目指すは“どこでもジム”。BeatFitが目指す新時代のフィットネスの形

「日本でもアメリカと同じぐらいフィットネスを浸透させるには、ITが必要だ」

株式会社BeatFit CEO本田 雄一氏は、ニューヨーク留学中にこの気づきを得たという。

フィットネスの最先端として、ニューヨークでは当時からITを取り入れたサービスがいくつも発表されていた。特に「ITとの連携」は印象的だったと本田氏は述べる。それだけ米国のフィットネスベンチャーが開発するプロダクトは、群を抜いていたのだ。

IT×フィットネスの可能性に刺激を受けたこと、さらに本田氏はトレーニングが趣味の一つだったこともあり、勉学に励む傍ニューヨークの様々なジムへ足を運んだり、フィットネス×ITのスタートアップで働く友人から開発現場について話を聞いたりするようになる。

趣味であるフィットネスとITを組み合わせた仕事を作りたいという気持ち、そこに米国で得た知見が合わさって完成したのがBeatFitだった。そして、CPOの永田氏、COOの宮崎氏と共に「テクノロジーでココロとカラダがより健康な社会を作っていく」をミッションに掲げた、フィットネス音声ガイドの定額聴き放題アプリ「BeatFit」をリリースする。

フィットネスの本場であるニューヨークでビジネスヒントを得た彼は、日本におけるフィットネスやパーソナルトレーナーのあり方についてどのように考えるのか。彼らが目指す新たなフィットネスの形を尋ねた。

本田 雄一(ほんだ ゆういち)
⼤学卒業後、リクルートコスモス⼊社。2007年株式会社DMXを設⽴し、不動産サイト(R不動産)、シェアスペース運営事業等を⾏う。2017年ニューヨーク⼤学経営⼤学院(MBA)修了。2018年1⽉株式会社BeatFitを共同創業し、現在に至る。

IT×フィットネスが生み出す。新たなフィットネスコンテンツ

――改めて、フィットネス音声ガイドアプリ「BeatFit」について教えてください。

本田:BeatFitは、ジムで取り組む人が多いランニングやバイクをはじめ、自宅でもできる筋トレやストレッチなど、有酸素・無酸素といった運動の種類によらず様々なジャンルのトレーニングをサポートする音声コンテンツを毎週配信しています。

運動レベルの変化に合わせて聴いてもらえるため、入門から上級まで、運動に取り組む人たちが飽きずに取り組めるようコンテンツを設計しました。運動時間も5分から60分まで選べるため、その日のメニューに合わせて選択は可能です。

またパーソナルトレーナーを個別に契約しようとすると月2〜4万円、食事などの健康管理も行なってくれる専門サービスだと2ヶ月30万円という金額設定のため、月単位で見ると15万円近くします。そのため、持続可能な環境でトレーニングに専念してもらうために月額費を抑えました。

BeatFit 公式YouTubeチャンネル

――まるで自分専用のトレーナーが隣にいるような感覚ですね。

本田:BeatFitを聴きながらトレーニングすることで、コーチが耳元でアドバイスしてくれる感覚を味わえます。

トレーナーの指示や掛け声に合わせ、アップダウンをつけながらレッスンに取り組むことで、メリハリのあるトレーニングが可能です。

“一人でも、フィットネスを楽しめるように”という思いが込めているため、ジムはもちろん、野外や自宅など場所を選ばず使用してもらえるような設計をしています。現在、ユーザーのおよそ30%がジム、70%がそれ以外の場面で使用しています。

――動画コンテンツが主流の中で、音声コンテンツであることの強みは何でしょう。

本田:音声コンテンツの強みは、トレーニング効果を最大限に発揮させることです。

最近は、ジム内のマシンに液晶パネルが付いたこともあり、映画やテレビを視聴しながらトレーニングに励む人が増えました。しかし、運動している自身よりも画面に集中が行ってしまうため、ながら運動になってしまうことがよくあります。

例えば、屋外でジョギングをしながら、スマホ動画を見ている自分を想像してみてください。片手にスマホを持ったまま、目線が画面に合っては、走ることはできても、動作に集中できませんよね。だからこそアドバイスは音声で伝える必要があります。

音声・動画それぞれのメリットを活かすためにも、トレーニング指示は音声、How To系は動画というように状況に応じた使い分けをBeatFitでもしています。

――コンテンツ制作において工夫している点を教えてください。

本田:“モチベーションを上げる”ことです。例えばトレーニング時の音源ですね。有料楽曲を使用することで、「あの曲、聞いたことある!」というような楽曲が多数登場します。

