広告は見るものから「遊ぶ」ものへ。ゲームと融合する「Playable Ads」のインパクト

「テレビ離れ」が進んでいる現代。若い世代ほどテレビを見る時間が減り、スマホでデジタルコンテンツを視聴する時間が増えている。インスタグラムやYouTubeがその代表格といえるだろう。

こうしたトレンドは世界各国のソーシャルメディアやYouTubeへの広告投資の増加からも見て取ることができる。

eMarketerによると、米国ではテレビの広告支出額は2016年712億ドル(約7兆7,000億円)だったが、2017年に702億ドル、2018年には698億ドルに減少。2022年には681億ドルまで下がる見通しだ。一方、モバイル向けの広告支出は、2016年の470億ドルから2018年には767億ドルに増加。さらに2022年には1,413億ドルと現在比で2倍近く増加することが予想されている。

現状ではソーシャルメディアと動画配信プラットフォームが有力な広告出稿先になると見られているが、若い世代のスマホ利用はいまも変化を続けており、この先新たな有力デジタルメディアやプラットフォームが登場することも想定されている。

その1つが「ビデオゲーム」だ。スマホの普及に伴い、世界中でモバイルゲーム利用者が急増。ソーシャルメディアやYouTube以上に影響力を持つデジタルコンテンツ/プラットフォームになる可能性も示唆されている。

また、ゲーム利用者の急増を背景に、広告自体をゲームにする「Playable ads(遊べる広告)」の取り組みも増えており、ゲームを取り巻く環境は目まぐるしく変化している状況だ。その最新動向を探ってみたい。

全世界24億人、生活に浸透するゲーム、ソーシャル化進む可能性も

ゲーム市場専門のリサーチ会社NewZooの調査によると、2019年世界中のモバイルゲーム利用者は24億人に達する見込みだ。これに伴いモバイルゲーム市場も活況を呈している。

コンソール、PC、モバイルデバイスを含んだゲーム市場全体の売上規模は、2018年世界中で1,387億ドル(約15兆円)となった。このうちモバイルの割合は44%で、売上規模は622億ドル。

2019年にはゲーム市場全体の売上高は1521億ドル(約16兆5,000億円)、モバイルの割合は前年比1ポイント増加し45%となり、売上規模は685億ドルに拡大するという。また2022年には全体が1,960億ドル(約21兆円)、モバイル割合は49%となり、売上は954億ドルまで増加する見込みだ。

モバイルゲームの台頭は他の数字からも確認することができる。米ゲーム開発会社ActivisionとNewZooが、米国、英国、ドイツ、フランスのモバイルユーザー1万2,000人以上(18〜65歳)を対象に実施した調査では、過去1週間でどのモバイルアプリを使ったかという質問で、50%がゲームと回答。

67%で1位となったソーシャルメディア、56%で2位となったショッピングに次いで3位となったのだ。またこの割合は、18〜20歳の層では66%となり、若い世代ほどモバイルゲームが日常に浸透していることを示唆する結果となった。

どのモバイルゲームが人気なのかも気になるところだろう。過去1カ月間どのモバイルゲームで遊んだのかという質問では、キャンディクラッシュがトップとなり、その割合は35%に達した。

次いで、ポケモンGO、フォートナイト、アングリーバードが並んで19%、マリオランが16%、クラッシュロワイヤル15%などと続いた。キャンディクラッシュはフランスでとりわけ人気が高く、その割合は41%に上った。

ゲーム人気の高まりは、ソーシャルメディアや動画プラットフォーム利用に大きな影響をもたらす可能性が指摘されている。

米CBSが伝えたeMarketerのデータによると、米国ではソーシャルメディアでコミュニケーションを取るよりも、オンラインゲーム上でコミュニケーションを取るという人が増えていることが判明。Facebookの1日あたりの平均利用時間は2017年に41分だったが、2018年には38分に下がった。この先も上昇する見込みはなく、2021年にはさらに減少することが予想されている。また、スナップチャットも2017年をピークとして、その後は横ばいが続く見込みだ。

eMarketerのアナリストは、YouTubeを見ながらソーシャルメディアを利用するマルチタスクを実行することは難しくないが、ゲームの場合高い集中力が求められるため、そのことがデータにあらわれていると指摘している。

ソーシャル化するゲーム

フォートナイトなど、ソーシャルネットワークの要素を持つゲームも増えており、eMarketerの予想以上にソーシャルメディアからゲームへのシフトが進む可能性も大いにあるだろう。

「遊べる広告」でブランド認知が向上? 注目高まるPlayable Ads

教育や社員トレーニングにおいて「ゲーミフィケーション」の考えを取り入れる事例が増えていることなどから、ゲームの有用性や可能性への注目度が高まっていることがうかがえる。

広告分野ではゲーム要素を取り入れた「playable ads(遊べる広告)」を導入する動きが活発化しており、今後さらに広がりを見せるかもしれない。

ウェブサイトのバナー広告、テレビやYouTubeの動画広告など、さまざまな広告が存在するが、ほとんどの場合ユーザーにとってこれらは煩わしい存在として扱われ、スキップされたり、ブロックされる対象になっている状況だ。

インタラクティブ性とゲーム要素を取り入れ、広告体験を楽しいものにするplayable adsは、この状況を大きく好転させる可能性があるとして多くの企業から注目を集めている。

最近ではニューバランスがplayable ads施策を実施し注目を集めた。「Cloud Jumper」と呼ばれ、うさぎのようなキャラクターを操り、雲を蹴りひたすら上を目指すというシンプルなゲーム。同社が強調したいランニングシューズの「軽快さ」をゲームで表現している。

ニューバランスのplayable adsページ

同社レポートによると、中国、米国、日本でこのplayable ads施策を実施。全体のブランドリフトは18.84%だったという。

ブランドリフトとは、広告に接触していない人と比較して接触した人の間でブランド認知や購買意欲がどれほど向上したのかを測る指標。国別で最も効果があったのは中国で、ブランドリフトは28.9%となった。米国では14.6%、日本では10.3%。ゲームの平均プレイ時間は21秒で、レプレイ率は84%に上った。

Playable Adsが常にうまくいくかどうかは未知数であるが、現時点でその効果を評価する人は少なくないようだ。AdColonyの調査では、約70%の広告主がplayable adsを効果的と評価。またFyberの調査では、アプリ内で最も効果が高い広告は何かという質問で、Playable Adsが28%でトップとなっている。2位はインタラクティブ広告で23%、3位はリワード動画広告で22%。

モエ・エ・シャンドンのplayable adsページ

オンライン広告の国際業界団体であるIABは、playable adsへの注目度の高まりを受け2019年6月にplayable adsガイドラインを発表しており、今後さらにゲーム要素を含んだ広告施策が増えてくることが予想される。視聴するものから遊ぶものへ。ゲームとの融合で広告はどのように進化していくのか、今後の展開が楽しみである。

文:細谷元(Livit

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