2019年7月8日、デロイトトーマツが「自治体コミュニケーションの未来を展望する調査 2019」をリリースした。
本調査は、全国の市町を対象に実施されている。目的は、住民と地方自治体のコミュニケーション(住民参画や広報・広聴)の現状や課題、地方自治体の問題意識を明らかにすること。そして今後あるべき未来を展望することだ。
結果からは、今後テクノロジーを活用した住民参画の手法が、大きく変化していく可能性があると考えられるという。
調査が明らかしたポイントは3つ。
- 8割の市町が、IT技術を活用した新たな住民参画の手法に関心を持つ
- 住民参画の手法の課題は「参加者の年代の偏り」(8割)、「参加人数の確保」(6割)
- 過半数の市町で、18歳未満の住民が地域への意見表出する場がなく、意見収集が困難
地方自治体は、住民とのコミュニケーションの有用性を認識
調査ではまず、「住民との双方向のコミュニケーションは、政策形成に有効だと思うか」と質問している。
結果296件・52.7%が「とても感じている」、223件・39.7%が「やや感じている」と回答。9割超の市町が、住民との双方向のコミュニケーションが政策形成に有効であると考えていることがわかった。
つぎに「自治体組織として、どのような存在であるべきか」たずねた。約6割の市町が「市民と共に、地域の課題に対処するプラットフォーム型の役所」と回答している。
また「地域をあげて住民に聞きたいテーマや課題」については、約7割の市町が「ある」と回答した。
調査を実施したデロイトトーマツでは、「価値観や生活スタイルが多様化する今日では、住民のニーズを直接確認することや、住民と共に課題解決に向かう『協働・協創』を重要と捉える認識の高まりがうかがえる」との分析を示している。
住民参画の手法に多くの課題
調査では、「現状の住民参画の手法について、課題と思うこと」をたずねている。結果、79.6%が「参加者の年代の偏り」、63.4%が「参加人数の確保」と回答した。
「住民の意見収集において、意見の収集が困難な住民層」を聞くと、72.5%が「大学生」、48.2%が「就労者」、40.2%が「中高生」と答えた。
地方自治体は住民の意見収集の場面において、偏りが生じていることを認識。現状の住民参画の手法に、多くの課題を感じていることがわかるという。
課題改善に向けた取り組みは不十分
「年代、属性ごと等に対象を分けた広報・広聴の実施状況」についてたずねたところ、「実施していないが必要性を感じる」との回答が約7割を占めた。
また、「選挙権を持たない18歳未満の住民の地域経営、政策形成への参加、意見表出の場の有無」については、半数が「ない」と回答している。
多くの市町が住民とのコミュニケーションの必要性を感じている。その一方で、18歳未満の住民の意見表出の場を設けていないなど、課題改善に向けた取り組みは不十分だという。
IT技術を活用して、住民参画のあり方が変化していく可能性
調査では、「IT技術を活用した、住民との双方向の意見交換手段を行政運営・政策形成に活用しているか」質問している。その結果、81.0%が「活用していない」と回答した。
また、「IT技術を活用した、新たな住民参画の手法に関心があるか」という質問には、25.3%が「とても関心がある」、53.1%が「やや関心がある」と回答。約8割の市町がIT、技術を活用した新たな住民参画の手法に関心を示していることがわかった。
現状ではIT技術を活用できていないものの、その関心の高さから、今後IT技術を活用して住民参画のあり方が変化していく可能性があるという。
今回の調査を監修した、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、岩田崇氏は次のようにコメントしている。
「現状の住民参画の課題を解決し、住民の意見を施策形成に活用していくことは、内閣府が発表した「Society 5.0」*の文脈にも沿うものです。今後、地方自治体におけるAI活用など、先端技術を導入する場面では一層、住民意見の尊重が求められてくると考えられます。また、この住民参画の変化は、改めて住民自治の在り方を問う重要な論点と認識しています。」
*Society 5.0: サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
<調査概要>
調査目的:住民と地方自治体のコミュニケーション(住民参画・広報・公聴など)の現状や課題、地方自治体の問題意識を明らかにし、今後あるべき地方自治体におけるコミュニケーションの未来を展望すること
調査主体:有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 パブリックセクター
監修:慶應義塾大学SFC研究所上席所員 岩田崇氏
調査期間:2019年2月20日~2019年3月15日
調査対象:全国の市・町1535 (792市、743町)
調査方法:郵送によるアンケート調査
有効回答件数:565件
設問数:20問(記述除く)
<出典元>
「自治体コミュニケーションの未来を展望する調査 2019」発表
デロイトトーマツ