最後に夜空の星を見上げたのは、いつだろうか?
もしかすると「プラネタリウムで」と答える方もいるかもしれない。

都心で満天の星を楽しむことができ、夏休み定番のレジャースポットとして人気を誇るプラネタリウム。さらに近年は、ミレニアル世代の「新感覚のデートスポット」や「癒しの場」としても注目を集めている。この静かなブームを牽引しているのが、コニカミノルタプラネタリウムだ。

コニカミノルタプラネタリウム株式会社は、池袋サンシャインシティにある“満天”、東京スカイツリータウン®にある“天空”、そして2018年に銀座・有楽町エリアに開業した「コニカミノルタプラネタリア TOKYO」の3館を運営している。いずれも大人をターゲットとしたハイエンドな設備や上映プログラムが特徴だ。

また、同社はプラネタリウムの投映機器を手掛けるメーカーのなかで、一般客向けの上映施設(以下:直営館)を持つ世界唯一の企業でもある。ビジネスとしてのプラネタリウムを熟知している今、何を見据えているのだろうか。広報を務める佐野氏に、プラネタリウムの最前線を聞いた。

佐野 大介(佐はにんべんに「㔫」)
コニカミノルタプラネタリウム株式会社 営業統括部 直営推進部 企画グループ
2014年にコニカミノルタプラネタリウム株式会社に入社し、自社直営プラネタリウムのPRを担当。上映作品の企画やキャスティングにも携わるほか、プラネタリウムを舞台としたライブイベント「LIVE in the DARK」のプロデュースも手掛ける。

年間870万人が見上げる星空。大人をメインターゲットに、観覧者数は増加傾向

——夏のレジャースポットとして人気のプラネタリウムですが、年間どれくらいの観覧者がいるのですか。

佐野:日本には380館ほどのプラネタリウムが稼働しており、総観覧者数は872万人にのぼります(2017年度推計値)。観覧者は毎年少しずつ増えていて、10年前と比べると約140万人のプラスです。

——少子化の影響で来場者は減少すると思いきや、観覧者は増加傾向にあるのですね。

佐野:当社が運営している直営館である“満天”が15年前、“天空”が7年前に新設されたことや、名古屋市科学館・大阪市立科学館・多摩六都科学館といった大型のプラネタリウムの集客が安定していることが主な要因です。いま名前を挙げたのが日本で観覧者の多いプラネタリウム上位5館で、各館の観覧者数を合計すると全体の17%を占めています。


コニカミノルタプラネタリウム“満天”リニューアルムービー

——プラネタリウムが他のシアター型コンテンツと異なるのはどのような点ですか?

佐野:映画などと比較すると、いくつかの違いがあります。まずは、プラネタリウムのコンテンツの特徴と来場目的に大きな違いがあります。

1つ目のプラネタリウムのコンテンツの特徴として、制作費のリクープ(費用回収)に時間がかることと、上映期間が半年〜9ヶ月ほどと長いことが挙げられます。これはコンテンツの制作コストが(特殊な映像技術と用いるため)高いにもかかわらず、上映できる施設数と座席数が少ないことが理由です。コニカミノルタプラネタリウムの場合は一つの上映プログラムを他館に場所を移して上映することもあります。そのため、「太く長く」愛される内容であることが求められます。

2つ目の「来場目的」について、プラネタリウムは、映画のように特定の上映タイトルが目的になるというより、デートの選択肢のひとつとして選ばれることがほとんどです。上映時間も1時間ほどと短いので、他のレジャー施設といかに組み合わせて回遊してもらうかが大切です。

——興味深いです。一般的なプラネタリウムの特色に加えて、コニカミノルタプラネタリウムならではのポイントはありますか。

佐野:収益化の構造です。プラネタリウムの施設運営には膨大なコストがかかるため、ビジネスとして収益化するのが非常に大変です。投映機器やドームの設置費用に加え、メンテナンスにも専門技能を持ったスタッフが必要です。客単価は一人あたり約2,000円と映画とほぼ同水準ですが、これは自社で設備と人材をまかなえるからこその価格です。

そうでなければ事業として到底コストパフォーマンスが合いません。プラネタリウムを一つの事業として維持・成長させるためには、値段に見合った価値をお客様に感じていただく必要があります。そのためにも私達は空間づくりやコンテンツ、スタッフのホスピタリティなど、細部に至るまでこだわっています。

プラネタリウムがライブ会場に

——コニカミノルタプラネタリウムでは、付加価値を生むために具体的にどのような取り組みをしていますか?

