世界全体の労働者人口に占める女性の割合は約40%(世界銀行)。欧米においては概ね45%以上となっている。米国、英国、フランス、ドイツ、スイス、オランダともに46%台。

その中でも北欧は47〜48%と比較的高い割合だ。フィンランドは48%、スウェーデンは47.7%、デンマークは47.4%、ノルウェーは47.1%。またニュージーランド(47.4%)やカナダ(47.3%)も比較的高い数値を示している。

これらの国々の時系列データは、労働市場における女性割合の上昇傾向を示しており、女性の社会進出が進んでいること示唆するものとなっている。持続可能な開発目標(SGDs)の1つであるジェンダー平等と女性・女児のエンパワーメントに関して、状況が改善されている可能性を示すものと読み取ることができるかもしれない。


NZ、US、スイスの労働者に占める女性割合(世界銀行ウェブサイトより)

一方、給与や職種、組織内でのリーダーシップに関して、男女間で依然大きな差が存在している。特に、第4次産業革命の文脈で重要性を増しているテクノロジー関連職種の女性比率はかなり低い状況だ。

たとえば、Eurostatのデータによると、欧州ICT分野の専門職における男女比率は、男性83.3%であるのに対し、女性は16.7%にとどまっている。また米国家科学委員会のデータによると、米国における理系学位取得・男女比率では、男性64.5%に対して、女性は35.5%。エンジニアリングとコンピュータ・サイエンス分野で特に低い値となっている。

現在、労働市場で大きなウェイトを占めている世代グループは、X世代(1960〜79年生まれ)とミレニアル世代(1980〜95年生まれ)。両世代でSTEM分野における女性の教育・就職が活発でなかったことが、このような状況を生み出した要因の1つとして考えられるだろう。

しかし「デジタル・ネイティブ」と呼ばれるZ世代(1995〜2010年生まれ)の女性がこの状況を大きく変えるかもしれないとして注目の的になっている。

Z世代女性がSTEM分野でどのような変革をもたらそうとしているのか。海外の最新動向をお伝えしたい。

STEM分野の進学・就職における男女差

まずテクノロジー分野における男女比率について、各国の現状を紹介したい。

冒頭で、北欧の労働者に占める女性比率が高いことをお伝えした。世界平均が約40%であるのに対し、フィンランド48%、スウェーデン47.7%、デンマーク47.4%、ノルウェー47.1%。

一方、デジタル・テクノロジー分野における女性比率を見ると、違った風景が見えてくる。EurostatのICT専門職・国別男女比率データによると、スウェーデン、フィンランド、デンマークともに女性の割合は20%ほどにとどまるものとなっているのだ。このほかオランダとベルギーでは15%などとなっている。

この男女差は教育段階から明確にあらわれている。欧州の大学におけるコンピュータ・サイエンス系コースに所属する女性の割合は、欧州全体で18%ほどしかないのだ。国別では、フランス16.5%、ドイツ18%、オランダ12.5%、スイス8.9%、英国19.4%など。

米国におけるコンピュータ・サイエンス系コースの女性割合は、学部で18.7%、修士で30%、博士で20%ほどだ。

テクノロジー分野においてなぜこれほど女性比率が低いのか。PwCが英国で実施した調査では、そのいくつかの要因があぶり出されている。

同調査では、テクノロジー分野のキャリアを第一志望とする女性の割合は3%であることが判明。その理由として、情報・アドバイス不足(61%)やテクノロジー関連職における男性優位性(26%)などが挙げられている。また、83%の女性がテクノロジー分野のキャリアでロールモデルとする女性がいないと回答。これらが複合的に重なりあい、テクノロジー分野への女性進出を妨げていると考えられる。

「デジタル・ネイティブ女性」が切り開くテクノロジーキャリア

一方で、「デジタル・ネイティブ」と呼ばれるZ世代は、世代全体的にテクノロジーへの適応性が高く、テクノロジーキャリアにおける男女差が縮まる可能性が期待されている。グローバル人材会社ランスタッドがミレニアル世代とZ世代を対象にした調査で、このことが示唆されている。

同調査の「教育過程で労働市場に適応するための十分な準備ができたかどうか」という質問では、「準備ができなかった」と回答した割合がミレニアル世代で38%だったのに対し、Z世代では32%となったのだ。Z世代は教育過程でデジタル・テクノロジーへの適応力を高めていることが示されている。

また「キャリアにおいてリーダーシップを取れるポジションを目指すかどうか」という質問では、「目指す」という割合はミレニアル世代で79%だったのに対し、Z世代は84%。Z世代の方が若干野心的であることが示唆されている。

さらにHackerRankが実施したZ世代のプログラミングスキルに関する調査では、Z世代女性の特徴があぶり出されている。

HackerRankは英語圏を中心に500万人ほどのユーザーを抱えるプログラミング学習サービス企業。このほどZ世代を含めた1万2000人を対象に調査を実施した。

この調査では、まずZ世代女性が上の世代の女性に比べ早い段階でプログラミングを学び始めたことが明らかになった。プログラミング学習を開始したのが16〜20歳の間だというZ世代女性は約70%。これに対しミレニアル世代を含めた上の世代では55%だった。また、学習開始年齢が15歳未満との回答は、Z世代女性が約30%であるのに対し、上の世代では約18%となった。

Z世代の男女比率でも興味深い特徴があらわれている。「どのプログラミング言語を知っているか」という質問では、Cが最も高く80%のZ世代女性が知っていると回答。この割合はZ世代男性の77%よりも高い数値だ。またC++に関しても、女性が70%、男性が68%という結果になった。C系言語はコンピュータ・サイエンスなどでよく利用される言語であるため、男女ともに高い割合になっていると思われる。


Z世代が使うプログラミング言語(「2019 Women in Tech Report」より)

この調査で特筆すべきは、欧米のテック企業で需要が高いといわれるPythonやJavaに関して。Javaは女性が72%、男性65%とC言語同様に女性がリードする形になっているのだ。またPythonでは、女性59%、男性62%と両グループともに高い割合となっている。テクノロジーキャリアの追求で、男性プログラマー以上に女性プログラマーがスキル習得に力を入れていることが示されているといえる。

このほか、統計・科学計算で多用されるR言語でも、Z世代男性の9%に対して、女性が13%とリードしている。

現在、STEM分野の中で女性割合が比較的高いのが生命科学や生物医科学といわれている。今後さらに多くのZ世代が大学に進学し、労働市場に入ってくるに伴い、ロボットやコンピュータ分野の女性割合が高まり、STEM分野全体の男女差を縮めていくことになるのかもしれない。STEM分野におけるZ世代女性の活躍に期待が寄せられる。

文:細谷元(Livit