できる限り製造コストを削って、大々的にプロモーションをして…という売り方はもう過去のもの。今、多くの人が ”ただモノを安く買えればよい” という従来の考え方から、”毎日の消費をより環境に優しくサステイナブルなものに” という価値観にシフトしている。

データ会社Rank and Styleの調査によると、ミレ二アル世代の42%、Z世代の37%が商品を購入する前にそれらがどのように作られたのか、製造工程を確かめると回答。サプライチェーンの透明度向上は消費者との信頼関係を構築する上で欠かせないものとなってきていることから、昨今多くのメーカーや小売がいかに自社のトランスペアレンシーを向上させ、サステイナブルビジネスを構築するかに苦心している。

その風潮はもちろんファッション業界にも。同調査で2017年から2018年にかけて「ファッションにもサステナビリティを求める」と回答した消費者の割合は25%増加、2016年から比較すると61%の飛躍が見られた。加えて、エルやヴォーグなどの有名ファッション誌でもサステナブルに関する特集は増えており、その割合は2017年から2018年にかけて83%アップしたという。

本稿では、今ファッション業界でサステナビリティが重視される風潮と、そうした需要に応えるべく海外で続々と登場している新しいタイプのEコマースサイト、そして、その背景にある年々増加するコンシャス・マインデッドな消費者の存在についてお伝えする。

ストーリーを消費者に伝えるプラットフォーム「Goodee」

今年2019年にモントリオールをベースとしてオープンした「Goodee」が、これまでのEコマースサイトと一線を画しているとして話題を呼んでいる。

同サイトは2000年にローンチされたラグジュアリーアクセサリーブランド「Want Les Essentiels de La Vie」を運営する双子のバイロン・ピアートとデクスター・ピアート兄弟によりキュレートされたオンラインストアで、美しさと機能性の両方を兼ね揃え、かつサステナブルな手法で作られたアイテムを取り扱っている。

ただ、GoodeeのWebサイトには「セール」や「割引」などの文字は見えない。代わりに、美しく構成されたウェブサイトで至る所で目にするのが「ストーリー」という単語だ。


”We Are Storytellers” という言葉もピアート兄弟の理念を物語っている(GoodeeのWebサイトより)

Goodeeは作り手の持つストーリーを消費者に伝えることに重きを置いている。デクスター氏はJWT Intelligenceに対して、「Goodeeを単なる ”買い物をする場所” ではなく、目的ありきの購買を提唱する場所にしたい。ストーリーを持つプロダクトとそれらを求める顧客とをつなぎ合わせるのが自分たちの仕事」と語っているように、Webサイト上では各ブランドの持つストーリーやモノづくりに対する思いを詳細に伝えている。

現在Goodeeはモントリオールで8月25日までポップアップストアを開催中。オンラインプラットフォームであるGoodeeが実店舗にもこだわる理由として、「現代の消費者のためにはデジタル・フィジカル両方の空間が必要。Eコマースのおかげで世界中のどこからでも買い物ができるようになったが、より良いチョイスとキュレートされた空間を求める人たちを手助けする必要があるから」だという。

さらに、Goodeeはローカルコミュニティーを活性化させることもサステイナブルなモノづくりに必要だと考えており、今後はポップアップストアをイベントスペースとしても機能させ、毎回異なるゲストを招き消費者に学びを提供できる場にしていきたいそう。

Goodeeのモントリオールでのポップアップイベントでは同ブランドの世界観に浸ることができる(Goodee公式Webサイトより)

高い透明性をもつエシカルなファッションブランド

今ファッション業界で勢いに乗っているアパレルブランドといえば、北米のミレ二アル世代に大人気の「エバーレーン」だろう。2011年にサンフランシスコでスタートした同社は、路面店をアメリカ国内の2店舗のみに留め、販路をEコマースに絞ることで収益を上げている。

エバーレーンの人気と知名度をここまで押し上げた大きな要素の一つが「原価を公開する姿勢」。同社のWebサイトには原材料や人件費、さらには輸送費や関税、従来のアパレルメーカーであればこの価格、という参考価格まで併せて公開しており、透明性を重視する消費者から絶大な支持を得ている。


エバーレーンの公開する ”コスト表” は同業他社が見たらギョッとしそう?(同社Webサイトより)

また、米国の本家サイトでは「Choose What You Pay」という、余剰品のセール価格を消費者自身が決められるユニークな購入方法も。例えば、あるワンピースなら市場価格は80USドル(約8,600円)だが、エバーレーンなら40USドル(約4,300円)。さらにセール品であるためそれぞれ定価の5%/10%/20%オフの38USドル(約4,000円)/36USドル(約3,800円)/32USドル(約3,600円)の3つのオプションから選択できる。

さらにエバーレーンは現在「ReNew」と銘打ったキャンペーンを行っており、2021年までに同社のサプライチェーンから新しいプラスチックをすべて排除することを公表している。同社はすでにプラスチックをリサイクルしたダウンジャケットを発売したり、合成繊維を代替素材に換え始めていたりとリサイクル分野でもアドバンテージを持つが、次なるステップとしてプラスチックに代わる新素材も開発中だという。

また、包装だけに留まらずオフィスや店舗で使用するプラスチックも削減していく方向とのことだ。この正直な姿勢が今の消費者のマインドにフィットし、同社は昨年2018年には日本を含む38カ国にサービス対象国を拡大。エバーレーンのヒットは、エシカルさとトランスペアレンシーがファッションブランドにとって重要であることを示す好例だ。

大手Eコマースサイトも参入し、新たな挑戦

今年6月、ロンドンに本拠を置くラグジュアリー専門小売の「NET-A-PORTER(以下ネッタポルテ)」がサステナブルライン「NET SUSTAIN」のローンチし、大手企業のエコ事業参入に大きな注目が集まった。


NET SUSTAIN(同社の公式Webサイトより)

NET SUSTAINは以下の基準で製品選びを行っている。

  • 製品が少なくとも半分以上は、そのブランドが本拠を置く土地で生産されていること
  • フェアトレードなど、そのモノづくりにクラフトマンシップがあるもの
  • オーガニックなど素材にこだわっているもの
  • BluesignやOekotexなどの基準をもとに、心身ともに健康的な環境下にある労働者によって生み出されていること
  • リサイクルに関する国際基準をもとに、製造過程で無駄が生じていないか

このように、いずれも持続可能なモノづくり欠かせないカテゴリーを5つ抽出し、それぞれの基準を満たしたものを取り扱っている。


「マラ・ホフマン」の水着。”WHY WE LOVE IT” の欄にはなぜサステイナブルなのかが記載されている(同社公式Webサイトより)

例えば、「ステラマッカートニー」のヴィーガンレザーのサンダルやバッグ、また素材への強いこだわりで知られるフランスのスニーカーブランド「Veja」はオーガニックコットンやヴィーガンスウェードを用いたスニーカーが人気だ。

「マラ・ホフマン」の水着はリサイクル素材から作られ、その生産過程に使用されるエネルギーも従来より少ないというものだが、デザインが美しいだけでなくもちろんSPF50であるなど機能面もデザイン面も損なわない。ラグジュアリーファッションを主に扱うネッタポルテがサステイナブル事業に参入したことは、ラグジュアリーとサステナブルは両立可能なのだということを世間に広く提示したと言える。

「ファストファッション」が日本の流行語大賞にノミネートされたのが2009年。「お洒落は安く」が一世を風靡した10年前から、消費者のファッションと環境に対する意識は確実に変わってきている。

文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit