働き方改革などと並び、ミレニアル世代の間で関心が高まる「クオリティオブライフ」。人生の質や、生活の質と訳されることが多いクオリティオブライフは、私たちが人生を送る上で満足度を表す指標のひとつだ。
2019年5月中旬、ドイツ銀行が行った最新調査レポートで、各都市のクオリティオブライフ・ランキングが発表された。ランキングで1位だったのは、スイスの首都チューリッヒ。昨年1位だったニュージーランドの首都ウェリントンを抑え、今年は1位に君臨している。
今回は、同ランキングの総合順位を俯瞰しつつ、ランキングを構成する各指数に注目し、世界各都市がどのように評価されているのか解説しつつ、クオリティオブライフに関わるであろうその他の指数も交えて紹介する。
クオリティオブライフ指数の指標
今回発表された「クオリティオブライフ指数」は、世界56都市の生活の質を測り、その水準を調べてランキングにしたものだ。ドイツ銀行が行っている年次調査の第8回目となる。これらの数値は、ドイツ銀行リサーチ会社がインターネットや二次的な情報源から投稿された価格や内容を調査して集められたデータを基に作成している。
具体的には、対象都市の生活の全体的な質に影響を与える以下の基礎サブカテゴリー8つを測定し、集計された。
(1)消費者購買力(購買力指数)
(2)地域の犯罪および安全性(安全性指数)
(3)ヘルスケアの利用可能性と総合的な質(ヘルスケア指数)
(4)一般消費財の総原価(生活費指数)
(5)住宅の価格帯(不動産価格対所得比)
(6)渋滞および通勤時間(通勤指数)
(7)全体的な公害(公害指数)
(8)地域の気候(気候指数)
クオリティオブライフ指数、ランキング結果と各都市の特徴
総合評価でトップとなったスイスのチューリッヒは、いずれのサブカテゴリーでも1位にはならなかったものの、総合的にトップの座を獲得した。
チューリッヒは購買力指数で2位、世界で3番目に安全な都市にランクされ、空気の質も高く5位にランクインして総合を押し上げ、1位となった。逆に、物価はかなり高く、生活費指数は最下位の56位になっていたものの、全体のクオリティオブライフ指数は堂々の1位を飾った。
次いで、去年の総合1位から今回総合2位と、1位の座を惜しくも譲ったのはニュージーランドの首都であるウェリントン。短い通勤時間は世界2位、公害指数も2位を記録し、不動産価格対所得比でも世界5位に健闘した。
総合3位にランクインしたのは、デンマークの首都コペンハーゲン。通勤時間の短さや、公害レベルの低さ、ヘルスケア指数と安全性も世界5~7位と安定的に位置し、総合3位となった。
4位以下は、4位イギリス・エディンバラ、5位オーストリア・ウィーン、6位フィンランド・ヘルシンキ、7位オーストラリア・メルボルン、8位アメリカ・ボストン、9位アメリカ・サンフランシスコ、10位オーストラリア・シドニーとなっている。
この結果では、上位10都市の内5都市がヨーロッパ域内と、引き続き多くのヨーロッパ都市が高い生活環境を維持していることが分かった。その次に上位10都市で多い地域は、3都市のオセアニアであり、アメリカは2都市にとどまっている。
一方で、いくつかのヨーロッパの主要都市は、クオリティオブライフ指数ランキングを下げているのにも、注目が必要だ。
5年前の2014年の調査でトップの座を獲得していたドイツ・フランクフルトはマイナス12位で今年は13位に下落している。フランス・パリは8位下がって36位、イギリス・ロンドンは15位下がって41位にランクダウンしており、全体の後半の順位に名を連ねている。
全体的に、東京以外の大都市は、ランキングの後半になっている点も注目に値する。ナイジェリア最大の都市ラゴスは最下位、中国の首都北京と、フィリピンの首都マニラも下からそれに続いている。ニューヨークは家賃後の可処分所得では世界5位にも関わらず、クオリティオブライフ指数は31位に留まっている。
