人間ドック×デジタルで予防医療の浸透を目指す、KRD Nihombashi

身体のトラッキングの重要性

Webやアプリでサービスを提供している会社なら、間違いなくサイト解析やアプリ解析を行っているだろう。ユーザーの行動をトラッキングして、サイト上に問題がないか、うまく動作していないところはないかなどを探ることが可能だ。

また、正常値を把握しておけば、異常値の認識や異常個所の把握、適切な対応が可能となる。それでは、これを身体に置き換えたときに、身体のトラッキングを行っている人はどれくらいいるのだろうか。

体重、血圧、脈拍から血液検査や内臓の検査など、計測できるものはたくさんある。多くの会社員が受けているであろう年に一度の健康診断も計測の機会だ。

しかし、その瞬間だけ意識が高まって終わってしまっている人が多いのではないだろうか。定点観測して継続的に計測すること、そして知識をつけてその結果から行動を変えられること、そして信頼し相談できる人がいることが重要である。

人間ドックによる身体のトラッキング

人間ドックは自覚症状に関わらず病院や診療所で受ける健康診断の一種で、身体各部位の精密検査を受けることで身体の健康度や普段気づかない疾患や臓器の異常などをチェックする。

そんな身体のトラッキングに適した人間ドックだが、現代社会に最適化されているわけではなかったかもしれない。紙で問診に答えることは時間もかかり回答も煩雑になりやすい。また結果のデータも紙で印刷されても、家に帰ってしまえば、再度閲覧されることはほとんどない。仕事が忙しいと健診の待ち時間や拘束時間も不都合が多い。

そんな人間ドックをデジタル活用や施設の複合化、デザインで現代仕様にアップデートしているのがKRD Nihombashi(以下、KRD)だ。

デジタル問診、バーコード診察、料理イベント

KRDは、人生100年時代に合わせwork life integrationを実践する人のため、健診をリデザインした施設だ。具体的な特徴はデジタル活用、健診内容の充実、セミナー実施などのコミュニティ化、そしてそれを支えるハードとしての施設環境だ。


オンライン問診の画面

まず、事前の問診は健診5日前から始まりすべてオンラインで行われる。健診までの5日間の食事状況に加えて、これまでの病気や健康状態などについて数日間に分けて回答する。

健診を受ける当日までに紙で記入する従来の方法だと、質問項目が増やせないことや、すぐに記入を終えたくて回答が雑になる点などにより正確なデータがとれなかったり、確認時に非データなため無駄な時間がかかったりしてしまうことがあった。

オンラインで問診できると、時間があるときにいつでもどこでも回答できる点や、数日に分けることで多くの情報を確認できる点、そして結果がデータとして確認しやすいなどのメリットがある。

そして健診当日の受付はすべてスマホで表示可能なバーコードで行われる。これも正確に効率的に検査データを紐づけられ、オペレーションもスムーズになる施策だ。そして健診後の検査結果はクラウド化され、いつでもデータを確認できる。

ほぼ多くの人が紙でもらった診断結果をみるのは受け取り後48時間以内でそれっきりである。データであればいつでも容易に振り返ることができる。

また、健診内容については「歯」と「目」と「血」を重視するのがKRDの特徴だ。それぞれ生活習慣病に対して密接にかかわるため、専門性の高い検査を一度に行うことで、これまで以上に幅広い視点から検査を行うことができる。

また、さらに知識のインプットとして健診施設に併設したスタジオを利用したセミナーやイベントが定期的に開催されているのはこれまでに例を見ない。健診を受けておしまい、ではなく知識のインプットやフォローアップなど中長期的にかかわることで健康に対する意識と知識が高まる。

そしてそれらを支える施設環境は、多目的に使えるスタジオ併設だけでなく、健診時に仕事も出来てしまうWiFiやコンセント、デスクの環境が整う。また、健康になってどうしたいのか(WHY)、どうやって健康になるのか(HOW)を考えるインプットに有効な書籍が選書され、専用にデザインされた快適な椅子やソファが並ぶ。これまでの健診施設とはまるで異なる設計となっている。

このように、これまでと全く異なるコンセプトの健診施設はどのようにして出来上がったのだろうか。田中岳史院長に話を伺った。

自分らしくいれる健康寿命が大事

田中院長:「日本は世界でみても長寿国と言われています。長寿といっても、寿命には平均寿命と健康寿命の二つあるんです。平均寿命として語られるのは命がなくなるまでの時間です。

しかし健康寿命というのは生まれてから自立して自分の力で自分らしく生きている時間です。この二つの寿命の差が10年あると言われています。つまり極端にいえば、死ぬ前の最後の10年が寝たきり、ということもあるのです。そういった中で、健康寿命を延ばし、できるだけ長く自分らしく生きていけるようにするというのが命題としてありました。

