時間や場所を超えて誰とでも交流を持てるようになった昨今。

そもそも私達は一体、何を目的に、どのような意識をもって「繋がり」を築いていくべきなのだろうか?

今回はこの問いを探求するために、日比谷 尚武(ひびや なおたけ)氏に話を聞いた。日比谷氏は名刺管理ツールを提供するSansan株式会社でマーケティング・広報部門を立ち上げ、現在は同社のコネクタとして人脈による課題解決を行うほか、多数のプロジェクトにも携わる「繋がりのプロ」だ。いつでも使えて何度でも振り返りたい、繋がりを生むためのマインドセットに迫る。

日比谷 尚武(ひびや なおたけ)
学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築・ストリーミングイベント等の企画運営に携わる。その後、NTTグループにてICカード・電子マネー・システム開発等のプロジェクトに従事。2003年、株式会社KBMJに入社し取締役を務める。2009年よりSansan株式会社に参画し、マーケティング&広報機能の立ち上げに従事。並行して、Open Network Labの3期生(Pecoq)、PR Table創業、日本パブリックリレーションズ協会 広報委員などの各種社外活動に参画。その後2016年12月に独立。現在は、Sansanのコネクタ/Eightエバンジェリストとして社外への情報発信を務めるほか、各種活動を並行して行う。

人との繋がりは、新たな発見への“入口”

——日比谷さんは、そもそも誰かと「繋がる」ことに、どのような意義があるとお考えですか?

日比谷:僕は、人との繋がりは、「今まで知らなかったことやものと出会うためのきっかけ」だと思っています。

誰かとの出会いがすぐに何かにつながるとは限らないけれど、その人と繋がる中で得た知識やコネクションが今までにないアイデアをもたらすかもしれません。いわば、新たな発見への“入口”です。入口なのだから、多いに越したことはありませんよね。

—— 一方で、「人脈作り」という言葉には、どこかガツガツとしたイメージがあるようにも思います。

日比谷:企業向けにコネクションづくりに関する研修をさせていただくこともありますが、大企業に所属する方の中には、社外と積極的に繋がりを持ったり、部署を越えて交流を持とうとすることに「はしたない」「ハングリーな人」というイメージを持っている方も少なくありません。

これは「自分の仕事は自分だけの力で達成するべきだ」というマインドとも背中あわせで、縦割りな組織を生み出してしまうことにもつながっています。

僕が研修の場でお伝えするのは、誰かの力を借りるは決してズルではないということです。経営学の世界ではイノベーションを生み出すためには、家族や友人、職場の同僚のような強い繋がりよりも、ちょっとした知り合いとSNSで繋がっておくような「弱い繋がり(weak ties)」の方が重要だということが常識になっています。

僕もまた、それを信じてコネクタとして活動しています。外部の力を借りることは、もはや当たり前。むしろイケてることなんだ、と強調したいですね。

基本のマインドセットは「軽重つけない」「溺れない」「無理しない」

——人との繋がりを築くとき、日比谷さんはどんなことを心がけていますか?

日比谷:大きく3点あります。

1つ目は、「繋がりに軽重(けいちょう)をつけないこと」。先ほど「出会いは新たな発見への”入口”だ」とお伝えしたように、どんな出会いがイノベーションをもたらすか分かりません。初対面の印象で「この人との時間は価値がある・ない」と決めつけないように気をつけています。

2つ目は、「目的を持つこと」
のべつまくなしに人と会っていると、繋がりに溺れてしまいます。何のために人と繋がりたいのかをはっきりさせておきましょう。

僕の場合は、1年おきに「このジャンルに詳しい人と知り合いたい」という目標を設定して、会いに行く優先順位をコントロールしています。これは1つ目のポイントと相反するようにも聞こえますが、決して矛盾するものではありません。

自分から能動的に繋がりを作りに行くときはしっかりと目的意識を持ち、偶然の出会いを含め、実際に誰かと相対する時には先入観を持たずに接する……というイメージです。

——自分の中に「繋がりのポートフォリオ」を持ったうえで、目先の利益を求めずに接するということですね。3つ目についても教えてください。

日比谷:3つ目は「とにかく無理しないこと」ですね。
疲れている時は、苦手なタイプの人やエネルギーを消耗する人とはなるべく接触しないようにしています。イヤイヤ会って話しても仕方ありませんから。

永久保存版・今日からできる繋がりの3ステップ

——私達が「繋がる力」を身につけるために、何から始めればいいのでしょうか?

