マイクロソフトがホロレンズで狙う、スマートフォンの次のビッグシング

米マイクロソフトは6月、米ワシントン州レドモンドにある本社キャンパス内で日本の取材陣に対し、新型のMR(Mixed Reality)ヘッドセット「HoloLens 2」のデモを披露した。筆者が「HoloLens 2」に触れるのは、2月のMWC2019、5月のde:code 2019に続いて3度目。

前モデルから重さや装着感、視野角、操作性などが大きく改善された「HoloLens 2」とマイクロソフトの狙いについて、Mixed Reality担当コミュニケーション ディレクターのグレッグ・サリバン氏に聞いた。


マイクロソフト Mixed Reality担当 コミュニケーション ディレクター グレッグ・サリバン氏。5月に開催された「de:code 2019」には、「HoloLens 2」開発者のアレックス・キップマン氏とともに来日した。

今、XRと呼ばれるものには、スマートフォンなどのカメラでとらえた現実世界に情報を重ねられるARと、ヘッドセットを装着して仮想世界に没入し、3Dゲームなどが楽しめるVRの大きく2つがある。マイクロソフトのMRは「ARとVRの両方を統合し、現実世界と仮想世界とを連続的につなぐもの」とサリバン氏。「HoloLens 2」では現実世界に仮想世界を重ねられるだけでなく、視線をトラッキングして目線の先に3Dオブジェクトを表示したり、目の前にあるオブジェクトを手で触れて操作することができる。

現在は企業向けのソリューションとして提供されていて、遠隔地から作業をサポートしたり、ガイダンスを表示してのOJT(On-the-Job Training)、あるいは場所や時間を超えてデータを共有し、コラボレーションするといった用途での利用が想定されている。

日本でも先日、トヨタ自動車が販売店での自動車の修理・点検業務に「HoloLens 2」を導入することを発表し、話題を集めている。


「HoloLens 2」の活用事例を紹介するサリバン氏。Dynamics 365で提供されるMR向けの各種ソリューションや、サードパーティー製のアプリケーションなどが利用できるため、導入しやすい。

「初めての作業に向かうときには経験者から説明を受けますが、説明を聞いただけではうまくできないかもしれない。写真や動画を使って詳しく説明されれば、少しはミスを減らせるでしょうが、それでも間違う可能性はあります。でももし、MRで実際に作業するものの上にガイダンスを重ねて見ることができれば、間違うことはほとんどなくなるでしょう」とサリバン氏。

オフィスワーカーはこの20年ほどの間に、ITの導入による様々な生産性の向上を体験してきたが、「HoloLens 2」を用いればPCに向かうのが難しい現場の第一線で働く人々も、デジタル化による生産性の向上という恩恵が受けられると説明する。

「これまでもコンピューティングには様々な革命がありました。たとえば私がマイクロソフトに入社した当時は、コンピューターで何かするためには、まずコードを書かなければならなかった。そこからGUIの革命が起きて、マウスを使うようになります。

今ではとても信じられませんが、当時はマウス操作なんて効率が悪いと言われていたんです。そういう固定概念を乗り越えてマウスが浸透し、今ではそれが当たり前になりました。

我々はもうディスプレイから離れた場所でマウスを使い、カーソルを動かすことに慣れてしまったていますが、たとえばPCに不慣れな私の父にマウス操作を教えようとすると、彼はディスプレイにマウスを押し当てるんです。

つまり人の動作としては、動かしたいものに直接触れるほうがより直感的で自然だということ。HoloLens 2が実現するのは、まさにそんな直感的で自然な操作なのです」(サリバン氏)。


本社キャンパスでデモを体験する筆者。手を伸ばした先にホログラムの鳥が飛んできて止まっている。なお「HoloLens 2」の国内価格は未発表で、米国では1台3500ドルで販売されている。


「HoloLens 2」ではユーザーのニーズにあわせて大幅に機能を改善し、視野角の広さや装着のしやすさ、アイトラッキング、10本指を使った操作などが可能に。バイザーを上にフリップできるようになっている。

「我々は今、GUI以来のコンピューターの大きな変革に立ち会っています」と語るサリバン氏。「未来のコンピューターのインターフェースを考えるとき、最も良いのは特別なインターフェースがないこと。仮想世界でも現実世界と同じようにものを見たり、動かしたりできるところまで徐々に近づいています」と話す。

また、「このタイミングで、この業界にいられるのは本当にラッキー」とも。実はMixed Realityの担当となる以前は、約10年間、Windows Phoneを担当していたのだという。

「Windows Phoneは残念でしたが、MRがやがてメガネくらいの大きさになれば、今のスマートフォン以上に私たちにスーパーパワーもたらしてくれるものになるでしょう。そうなったら私がやってみたいのは、ディナーの後に食器を洗いながら野球をながら観戦すること。ほかにも、たとえば料理を作りながら重ねて詳しいレシピが見られたら、きっと便利に違いありません」(サリバン氏)。

MRデバイスが今のスマートフォンのように、コンシューマーが当たり前に使えるものになるまでどのくらいかかると思うかという質問に対しては、「数ヶ月では無理だが、数十年はかからない。時期を予測するのは本当に難しいが、あと数年はかかるでしょう」と答えた。

現在は企業のニーズがあまり高くないこともあり、ネットワークはWi-Fiのみに対応しているが、数年後には5Gで場所に縛られずに、いつでもどこでも遅延のないMRが利用できるようになっているだろう。そのとき私たちはスマートフォンのディスプレイから解放され、視界と両手の自由を取り戻せているのか、注目したい。

取材・文・撮影:太田百合子

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