インドで気温50度超え。深刻化する水不足問題の実態

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近年日本では夏が来る前に猛烈な暑さとなり、冬はこれまでにない寒さに襲われる地方があるなど異常気象が次々と発生している。気候変動による地球規模の異常気象の発生と言われていて久しいが、日本だけではなく世界各国で深刻な影響が出始めている。

熱波にあえぐ地球

フランスでは今年6月28日に同国観測史上最高45度を超える気温を記録した。欧州各地は熱波による異例の猛暑に見舞われ、死亡者も出ている。

同国では2003年の熱波で8月に1万5000人が死亡したが、今年はその最高気温を超える数値を6月の時点で記録した形だ。今年は高齢者を中心にドイツやイタリア、フランスで死者が出ているほか、スペイン北部では火災も発生し夏本番を前に被害は拡大する一方だ。

日本では大雨が降り、猛暑に見舞われ、東アフリカでは厳しい干ばつの被害も聞かれる。そしてインドでは今年6月、すでに50度超えの気温を記録。

インド北西部のラジャスタン州の乾燥地帯で50.6度にまで上昇したほか、同州の各地では47度を超える高温を記録している。なお、この地方は2016年に51度を記録している。首都ニューデリーでは気温が46度を超えたため、赤色高温注意報が発令され、最も気温の高い時間には外出をしないよう呼びかけられた。

夏の暑さをしのぐための避暑地も同様の被害にあっている。富裕層が避暑に訪れることで有名なヒマーチャルの高原でも44.9度を記録し、もはや熱波から逃れることは出来そうにない。

気温だけでないインドの問題、死亡者も

インドで今深刻な問題になっているのは気温だけではない。

チェンナイをはじめとした主要都市で、湖や河川の枯渇が始まり水不足の懸念が高まっている。すでに農村地帯では畑への散水や家畜の飲料水確保が深刻な問題に。

被害の出ている地域では家畜用の飲料水は3日に1度しか確保できず、人々は近隣の村からやって来る給水車に頼るしかない状況。住民たちは洗濯を止めた。

実は先月、インド工科大学の専門家が報告書で「今年インドの全人口の40%が干ばつの被害者になる」と警告したばかりだった。

気温の低下と水不足の解消に必要なのは、モンスーンの季節の到来だ。風と共に雨ももたらすこの季節を待ちわびていたが、今回はこれが仇となる。

7月中旬のモンスーンの到来では洪水が発生。580万人の人たちが避難を余儀なくされ2週間ですでに30人が死亡している。待ちわびていた降雨だったが、度を超えていたため災害となってしまった。

既に始まっている水不足

インドの政府系シンクタンクの報告書は、現在の人口13億人のうち6億人が水不足に直面しており、清潔な水が確保できないために一年あたり20万人が命を落としているとしている。

さらに状況は2030年に向けて悪化する一方で、2030年の試算で必要とされる水の量が供給できる水量の2倍に膨れ上がり、GDPの損失は最終的に6%になるだろうと予測している。今回の水不足は史上最悪のものと予想されており21の都市で地下水が枯渇するというもの。

2050年には必要な水の量が供給の2倍になるとして状況は悪化の一方だ。

CNNなどの報道によると6月の時点でインド第6番目の都市チェンナイ(人口約500万人)における水不足は深刻で、モンスーンの季節が遅れていることが原因で市に水を供給する4つの貯水池すべてがほぼ枯れ果てている。

水不足により閉鎖される学校や、勤務時間の短縮、数十軒ものホテルやレストランは営業を停止せざるを得なくなっている。

市民は水を手に入れるために井戸水かトラックで運ばれてくる水に頼るしかない状況だ。数千もの新しい井戸が採掘され、地下水は急速に枯渇。環境への影響も懸念される中なおも井戸の採掘は続いており、もはや手に入る水も飲料水に適さないレベル。

現地の学生が「このところ2か月、井戸の水は黄色く濁り、飲料に適していないことは明らかだ」と米国メディアの取材に答えている。


@China daily

少なくとも10月までは水不足

井戸のない地域もある。ここでは飲料水をペットボトル入りのものに頼るしかないが、インドでは誰もがこうした水を「買える」経済的状況にないのが実情。政府の給水車は来るものの、長い行列と自力で運ばなければならない重たい水、十分に行き渡らない量であることが問題となっている。さらにこの問題を認識している政府は「少なくとも今年10月から11月まで解消できない」としている。

これほどまでに深刻な水不足についての警鐘が鳴らされているのにもかかわらず、具体策は講じられていないのだろうか。

インドにはヒマラヤ山脈からの雪解け水やガンジス河といった水源が実は豊富にある。ところがこれを管理する政府なり民間なりの体制が機能していないことが原因の一つと考えられている。例えば水漏れや不正搾取(盗水)、違法な集団による活動や、メーターの改ざんといった行為によってもたらされている「料金未徴収水率」はもはや統計が取れないほどだ。