日比谷:前提として、僕は人との繋がりが生じるのは「強みと弱みの交換」が成立するときだと考えています。ここでいう「強み」というのは、自分が得意なことや好きなことや、仕事にしていることです。

一方の「弱み」は、自分に知見やノウハウがなく、誰かに手伝ってほしいことです。誰もが必ず強みと弱みを持っているので、まずはそれを自覚し、表明することがマッチングのための第一歩だと思います。

——とはいえ、自分の強みを自覚するのはなかなか難しいものです。ヒントがあればぜひ教えてください。

日比谷:自分は何をしている時が楽しいのか、どういうものが好きなのか、モヤモヤと渦巻いているものを言葉にしましょう。一人で考えるのが難しければ、ストレングス・ファインダーなどのツールを活用するのもいいですね。

また、繋がりづくりと流れが前後するかもしれませんが、初対面の人と接してみることも強みを探すために有効です。自己紹介は自分の価値観や取り組んでいることを言語化する訓練になりますし、意外な部分を評価されたり突っ込まれたりすることで気付くことも大いにあると思います。

「強み・弱み」の発信ができたら、実際に誰かと繋がってみる。さらに、今度は自分以外の誰かの繋がりを作る側になる……と、ステップを踏んでいくとよいと思います。

<繋がる力を鍛えるためのステップ>
(1)自分の「強み・弱み」を発信する
(2)自分と誰かの「強み・弱み」をマッチングして繋がる
(3)誰かと誰かの「強み・弱み」をマッチングして繋がりをつくる

出会いのコツは、ハードルを下げて半身を踏み出すこと

——では、実際に繋がるための方法についてもお聞かせください。これから人との繋がりを作るなら、まずはどのような集まりに参加すべきでしょうか?

日比谷:まずはハードルを下げて一歩を踏み出してほしいですね。例えば知人の集まりに付いていくとか、職種別の交流会に参加してみるとか、自分が何かしら接点のある場所を選ぶことです。大企業なら、他部署との交流会から始めるのもアリです。

今までの自分のテリトリーから「半身を踏み出す」くらいの気持ちで臨むといいと思います。

——コネクションづくりというと、異業種交流会に飛び込んでいく印象がありますが……。確かに、共通の話題や接点のある場所なら安心ですね。

日比谷:最初は知り合いと一緒に参加するのがおすすめです。1対1で初対面の人と話すのは精神的にも大変だし、自己紹介の難易度も高いので。同席している知り合いに、他己紹介をしてもらうのもいいんじゃないかな。「保護者つき」で踏み出せば気が楽だと思います。

——現在はSNSをはじめ様々なコミュニケーションツールが発達しています。私達はこれらとどのように付き合っていくべきでしょうか。

日比谷:おっしゃる通り、今は「弱い繋がり」を育むためのチャネルが増えてきていますが、それらの存在を知らなかったり活用する術が分からなければ、繋がりを深めようがありません。

リアルの価値が失われることはないと思いますし、こうしたチャネルを毛嫌いするか活用するかはその人次第ですが、能動的に活用できるに越したことはありません。

繋がることの効用は「たくさんのコネ」ではない

——ここまで、人と「繋がる」ためのマインドや方法論についてお聞きしてきました。お話の随所から自然体を大切にする姿勢が感じられて、いい意味でギャップを感じました。

日比谷:僕が社外の人とやりとりする職種になったのは25〜6歳の頃ですが、すぐに誰とでもコミュニケーションできていたわけではありません。

もともと初対面の人と話すのは得意な方ではなく、それでも試行錯誤しながらうまくやりとりできるようになったのは30歳を超えてからでした。

今は「人脈が豊富でいいですね」とよく言われますが、僕自身がこの仕事をしていてラッキーだと思うのは、多くの人と繋がれることではなく、新しい人と会うことへの抵抗感がなくなったことです。

これから繋がりを作っていこうとする方は、繰り返しにはなりますが、まずは心のハードルを下げて一歩を踏み出してみてほしいと思います。

取材・文:中山明子
写真:西村克也