ただ、音楽を流すだけではなく、サビに合わせてスピードアップするなど、曲のノリやテンポに合わせてトレーニングをコントロールすることで、モチベーションも一緒に調整できるようにしました。心拍数といったボディコントロールも行います。

コンテンツの音声には、ランニングやヨガ、瞑想などその分野のトップトレーナーをコンテンツごとに起用しています。プロのトレーナーが自ら話すことで、よりサポート感が高まります。

「スマホ」「ワイヤレスイヤホン」「24時間ジム」…追い風が吹くフィットネス業界

フィットネス市場の可能性やIT化に対する動きはどのようになっているのだろうか。日本市場とフィットネスの本場であるアメリカを例に説明してもらった。

――日本のフィットネス市場について教えてください。

本田:民間のフィットネスクラブの市場規模はおおよそ4,000〜5,000億円ほどです。パーソナルトレーナー市場だけでみると、この5年間でフィットネスサービスの台頭を受け、一気に市場は広がりました。

それに対してフィットネス大国であるアメリカはの市場規模は、およそ3兆円です。日本の約6〜7倍に相当します。パーソナルトレーナー市場はもちろん、ITと連動したトレーニングスタイルも発展しています。

自宅でフィットネスクラスを受けられるインドア・サイクリングバイクを開発したPELOTONをはじめ、フィットネスベンチャーの成長が目立ってきました。

――日本もこれからアメリカのようにIT×フィットネスの動きは加速していくのでしょうか?

本田:「スマートフォンの普及」「ワイヤレスイヤホンの登場」「24時間フィットネスジムのシェア拡大」など追い風があるため、国内においてもフィットネスのIT化はより広がっていくのではないでしょうか。

トレーナーが居なければできなかったトレーニングを、時間と環境を選ばずに一人でもできるようになるからです。

フィットネスジムでもITコンテンツの作成やトレーニングデータ管理が進んでいます。将来的にはそのジムの有名トレーナーや講師たちが、コンテンツとして出演し、会員のトレーニングをどこに居てもサポートできる形が登場してくるかもしれません。

――近年はダイエットブームを中心にフィットネスに取り組む人が増えてきました。こうした環境の中、BeatFitをはじめフィットネスコンテンツを広めるために重要なことは何でしょう。

本田:「正しい知識を提供しているとユーザーにどれだけ理解してもらえるか」です。これは、BeatFitだけでなくダイエットが関わる産業全てに言えます。

私はパーソナルトレーナーと共に、肉体改造をしたことで世界が変わりました。その時の経験から言えるのが、筋トレはセンスではなく、サイエンスです。食べ物・トレーニングを計画的に行うことで、筋肉は必ずつきます。

しかし、今のダイエット業界では「〇〇だけ食べたら痩せる」「△△をしていれば、簡単に筋肉がつく」のような科学的根拠とはかけ離れた偏った情報が溢れているのが現状です。

私たちは、ただ運動コンテンツを提供しているのではありません。BeatFitを通して正しいトレーニング知識を知ってもらい、楽しく心と体が健康となる社会を作っていきたいのです。

楽しみながら成功を重ねて作り出す運動習慣

――市場の広がりが期待されるIT×フィットネス業界ですが、ユーザーが長期的にコミットするためには何が必要だと思いますか?

本田:「エンタメ感」「成功体験」は欠かせません。トレーニングをどれだけ頑張ろうと思っても、自身が楽しいと感じなければ、続けることは難しいでしょう。

そのために欠かせないのがエンタメ感です。トレーニングメニューはもちろん、トレーナーのトークや曲、全てが合わさってその雰囲気が作り出されます。

それ以外に、ユーザー自身を褒めることも大切です。トレーニングによっては正直辛いメニューもあります。BeatFitにも楽して痩せたいという人に向けて、鬼教官が担当している筋トレメニューがあります。内容はめちゃめちゃハードですが、続ければしっかりと成果の出るメニューです。

しかし、効果があると頭では分かっていても、人は厳しいだけだと挫折してしまいます。だからこそ、辛いトレーニングを乗り越えた時の褒めが重要なのです。

これらの要素が積み重なって、はじめて成功体験が生まれます。一人では挫けてしまうからこそのトレーナー。対面でなくても、これらの要素を抑えればオンライン上でも二人三脚で習慣の循環は作れます。

フィットネス、パーソナルトレーニングにおけるIT化は、ベンチャー、フィットネス企業共に可能性のある領域です。変化が進むに伴い、自身でトレーニングに励む人々も増えてきました。

ITでサポートできる部分はもっとたくさんあると思うので、これからもBeatFitを利用してくれるユーザーが、楽しくトレーニングに取り組めるような環境を業界も巻き込みながらサポートできたらと思います。

取材・文:スギモトアイ
写真:西村克也

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