佐野:プラネタリウムに関しては、五感に訴える空間演出を行っています。プラネタリウムの肝である投映機器は、コニカミノルタの技術を尽くして「地上から観た圧倒的にリアルな星空」を再現しています。プレミアムシートはリラックスできる感触を追求していますし、プログラムによっては上映内容にあわせて調合したアロマを楽しむことができます。


コニカミノルタプラネタリウム“天空”の三日月シート


“満天”の雲シート

既存のプラネタリウム以外にも、星空に関連したコンテンツを提供しています。2018年に有楽町に開業した「コニカミノルタプラネタリア TOKYO」では体験型のVRアトラクションを提供しており、その日の星空を頭上に映したVR空間を散策できます。

プラネタリウムと合わせてアクティビティとしてVRを体験してほしい狙いです。また、民間企業ならではの取り組みとして、私が企画とプロデュースを担当している音楽ライブ「LIVE in the DARK」などの著名アーティストを起用したイベントも開催しています。


コニカミノルタプラネタリア TOKYOに設置されている「VirtuaLink」

——「LIVE in the DARK」は2017年に初回上演が行われ、これまで安藤裕子やmoumoon、堂珍嘉邦(CHEMISTRY)など、そうそうたるミュージシャンが出演しているイベントです。企画について詳しく伺えますか。

佐野:「LIVE in the DARK」は、美しい星空とアーティストの生演奏とともに楽しむプログラムです。企画に至った経緯としては、かねてアーティストから「プラネタリウムでライブをしたい」という要望はあったものの、予算的に会場のレンタルを断念されるケースが多かったのです。そこで、自主事業及び、プラネタリウムの集客を促進するための新規事業にしようと思い立ちました。

プラネタリウムなので当然場内は真っ暗になるのでアーティストの姿はほとんど見えない上に、チケットは1時間で6,000〜8,000円と決して安くはありません。

暗闇でライブを行うことの是非は社内でも議論しましたが、プラネタリウム特有のハンデ(=暗闇)にいかに付加価値を与えられるかを考え、現在の形式になりました。本イベントの最大のポイントは、星々が輝く真っ暗闇で音楽を“聞く”ことに最大限集中できる、今までとは違う新しライブの体験価値ではないかと思います。

大人が求めるのは、非日常の癒し

——コニカミノルタプラネタリウムでは、こうしたハイエンドなコンテンツが高く支持されています。背景には何があるとお考えですか?

佐野:20〜30代の女性を中心に、自己投資や癒しのためにプラネタリウムに訪れる方が増えていると思います。

実際に顧客アンケートでも、来場の目的に「癒やされたい」とチェックつける方が多いです。プラネタリウムは圧倒的な没入感を得られるのが特徴です。都会では見られなくなった満天の星を見上げ、非日常の空間でリラックスしたいというニーズがあるようです。

子どものころは天文的な知識を勉強する場だったプラネタリウムが、大人にとっては癒しの場にシフトしているのではないでしょうか。

コニカミノルタプラネタリウムではこうした反応を受けて、癒しに特化した上映プログラムを一定数組み込んでいます。

上映中の星の解説一つとっても「この星は100光年先の距離にあるので、光が地球に届くまでに100年かかる」と専門的に説明するのではなく、「私達は100年前の星の光を見ている」などと、宇宙への想像が膨らむような台詞回しにしています。

一方で、刺激を求める人には前衛アートや音楽をテーマとした上映プログラムを提供したりと、気分に応じてさまざまな「癒し」を選べるようにしています。あえて来場者の年齢層を“大人”に設定し、落ち着いた雰囲気作りを行っているのもポイントです。

プラネタリウムを“普段づかい”してほしい

——最後に、佐野さんが今後のプラネタリウムに期待することや、目標をお聞かせください。

佐野:まず、プラネタリウム全体については、よりに生活の一部として認識していただけるようにしたいと思っています。「ちょっと疲れたな」と感じる日に銭湯でリフレッシュするように、癒やされたい時やぼーっとしたい時、仕事帰りにプラネタリウムに足を運んでもらえるようにしたいですね。“普段遣い”のエンターテインメントとして楽しんでいただきたいです。

「LIVE in the DARK」に関しては、今まさに事業として形になりつつあるところです。今年は九州公演も設けてのライブツアーが実現します。この企画を終わらせることなく、ビジネスとして育てていきたいです。

また、プラネタリウムを活用した音楽イベントというと、科学館などの公共施設に即した教育的なプログラムになったり、七夕やクリスマスなど行事ありきのイメージが強いのが現状です。民間企業しかできないこととして、非日常感や洗練されたイメージを与えられるイベントにしていきたいと思っています。

取材・文:中山明子
写真:西村克也