これは歳をとってからの対策ではなく、20代・30代の若いうちから自分の体のことを意識し、健康に保つための知識をつけ、知恵として実行しなくてはなりません」

平均寿命が長くなっていることに目が向きがちだが、大事なのは健康寿命と語る田中院長。そしてそれは若いうちから行動を変えることで変化するものであり、現代の健康診断に対する課題についてこう続けた。

田中院長:「年に一回の健康診断がありますが、その瞬間だけ意識をする人がほとんどだと思います。前日だけお酒をやめる、などです。そうではなくしっかりと中長期で伴走できる体制、ツールが必要だと我々は考えました」

健康寿命のために必要な一次予防

田中院長:「予防医療には三つの予防があります。一次予防は未病の状態で、健康の啓発や健康の維持、増進などです。身体に異常事態が起きないようにすることです。

二次予防は、病気が潜在的にあるが問題がおきていないという状態です。糖尿病だけど痛くない、高血圧だけど痛くないという状態です。大事にならないように、早期に病気を発見し早期に治療をするために行われるもので、これまでの医療は二次予防に向いていたと思います。三次予防は治療後のリハビリテーションなどを通して一日も早く社会復帰する事などです。当施設は完全に一次予防に軸足をおいているのが特徴です」

一次予防に重点を置くことで他の施設との違いを語る田中院長。そして中身の特徴についても大きな違いがある。

田中院長:「一次予防として健康を維持、増進してもらうためには、まずは自分の身体を把握してもらうことが大事です。なので例えば血液検査などでも通常の人間ドックなどよりも倍以上の項目を用意しています。

また目についても、現代の生活環境は過去と大きく異なり、PCやスマホを毎日目にする生活で、家族や恋人の顔よりも多くみていると思います。これは目に大きな負担をかけており、異常が起きうる可能性があります。そして歯科についても検査します。実は口というのは全身の健康の窓口となっています。歯周病がある人のほうが、他の様々な病気に影響していることがあります。なので当施設では、血液だけでなく目と歯も大事にしているわけです」

身体を把握したあとは知識をつけて行動を変える

田中院長:「知識のインプットのために各種イベントも開催しています。もちろん勉強も大事ですが、楽しく学んでいただく機会を提供しています。そしてどのように行動を変えていくべきか、健診当日や半年後のフォローアップ診断などの機会でサポートし、またその先まで伴走していきます。

実際に行動を変えて、結果がでると嬉しいものなんです。そうすると、次もやってみようと良い連鎖が生まれていき、継続していけるんです。なので、意識とアクションを継続してもらうためにフォローアップが非常に重要です」

人間ドック×デジタルはエマージェンシーツールにもなる

田中院長「もう一つ大きな特徴はクラウド活用です。申込時に事前同意を得たうえで、問診のデータ、健診のデータなどがクラウドに蓄積されます。これは個人情報とは紐づけずに完全に場所を分けて管理されているため、ハッキングによるリスクにも対応しています。クラウド管理にはいろいろなメリットがあります。

スマホで簡単に結果を確認できることで、気軽に身体のことを意識し振り返ることが可能です。身体のことを意識する機会を増やすことは非常に大事です。また、問診の正確さが圧倒的に高まりました。家でゆっくり集中して回答できるのが理由ですが、健診にとって問診はすごく大事なんです。他にも、オペレーションの効率化などもあげられます。健診の予約もオンラインで管理でき、時間が割り振られます。

他にも、実はエマージェンシーツールにもなるんです。何か事故にあってしまった救急の際に、運ばれた病院で自分のデータを見せると、それは救急治療における非常に有効なデータとなります。これは今後の医療業界において、可能性を広げていくもので、ハードルとしては臨床よりも健診など予防の領域で先に進むかもしれません」

デジタル活用で一次予防の浸透へ

田中院長が語るようにKRDは新たなコンセプトとデジタル活用、機能をもって一次予防の浸透を目指している。少子高齢社会により医療費の拡大や若い勤労世代が高齢者を支えていくというシステム自体が崩れつつある中で、健康な人が増えていくための一次予防は非常に大事なアクションである。

また、人間ドック×デジタルのもつ社会的な可能性も大きいだろう。これは医療データの活用による可能性である。データの話題になると、プライバシーを守る欧州のGDPRの話題や積極活用するGAFAの話題などで二極化した議論になりがちだが、医療データにおいては社会の価値創造のために活用するという選択肢があってよいだろう。

通常医療データは疾患のある人が病院に行くことで得られるデータが多い。しかし日本は、疾患のない人が健診を受ける仕組みが整っており、海外と比較して多くの健常者データがとれる。この健常者データを活用することで予防医療の領域でさらなる進歩につながるのでは、と期待される。

取材・文:木村和貴
写真:西村克也

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