クオリティオブライフを求めるランキングは、大都市よりも「小さなグローバル都市」の方が優位性を持つようだ。
では、アジア地域内はどうだろうか。アジアで最高だったのは、東京の総合14位。東京は安全性とヘルスケア指数がそれぞれ世界2位と高順位を打ち出しているものの、その他の指数、特に51位の生活費指数、33位の不動産価格対所得比が足を引っ張り、総合14位に留まった。
東京の次にアジアでランクインしたのは、23位のシンガポール。安全性の9位や、公害レベルの低さ15位などが評価されている。5年前から8位アップ、前年度から3位アップと、順調にその順位を上げている。
その他、29位に韓国・ソウル、33位インド・バンガロー、44位香港と続く。香港は不動産価格対所得比が55位と最低レベルとなった。
その他のクオリティオブライフに関わる指標
ただ、お住いの都市のクオリティオブライフ指数が低かったとしても、絶望する必要はない。クオリティオブライフの質は、人によって様々であり、異なる基準が存在することは間違いないからだ。ドイツ銀行のレポートでも「この研究が決定的なガイドラインではない」と注釈を置いている。
例えば、ここ数年で読者の間から要望を受けているのが、「豊かな文化、エンターテインメント、そして社会的活動の機会を測るような指標」もサブカテゴリーとして入れるべきだ、という点だ。
今回ランキング1位になったチューリッヒは、人生の早い段階で長期的なパートナーを見つけ、夜は家で食事をしてからテレビを見る人には理想的だが、活動的にナイトライフを楽しみたい人にとっては向かないかもしれない。なぜならチューリッヒは、デートに出かけるのに最も費用がかかる都市だからだ。
同銀行調査の「Cheap Date Index(=デートにかかる費用ランキング)」では、ノルウェーのオスロ、デンマークのコペンハーゲン、フィンランドのヘルシンキ、東京がデートをするのにはとても高額な都市と、評価されている。反対に、エジプトのカイロでは、無料でピラミッドとナイル川を見ながら、チューリッヒの5分の1の価格でデートをすることが可能だ。
その他にデートが安くできる都市として、インドのバンガロー、アルゼンチンのブエノスアイレス、トルコのイスタンブールなども挙がっている(もちろんデートだけでなく、家族や仲間と外食を楽しむことがこの指標から示唆される)。クオリティオブライフ指数には、外で食事を楽しむというようなライフスタイルは、反映されていない。
同銀行はその他のクオリティオブライフに関わるであろう指標や価格も付随調査している。
例えば経済紙「The economist」の年間購読費はその都市の教育費に値し、1杯のカップチーノの値段は趣味や社交場を楽しむ時間に影響を与えるだろう。マルボロ1ケースの価格、ビールの価格なども各都市ごとにランキングがある。タバコとビールに関しては、「Bad Habits Index(=悪い習慣指数)」と名付けられ、オーストラリア・メルボルンやノルウェー・オスロのそれらの価格は最高レベルに達するため、そこに住む喫煙家や大酒飲みには辛いだろう。
旅行好きの人は、「Weekend Getaway Index(=週末旅行指標)」が低い都市の方が、旅行が安くクオリティオブライフが高いだろう。ミラノやチューリッヒ、マドリッド、ウィーンなどはやはり高価な都市として挙げられている一方、トルコのイスタンブールや、マレーシアのクアラルンプールは、安く行ける週末旅行都市となっている。
社会的にみた生活の質を評価した、クオリティオブライフ指数。身心の健康や安全性、快適な住環境、安定的な購買力から見るクオリティオブライフを、各都市比較するだけでも自分の住んでいる場所の状況が把握できるだろう。ただ、それに加え、良好な人間関係ややりがいのある仕事、自分らしい生活が出来ているかどうかは、外的環境だけではなく、内的行動も含まれるかもしれない。
文:米山玲子
編集:岡徳之(Livit)