英国政府も支援、AIとVRで人気ドラマのインタラクティブ&イマーシブ化プロジェクト
2018年末にネットフリックスが放映したSFドラマ「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」。視聴者が登場人物に代わり意思決定を行っていくというインタラクティブシステムが導入され、もともと人気シリーズであったことも手伝い、ドラマ・映画の未来を示す作品として世界各地で話題となった。
ネットフリックスは、今回の作品を世界的な成功と位置付け、今後も同様のインタラクティブ・コンテンツを発信していく計画という。
ブラック・ミラーは英国発のドラマシリーズ。その英国ではいま、クリエイティブ産業におけるテクノロジー導入を促進する動きが活発化しており、AIやVR・ARを活用した次世代クリエイティブ産業の環境整備・人材育成が進められている。
その一環で実施されるのが、英国でブラック・ミラーと並び高い人気を誇る犯罪ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」のVRインタラクティブ版の制作プロジェクトだ。
制作を担当するのは英VRコンテンツ制作企業Maze Theory。同社の発表によると「VR版ピーキー・ブラインダーズ」ではAIを活用したインタラクティブシステムが導入され、視聴者のジェスチャー・動き・声などに登場人物が反応、それがストーリー展開にも影響を与えるものになるという。リリースは2020年の予定で、すべてのVRゲームプラットフォームに対応するとのこと。
インタラクティブ性を実現するために、機械学習を活用し、視聴者の動きを読み取る仕組みを構築するようだが、その詳細については明らかにされておらず、さまざまな憶測が飛び交っている状況だ。1つは現在すでにゲームで利用されているモーショントラックセンサーの活用が考えられる。人の動きに関するデータベースは構築されており、機械学習で精度の高い予測モデルが構築できれば、視聴者のさまざまなジェスチャーに対応する仕組みは実現可能となるだろう。
もしこのような仕組みが構築されれば、「VR版ピーキー・ブラインダーズ」では「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」以上のインタラクティブ性が実現することになる。ドラマ・映画のあり方を大きく変えるだけでなく、英国クリエイティブ産業の未来を占う試金石になるとして、英国政府も同プロジェクトを支援する構えだ。
英国政府ウェブサイトによると、2017年の英国クリエイティブ産業の規模は1,000億ポンド(約13兆6,000億円)に上った。今後はテクノロジー利用を加速させ、次世代クリエイティブ産業の構築を目指す。「VR版ピーキー・ブラインダーズ」を含めたイマーシブコンテンツの制作には、計3,300万ポンド(約45億円)の政府資金が投じられるという。
現実と仮想空間の境界薄れる?没入感を高めるテクノロジー
ドラマや映画の未来を占う上で、Maze Theoryの取り組みは興味深いことを示唆している。それは、インタラクティブ性とイマーシブネスが高まっていくことで、ドラマ・映画とゲームの境界線が薄れていく可能性だ。
ドラマ・映画が目指すのはそれらが表現する世界に視聴者を没入させること。これを実現する上でVRがうってつけのツールであることは言うまでもないだろう。
VRに関しては、グラフィクスクオリティが大幅に向上し、ハプティックスーツなどの開発も進んでおり、現実空間の再現度は数年前に比べ大幅に高まっている。VRゲームの最新動向を見れば一目瞭然だ。
たとえば、2019年6月に開催された世界最大のゲーム見本市E3で発表されたオキュラス・リフト対応のVRゲーム「Lone Echo 2」。宇宙空間でさまざまな課題を解決していくゲームだが、2次元画像からもグラフィクスクオリティの高さをうかがうことができ、VR空間であれば没入感が一層高まるであろうことは想像に難くない。
GPUの高度化や映像処理アルゴリズムの進化に伴い、ゲームエンジンが作り出すCGはより現実に近づいている。2020年にリリース予定の「VR版ピーキー・ブラインダーズ」。そのグラフィクスクオリティが現在のVRゲームよりも高くなることは十分に考えられる。それをVRゲームと呼ぶのか、インタラクティブVRドラマと呼ぶのか、呼び方に関して多少の議論があってもよいのかもしれない。
グラフィクスだけでなく、触感刺激によってリアリティを再現するハプティックスーツの開発動向からも目が離せない。
CES2019で注目を集めたTeslasuitは、ハプティックスーツを開発する主要企業の1つだ。
ハプティックスーツは、ユーザーがVR空間で受けた衝撃を再現するテクノロジー。その中でもTeslasuitは、衝撃に加え、温度を再現する技術も開発しており、ユーザーは熱さや冷たさを感じることもできる。さらには、心拍数などの生体データやモーションデータの取得も可能で、ゲームだけでなく、リハビリや防災訓練、アスリートのトレーニングなどさまざまな用途での活用が期待されている。
ネットフリックスやMaze Theoryの取り組みをきっかけとして、ドラマや映画におけるAIやVRの活用がどれほど広がるのか、その行方が気になるところだ。
文:細谷元(Livit)