高額のポイント還元などで盛り上がるキャッシュレス決済だが、7月1日に始まったばかりの7pay(セブンペイ)が不正利用問題を起こし、9月30日にサービスを終了することを発表した。


楽天がキャッシュレス戦略を加速させている

これに対して楽天は、キャッシュレスの本質が「データ化」にあると指摘する。不正利用に対する不安の声も高まる中、スマホ決済に向かう大きな流れは止まりそうにない。

キャッシュレスの本質は決済や行動の「データ化」

7月31日から8月3日まで、楽天が横浜で開いた初の大型カンファレンス「Rakuten Optimism 2019」では、キャッシュレスに関する最新の取り組みが語られた。

楽天はQRコード決済の「楽天ペイ」にとどまらず、FeliCaを用いた「楽天Edy」、クレジットカードの「楽天カード」など、古くからキャッシュレス決済に取り組んでおり、楽天スーパーポイントを中心とした経済圏を築いている。

だが、その本質は決済手段の多様化ではなく、決済や行動の「データ化」にあると楽天ペイメントの中村晃一社長は指摘する。匿名性の高い現金とは異なり、キャッシュレスはIDに紐付いたデータが残るため、利用者の同意に基づいてマーケティングに活用できるというわけだ。


楽天ペイメント 代表取締役社長の中村晃一氏


キャッシュレス化により発生するデータを活用できる

データ化自体はFeliCaを用いた電子マネーや、クレジットカードでも可能だ。だが、問題はどうやってユーザーにアプローチするか、という点だ。楽天が得意としてきたのはEメールだが、数が多すぎると読み切れなくなり、購読解除やフィルターで対策している人も多いのではないだろうか。

そこで注目されるのが、誰もが持ち歩くスマホだ。一般に、スマホのアプリをマーケティングに使うことは簡単ではない。ストアのランキング上位には定番アプリが居座り、インストールしてもらうだけでも大変だ。利用が少なければアイコンはホーム画面の隅っこに追いやられ、やがて削除されてしまう。

だがアプリを用いたスマホ決済なら、買い物のたびにアプリを起動することになる。しかも過去の履歴からユーザーが好みそうな情報を適切なタイミングで出すことができれば、受け取ってもらえる可能性は高い。ここに大きなチャンスが眠っているというわけだ。

「QRコードの次」は見えてくるか

もちろん提供者側のメリットだけでは、ユーザーに使ってもらえるとは限らない。そこで各社は「20%還元」などのキャンペーンを繰り広げている。一見するとユーザー争奪戦に見えるが、まずはスマホ決済を広める段階にある。ライバルは同業他社ではなく「現金」というわけだ。


楽天のイベント会場では楽天ペイの利用に55%のポイント還元を提供していた

そこに向けた説明やサポートも重要だ。日本円の現金は法定通貨であり、現金で買い物ができないというのは本来はおかしい。海外でも完全キャッシュレスではなく現金対応を義務化する動きも出てきている。

楽天のイベント会場にはサポートカウンターが多数設けられ、2000円の現金チャージで楽天Edyのカードを無料発行(通常は324円で販売)していた。スマホを持たない人にもすぐに楽天Edyで対応できるのは、楽天ならではの強みだろう。


現金しか持たない人には楽天Edyの無料発行で対応

さまざまな決済方法がある中で、本命になりつつあるのはスマホアプリを用いたQRコード決済だ。FeliCaの活用を望む声は多いものの、QRコードやバーコードはスマホの機種を選ばない点で優れている。特に日本ではスマホの半数をiPhoneは、iPhone 7からSuicaに対応したものの、他の電子マネーを受け入れる動きはいまのところないようだ。

だが、決済のたびにアプリを起動してコードを読み取る操作はFeliCaに比べて手間がかかり、評判はあまり良くない。小規模な店舗を含め、まずはキャッシュレスを普及させるためにQRコードが先行するとしても、その次を見据えた動きが期待される。

ここで楽天が示した2つの可能性が「顔認証」と「モバイルオーダー」だ。顔認証は、あらかじめスマホに顔データを登録しておけば、店舗の端末に顔を向けるだけで決済ができる仕組みだ。楽天は最新モデルのiPad Proの深度カメラを用いて三次元情報を使うことで、顔データ照合の精度を高めている。


顔認証により、店舗の端末に顔を向けるだけで決済ができる

楽天はモバイルオーダーの開発も進めている。アプリから事前に注文と決済を済ませることで、店頭ですぐに商品を受け取れる仕組みだ。店内ではテーブルオーダーが可能になる。店員を呼ぶことなく、自分のスマホでメニューを見て注文できるので、客側と店舗側の両方にとって時間の節約になる。


アプリで注文と決済ができるモバイルオーダー機能

将来的にスマホが別のパーソナルデバイスに取って代わられる可能性はあるものの、当面はスマホが主役の座を奪われることは起こりそうにない。誰もがスマホを持っていることを前提にした決済手段が続々と登場し、QRコードを補完していくことになりそうだ。

取材・文・撮影:山口健太