス関連アイテムを扱う。これまでなら、セックストイと排卵チェッカーが同じカテゴリーで販売されることは珍しかったのではないだろうか。
さらにユーザーはWebサイトを通してAllbodiesがオススメする産婦人科やセラピスト、中絶サポートシステムなどの検索サービスを無料で利用できる。
共同創始者のアッシュ・スピヴァク氏は「このサービスで大儲けしようとは考えていない。セックスの悩みを含め、身体のことを大切に考えることがより当たり前になれば」とNYLONに対して語る。
ドゥーラ(出産に関するアドバイスやサポートを行う女性)としての勤務歴も持つスピヴァク氏は、医療現場で患者女性が医師の独断や偏見により望む治療を受けられなかった姿を何度も目にし、女性の持つ性知識を向上させ、自分の身体を大切にすることを教えることがこうした医療現場における理不尽な扱いを減らすことにつながると思い、Allbodiesをスタートさせたという。
Allbodiesの明るい色合いのWebサイトやSNSアカウントのデザインは、若い女性にとってアクセスするハードルを下げるだろう。「性的な充足を求めることは、自分の身体が発しているメッセージに耳を傾けること。
何が気持ちよくて何が気持ち良くないのか、色々試してみることが大事」というスピヴァク氏の言葉が若い世代に届くとよい。
ポップでキュートなセックスアイテムのサブスクサービス
アメリカではこのところバイブレーダーの売り上げが伸長しており、Technavioによると2020年までに市場は12%成長するとみられている。アメリカ・ラスベガスで毎年開催される世界最大規模の家電見本ショー「CES」でも2020年に健康とウェルネス部門に初となるセックストイが登場することも同市場の盛り上がりを示している。
宇宙船の形をしたマスターベーション用トイ「Saucy」が大ヒットし、2018年には400万USドル(約4億2千万円)の収益を上げた “セックストイの先駆者” こと「Unbound」。共同創始者であるポリー・ロドリゲス氏はDezeenに対して「ベッドサイドに置いても違和感や恥ずかしさを感じないアイテムを作りたかった」と話す。
その理念のもと作られたUnboundのアイテムはどれもピンクやブルーなどで、お洒落なビューティーアイテムといった方がしっくりくるような佇まいだ。
同社のアイテムの中でもサブスクリプションサービスが人気で、四半期に1回、毎回中身の違うセックス関連アイテムの詰まった「楽しみボックス」が届く。
中身は例えば、バイブとさるぐつわ、そしてセックスを盛り上げるカードゲーム(「触られて嬉しいようにパートナーを触って」や「お気に入りの前戯は?」など)。
個別に買うと合計10,000円以上するが、サブスクなら6,887円。Webサイト上には「簡単に気持ちよくなれて見た目も可愛い」や「マンネリ化していたパートナーとのセックスが再び楽しくなった」など好意的な200以上のレビューが投稿されている。
Unboundのサブスクリプションサービス(同社の公式Webサイトより)
またエリア69とネーミングされたリワードプログラムによるユーザーの囲い込みも、同社のファンを増やすのに一役買っている。
買い物をしたりレビューを書いたり、また同社のSNSアカウントをフォローするたびにポイントが貯まり、貯めたポイントは次回以降の購入時に反映される。保有ポイントによって、ポイントの還元率が変わったり、新商品やセールに事前アクセスできるという。
Unboundの公式インスタグラムアカウントのフォロワーは10万人以上。つまり、同ブランドは若い女性にとって「(友達の目に触れる)SNSでフォローしても問題なし」なブランドであるということだろう。
参考までに、前出のテンガのアカウントのフォロワーは約7,000人であることを考えると、Unboundがもたらした「性をオープンに」という功績は大きい。
他にもマッサージに使えるCBDオイルやクリトリスにより深い快感をもたらすジェルなども取り扱うが、どれもブランドカラーであるピンクやブルーを基調としたポップで親しみやすいデザインだ。
「私たちは性に関して正しい理解が浸透することを信じ、活動しています。私たちの身体がどうすればどう感じるのか、それを知ることは個人の健康を増進するうえで欠かせないものだと考えます」とロドリゲス氏はJWT Iintelligenceに対して語った。
Unboundのアイテム(同社の公式Webサイトより)
セックス・エデュケーションの場も提供
2017年の創業後、アメリカのミレ二アル世代を中心に熱狂的なファンを抱える、また別のセクシュアル・ウェルネスアイテムを扱うDTCブランドが「Maude」だ。
同社のアイテムで人気なのがコンドーム、潤滑油とバイブがセットになった「エッセンシャルセット」は$82(約8,700円)で、ミニマルなパッケージがこれまでのセックスアイテムの持つイメージとは一線を画しており、そのスタイリッシュさから”インスタ映えするセックス用品”とも言われているとか。
Maudeはアースカラーをベースに落ち着いた印象のパッケージ(同社の公式Webサイトより)
またMaudeが取り扱うキャンドルは燃焼後はマッサージオイルとしても使用でき、100%ヴィーガンの原材料にクルエルティフリー(商品や活動が動物を傷づけたり殺したりしていないこと)であるなどその生産工程にもこだわりが見える。
潤滑油もパラベン・グリセリンフリーでオーガニックの原材料を使うなど、どんな肌質のユーザーにも優しいクオリティである点もMaudeが支持される理由の一つだ。
さらに同社は、アメリカ国内で定期的にセックスに関するワークショップを開催している。現在はニューヨーク・ブルックリンのスタジオにて他のインディーブランドとともに「ステイケーション(自宅で過ごすバケーションの意)」をテーマにしたポップアップイベントを開催中でニューヨーカーたちに人気を博している。
Maudeのイベント「ステイケーション」の様子(同社の公式Webサイトより)
本稿で紹介したブランドは、セックスとは疲れた身体をマッサージするのと同様に、日常のセルフケアの延長線上にあるのだということを教えてくれる。性的なトピックがタブー視され、女性がセックスに積極的だと「淫乱」や「ビッチ」などのレッテルが張られていた時代はもう終わりつつある。
今後は、男女ともに自身のセックスに目を向け、自分自身の性を大切にすることがより重視されていくだろう。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)