日本のビジネスシーンにおいても「AI」というキーワードが登場する頻度が高まってきている。生産性改善やコスト削減、さらには顧客体験の向上などさまざまな効用が期待され、人材拡充や投資を検討する企業が増えているといわれている。

欧米でもビジネスでのAI活用の検討・取り組み・投資は活発化しており、今後さらに活気付くことが予想されている。一方で、データ不足や経営層と中間管理職の間の認識の違い、人材不足などの課題が浮上、期待と不安が入り混じった状況となっている。

今回は、最新の調査で明らかになった数字を参考にしながら、海外のAI動向を追ってみたい。

米国企業経営層のAIセンティメント、85%が楽観視

アーンスト・アンド・ヤングが2019年5月に発表したレポートでは、米企業経営層のAIに対する楽観的なセンティメントが明らかになった。

米企業経営層500人に聞き取りを行ったこの調査では、85%がAIに対して期待を抱いており、投資を増やす計画があることが判明。2019年中の投資を計画している割合は87%に上った。

米企業経営層がAI投資を加速させる理由の1つとして挙げられるのが、米国政府への高い信頼だ。このことは同調査の他の質問項目で如実にあらわれている。

まず世界のAI競争に関して、どの国が主導しているのかという質問では、52%が米国と回答したのだ。米国の次は中国となったが、その割合は24%にとどまった。以下、日本9%、カナダ4%、ドイツ4%。

また企業のAI導入で最もオープンな政策を持つのはどの国かという質問では、80%が米国と回答。一方、中国は49%、日本は43%にとどまった。さらに国家レベルのAI長期戦略に関して、最も優れた戦略を持つ国はどこかという質問では50%が米国を選択。中国は24%、日本とカナダはそれぞれ7%だった。

米企業経営層の間では、世界の中でも米国政府への期待はとりわけ高いものになっているようだが、他国が追随しているとの認識も高まっている。米国のAI戦略遂行において、どの国が障壁になるかという質問では、47%が中国と回答。このほか、ロシア14%、日本12%、英国7%、カナダ5%などとなった。

米企業経営層の大半がAIに対して前向きな姿勢を見せているが、AI導入を進めるにはいくつかの障壁があり、これらを乗り越える必要がある。どのような障壁があるのか。最大の障壁はAI人材不足で、経営層の46%が課題だと回答。次いで、規制・セキュリティリスク(40%)、インフラ不足(37%)、データの質・量不足(36%)、社員のAIに対する信頼(33%)、クライアントの信頼(32%)、社内シニア層のサポート不足(26%)などが挙げられている。日本でもAI人材不足が叫ばれているが、米国企業も同じ問題に直面していることが示唆されている。

ウォルマートがこのほどオープンしたAI店舗「インテリジェント・リテール・ラボ」(ウォルマート・プレスキットより

AIアーリーアダプター企業、大半が3年以内に変革起こると予想

デロイトが2019年5月に発表したレポートは、すでにAI施策を実施するアーリーアダプター企業の幹部を対象に意識調査を行っており、上記アーンスト・アンド・ヤングの調査とは別の視点でAI動向を見ることができる。

デロイト調査の対象となったのは、オーストラリア、カナダ、中国、ドイツ、フランス、英国、米国ですでにAI施策を実施する企業のIT部門幹部1900人。AIアーリーアダプター企業のIT幹部たちは、AI施策を実施し、どのようなことを感じているのかを知ることができる。

自社のビジネスにおいてAIの可能性をどう見ているのか。全体では57%が3年以内にAIによって自社ビジネスは大きく変革するだろうと回答。AI活用でプロダクト/サービスの強化やビジネスオペレーションの最適化が進むと考えているようだ。

この割合は国別で見ると特徴が明らかになっており、国ごとのセンティメントを測る上でも役に立ちそうだ。3年以内にAIがビジネスを変革するだろうと見るIT幹部の割合が最も高いのは中国で、実に77%がそうなるだろうと回答。次いでフランスが63%、ドイツが60%と欧州においても期待値が高いことを示している。最も低かったのはオーストラリアとカナダでそれぞれ51%にとどまる結果となった。

AIによってビジネス上の競争優位を得ることができるのかどうかという認識でも、国ごとの違い鮮明になっている。AIでビジネス上の競争優位を得ることができると考えている割合は中国が最も高く、55%が可能との認識を示したのだ。50%を超えたのは中国のみで他の国では20〜40%台、全体平均は37%にとどまった。2位以下の割合は、ドイツ47%、英国44%、米国37%、カナダ31%、フランス27%、オーストラリア22%。

AIに対する信頼が他の国に比べ高い中国。このことはAIリスクに対する懸念の小ささからもうかがうことができる。AIのレコメンドが間違っている場合など、AI施策にはさまざまなリスクが伴うことが考えられる。こうしたAIリスクに対して大きな懸念を抱いている割合は、全体で43%に上ったが中国では16%にとどまったのだ。

アーンスト・アンド・ヤングのレポートでも示されたAI人材不足。デロイト調査において各国のIT幹部らはどのように感じているのか。AIスキルギャップが中程度から深刻な状態にあると見る割合は全体で68%と高い数値となった。国別では英国が最も高く、73%のIT幹部がAIスキルギャップを感じていると回答。次いでオーストラリア、カナダがそれぞれ72%、米国68%、ドイツ62%、フランス57%となった。中国は最も低く51%だった。

全体的にはAIへの関心が高まり、取り組み・投資が増えていくことが予想されるが、どの国でも人材・スキルギャップ問題がAI普及に影を落としていることが示されている状況だ。CompTIAによると、米国では過去1年間でAI関連求人は159%増加。一方、AIを含めたIT職は約70万件埋まっていないという。

マッキンゼーが推計するところでは、AIによって生み出される価値は年間3兆5,000億〜5兆8,000億ドルに達する可能性がある。このポテンシャルを引き出すことができるのかどうか。各国の動きから目が離せない。

文:細谷元(Livit