ちなみに日本の料金未徴収水率は10%以下で、世界的にみても驚異的に低い数値らしい。

インド国内でもこの管理体制の不備、システムの崩壊について疑問を投げかける声が高まっている。インドのスラム街や農村地域では今もなお、給水タンク車からの給水を求めて水を求めて人々が長い行列を作っている光景が一般的だ。

この水の配給システムは各方面に負担が大きい。経済的負担だけでなく、特に家族の中で水汲みの責任を担う女性への時間とエネルギーの消耗度は高い。

さらに多くの農村地域で公共の水道栓がないことも多く、企業から清潔な水を購入するだけの経済力もない村人が多い。そのため水源は近辺にある河川や池となることが多く、飲料に適していない汚染された水の利用を余儀なくされている。

今後の課題

明らかに今のインドで圧倒的に不足しているのがインフラの設備だ。

全人口の実に70%が暮らしている農村地域では、汚水の処理設備も整っていないため農業で使用する農薬が流れ込んだ水を生活に使用しているという恐ろしい状況。

上水道が通っている地域でも一日数時間のみの供給であったり、水道管の老朽化などによる汚染水の供給も大きな問題。またこうした水道管に直接穴を開けて自宅へ引き込む、勝手に別の水道管をつなぐ行為などが蔓延っている。こうした勝手な工事によってさらに水の汚染は拡大し、インドにおける安心安全な飲料水の確保は非常に困難だ。


Business Standard

ハイドラバードやバンガロールといったITテクノロジーのハブである都市では、給水タンカーを取り仕切る「タンカー・マフィア」の存在も問題になっている。現場でマフィアが取り仕切り、誰がどれだけ水を手に入れられるかを仕切っているのだが、もはや「水を手に入れるためには必要不可欠な手段」とあきらめの声が上がるほどだ。

こうした惨状に支援の手を差し伸べた国もある。日本では政府が2013年にアグラ上水道整備事業プロジェクトに参画。世界遺産タージマハールのあるアグラ市の上水道を整備することによって、貧困層を含む同地域の住民の生活環境を改善させるはずであった、というのはこの事業プロジェクトはとん挫、なかなか進展していないからだ。

しかも上水道を整備し、水質を改善すればよいというわけではなく水道網や行政管理体制といった根本的な部分の障害が大きく立ちはだかり、そうこうしているうちに経費や資材費が高騰、予算から練り直し再スタートさせるという状況に陥っている。

一方国内で頼りになるのはスタートアップやアントレプレナーによる水道事業にかかわる技術革新の発明だ。例えば、太陽光発電を利用した水の浄化システムを作り上げ、農村部に導入した草の根事業活動がある。

彼らはマイクログリッド(地域に小型の発電施設を設けてエネルギーの地産地消をする)方式で、水の効果的な浄化とUV光による殺菌を実現させ、安全な飲料水を村人に届けることに成功した。最初に自分の家で試験的にソーラーパネルを設置し、両親と近隣の人たちに無料で清潔な水を配った。

その後軍の施設で試験運用したのち、インド国内でも最も汚染された水を利用していると言われている村で本格始動した。6000人を抱えるこの村で、非常に安価な太陽光発電による水の浄化システムは救世主となるはずであったがここでも困難に面する。

ごく少額とはいえ貧困層にとって「有料」で水を確保するという概念が浸透しない。有料ならば再び河川や池で自由に水を汲めばよい、と考える向きがほとんどだったからだ。

また、これまでの汚染水の味に慣れているため、たとえ浄化された水であったとしても味が変わることに強い抵抗を見せる住民も多い。現在この活動は、施設の導入前に近隣の医者を呼んで講演会を開くなどの啓蒙キャンペーンを実施することにしている。国内での努力もこのように住民から理解を得られない、政府からの資金援助も見込めない、といった困難に面している。

今までも繰り返し警鐘が鳴らされてきたインドの水不足は、今度こそ本物の危機だと世界中が注目している。しかしながら政府の重い腰は上がっていないと指摘する声も多い。計画性のなさ、私有化する企業の増加、産業及び生活廃棄物、政治家の腐敗と、国際的な支援を受ける以前に国内で解決しなければならない問題も山積している。

前述のとおり、今回の水不足について「11月ごろまでこの問題は解決しない」と発言していることから、どことなく「11月ごろには解消する」と言っているようにも聞こえ、真剣さに欠ける政府対応に不信感を覚えるのも仕方ないのではと思えてくる。もはや海外からの支援だけでは解決しない深刻な問題となる前に何とか解決策を見いだせるよう、祈るばかりだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

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