「AI人材不足」で人材獲得競争が世界で熾烈化、「AIスキル/リテラシー」プログラムへの高まる期待

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「AI人材不足」、人材獲得競争が熾烈化する世界の現状

最近国内のさまざまなメディアで取り上げられる「AI人材不足」問題。この問題は日本だけでなく、海外でも深刻化しており、これに関連する調査レポートや報道が増えてきている。

Linkedinが2017年12月に発表したレポートでは、2012年から2017年の職業ごとの需要増加率を調べているが、最大は「機械学習エンジニア」で、増加率は9.8倍となったのだ。2位はデータサイエンティストで増加率は6.5倍。

中国テクノロジー大手テンセントは、世界中で約30万人のAI人材がいるものの、数百万件に上るポジションが埋まっていないと推計している。

コンピュータ関連トピックを専門とする出版社オライリーは2018年4月に、企業を対象に実施したAI導入に関する意識調査を発表。この中で、ディープラーニングの活用を検討している企業に対し、何が最大のボトルネックになっているのかを聞いたところ、人材不足が最大のボトルネックという回答が最多となった。

AI人材不足は、テクノロジー大手の間で激化するAI人材獲得競争からも見て取ることができる。

FastCompanyの調べでは、2014〜2017年の間にアップルのAI人材は2倍増加し、AI関連の博士号取得者数は3倍増加。アマゾンやグーグルに追随する形で、AI人材の獲得に力を入れているという。

実際、近年のAI研究の中でも画期的といわれる手法「敵対的生成ネットワーク(GANs)」を考案したイアン・グッドフェロー氏が、グーグル・ブレインからアップルに移り、同社AIプロジェクトのディレクターに就任している。

ニューヨーク・タイムズによると、グーグル傘下のAI研究所ディープマインドの人材コストは1人あたり34万5,000ドル(約3,700万円)。供給不足によって、人材コストが急騰しているという。

ディープマインド社ウェブサイト

テクノロジー大手によるAIトップ人材を巡る獲得競争はしばらく続くことが見込まれるが、同時にそれ以外の企業でもAI施策の導入・検討が増えてくることが予想されている。AI人材の需給バランスをどのように実現するのか、各国に重くのしかかる課題となっている。

ここで注意が必要なのは、AI人材と一口に言っても、イアン・グッドフェロー氏のように先端技術の研究に従事する人材やすでに検証がなされた安定的なAI手法をビジネスの現場で導入する人材など、さまざまな役割があり、多くの場合これらが混在して語られているということだ。

このため、どのポジションに、どのようなスキルを持った人材が、どれほど足りていないのかが見えにくい状態になっているといえる。

AIはインフラとして「電気」のように社会のどこにでもある存在になるといわれている。インターネットが登場し、多くの企業でIT部門が生まれ、今ではそれが普通となったが、AIの登場も同じような流れを生むことが想定される。

PwCは、企業におけるAI導入・運用の枠組みを「Responsible AI」というコンセプトで提唱。AIをどう活用するのか、ビジネス・プロセスにおいてAIをどのように組み込んでいくのか、これらが明確になればAI人材に求められるスキルも明確となり、効果的な人材育成が可能となるかもしれない。

「AIリテラシー」の重要性高まる? 修士やナノディグリープログラムが果たす役割

ITが普及する過程で「ITリテラシー」の重要性が叫ばれていたが、それとの類推で考えると「AIリテラシー」の重要性が高まってくることも十分に考えられるだろう。

実際、AIリテラシーの重要性には多くの人々が気付き始めており、AIに関するスキル習得需要は急速に高まっている。

こうした需要の高まりを受け、AIに特化したプログラムを刷新・新設する大学が登場、学生を呼び込むための動きが活発化している。

また、海外の大学ランキングや教育メディアでも、AIを学ぶおすすめ大学を紹介するコンテンツが増えていることも多くの関心を集める原動力になっている。

AI分野ではどのような大学に注目が集まっているのだろうか。

北米では、カーネギーメロン大学、MIT、UCバークレー校、カナダ・トロント大学などが有名だ。

カーネギーメロン大学

英語圏のAI系最高峰と目される国際学術論文誌「NeurIPS(Neural Information Processing Systems)」。2017年には3270本の論文が提出され679件が採択されたが、採択された論文数ではこれらの大学が上位を占めていた。

欧州では、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学などが有名だ。上記北米大学と同様にNeurIPSでの採択論文数が多い大学だ。

ETHはアルバート・アインシュタインを輩出した大学として知られている。また「ドローンの魔術師」と呼ばれるラファエッロ・ダンドレア教授が在籍しており、日本のメディアでも取り上げられたことがある。ダンドレア教授が共同創業者だったロボット会社Kiva Systemsがアマゾンに買収されたのは有名な話だ。

一方、ディープマインドの共同創業者であるデミス・ハサビス氏はケンブリッジ大学でコンピュータ・サイエンスの学士号を取得している。

アジアでは、シンガポール南洋工科大学、中国清華大学、東京大学の名が挙がることが多い。

AIを学べるのは大学だけではない。オンラインプログラムも充実しており、大学に通うのに比べ数段に安いコストで学習することができる。

AI界では知らない人はいないといわれるスタンフォード大学アンドリュー・ウン教授が共同設立したCouseraでは200近いAI関連コースが提供されている。一方、UdacityでもAI関連のナノディグリープログラムが揃っており、AIを学びたい人の学習環境はかなり充実したものなっている。

またテクノロジー系学術論文アーカイブサイト「arXiv」では、AI研究論文が頻繁アップロードされており、最新の研究動向も不自由なく調べることが可能だ。

AI人材不足はこの先どのような形で収束するのか。AI教育の普及とAIリテラシーの高まりに期待を寄せたい。

文:細谷元(Livit

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