男性主体のスポーツ界で、今多くの人が女性スポーツに魅了されるワケーー海外メディアも「女性スポーツ」に本腰


東京オリンピックを来年に控え、国の代表選手選考が進む。各国でメディアがスポーツを取り扱う機会も増えてきた。

そんな中、最近海外では、「女性スポーツ」への注目度が急速にアップしている。メディアは女性スポーツを専門に取り上げ始め、企業は積極的にスポンサーとして名乗りを上げ、女性選手をブランドアンバサダーやモデルに起用している。

今まで男性独占の感があったスポーツ界に、女性選手が新風を巻き起こしている。なぜ今、そして女性スポーツならではの魅力とは何なのだろうか。


女性・女子のスポーツ参加が増えれば、女性スポーツに興味を持つ人も増加するといわれている
Image by KeithJJ


スポーツ界における男女差の見直し

男女格差はスポーツ界にも存在する。給与や待遇の面だけではなく、メディアなどでの取り上げられ方や頻度にも見られる問題だ。それにも関わらず、海外で女性スポーツが台頭してきているのは、幾つかの出来事を経てきているからだろう。

例えば米国では、スポーツ参加の段階ですでに男女の差があった。教育改正法第9編(1972年)、通称「タイトルIX」が導入されて初めて、連邦政府による、教育活動に対する財政支援に性差別がなくなり、高等教育を受ける男女に平等に行きわたることが保証された

米国ペンシルベニア大学で政治学の教鞭を執るチャールズ・ケネディ氏によれば、これによって大学対抗競技会に参加する女性数が爆発的に増えたそうだ。

また2012年ごろから「第四波フェミニズム」が始まっている。女性のエンパワーメントと、インターネットの利用が特徴だ。ハラスメントに対する正義や、男女に平等な仕事が与えられ、またその仕事に対する給与も平等であること、自分のことを自分で決める権利などを主に求めている。

SNSなどインターネットを通して一挙に拡散するこの風潮はスポーツにも影響を及ぼしている。最近は男子・女子というカテゴリー分けなどにまで疑問が投げかけられるようになっている。

時を同じくして行われた、2012年オリンピックロンドン大会も重要な意味を持つ。競技種目数が初めて男女同じになったのだ。

米国についていえば、送り込んだ選手数は女性の方が多く、また金を含めたメダル獲得数も女性選手が男性を上回ったそうだ。同時に、参加の各国代表チームすべてに最低1人の女性選手が含まれていたことも特筆に値する。


「お金ではない」――多岐にわたる女性スポーツの魅力


米国のマーケティングリサーチ会社ニールセンが2018年に、「ザ・ライズ・オブ・ウィメンズ・スポーツ(女性スポーツの台頭)」という調査書を発表した。

米国、英国、フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、オーストラリア、ニュージーランドの8大マーケットが対象だ。これによれば、調査対象者の84%もが、女性スポーツに興味があると答えている。

「ザ・ライズ・オブ・ウィメンズ・スポーツ」で注目すべきは、「女性スポーツには男性スポーツにない魅力がある」という指摘だ。男性スポーツと比較して女性スポーツは、金もうけ主義の色が薄く、不正行為も少ない。人々によりインスピレーションを与え、家族皆で観戦するのに向いているというのだ。

「お金ではない」というのは、女性選手のコメントによく登場する。2014年にFIFA女子最優秀選手賞と欧州サッカー連盟(UEFA)欧州女子最優秀選手賞を受賞した、ドイツの元女子サッカー選手、ナディネ・ケスラーさんは英『ガーディアン』紙に、「試合に金銭以外の価値があるということを示すことに意義がある」と言っている。

また7月末にネットボール・ワールドカップで、16年ぶりに優勝を決めたニュージーランド代表チーム、シルバー・ファーンズに優勝ボーナスが出ないことが物議を醸した。

直前に、クリケット・ワールドカップで同国代表のブラック・キャップスが2位に終わったにも関わらず、300万NZドル(約2億2,000万円)を獲得したこともあり、スポーツ界における性差別と批判された。

最終的には企業数社からシルバー・ファーンズ各選手に2万5,000NZドル(約180万円)のボーナスが出ることで決着がついた。しかし、女性選手たちは地元紙のインタビューに対し口々に、「私たちはお金のためにプレーをしているわけではない。ワールドカップでの優勝はお金には代えられない」と言い切っている。


デンバー・ブロンコスのボン・ミラー選手と女性選手。男性のスポーツと考えられがちなアメリカンフットボールにも女性が進出している
© Adidas

ポジティブなメッセージは、企業にとって魅力

クリーンで、家族向き、そしてロールモデルにもぴったりである点に、企業も女性スポーツに価値を見いだし始めている。女性選手たちが発信するポジティブなメッセージは、企業の欲するところだ。

先のニールセンの調査によれば、全体の84%を占める、女性スポーツに興味があると答えた人の中で、特に16~24歳の年齢層が目立つことがわかった。ブランドの知名度を上げ、収益につなげるために取り入れるのには格好の年齢層といえる。

企業によるアプローチで特に画期的と注目されているのが、VISAによるスポンサーシップだ。7年間にわたり、UEFA女子サッカーとスポンサーシップ契約を結んだ。女性選手が参加する試合のみに絞られている点で、高く評価されている。

UEFA欧州女子選手権、UEFA U-19女子選手権、U17女子選手権、加えてUEFA女子フットサルも含まれる。サッカーをプレーすることで女子に自信を与える、UEFA「トゥゲザー#ウイ・プレイ・ストロング」イニシアチブにも協力している。

アディダスは「シー・ブレークス・バリアーズ(彼女は障壁を乗り越える)」という活動を行っている。女性が直面するハードルを指摘し、それを取り除くことが狙いだ。プロモーション・フィルムには、インフルエンサーでもある、アディダス専属のスポーツ選手を起用している。

ほかにも大学の研究への協力、女性選手をサポートする米国アメリカンフットボール競技連連盟(WNFC)とのスポンサー契約、女子サッカーキャンプへの協力、女性スポーツイベントの開催など、数々の活動を通し、スポーツ界における女性のエンパワーメントに力を貸している。

英国ドラッグストアチェーンのブーツは2019FIFA女子ワールドカップを前に、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、アイルランド代表チームの3年間にわたるスポンサーを買って出ている。

ほかにも英国の国際金融グループ、バークレイズ、スーパーマーケット・チェーンのリドルなど、業種を問わず女性スポーツへのアプローチを行っている。

女性スポーツの「ブランド」としての確立はまだだが、市場拡大の速度は速い。2013年から2017年にはスポンサー契約の数は47%、価値にすると30%以上の伸びを見せている。まだ未成熟な分、少ない予算で運営されている企業にも手が届く。


Change The Game

メディアも女性スポーツのジャンルを新設


女性スポーツのポテンシャルが明らかになってくるにつれ、企業だけでなく、メディアも女性スポーツを熱心に取り上げるようになっている。

英国大手新聞、『デイリー・テレグラフ』のオンライン版である『ザ・テレグラフ』は、今年3月から、女性スポーツを専門に取り扱う「テレグラフ・ウィメンズ・スポーツ」を開始した。ツイッターやインスタグラムでもファンが話題を追えるようにし、登録すれば定期的にニュースレターを受け取ることもできる。

英国放送協会(BBC)も、5月から「チェンジ・オブ・ザ・ゲーム」と名づけ、夏季に行われる女性スポーツの試合を生放送している。カバーしたのは、サッカーを中心に、ネットボール、ウィンブルドンテニス、クリケットの試合。人々はこれらを無料で視聴するチャンスを得た。

一方、米国の大手メディア、『ザ・アスレチック』は、ネット上に女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)の話題に特化したコーナーを設けている。

ドイツでサッカー人気を盛り立てた、ナディネ・ケスラー元選手は、VISAとのスポンサー契約が成立したことを、女子サッカーが新たな段階に入ったと見ている。商業的価値が見いだされたとしているのだ。

確かにこれは女性スポーツの重要性が認められたことに言い換えられるだろう。しかし、女性スポーツの良さはクリーンな点にある。金もうけ主義に走らず、「お金ではない」といつまでも言い続けられる存在であってほしい。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

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