近年、格闘ゲームやシューティングゲームの強さをスポーツとして競い合うe-sports市場が、大きな盛り上がりを見せている。
2018年に株式会社Gzブレインが発表した調査では、2022年までに前年比13倍の急成長を経てe-sports市場は、約100億円規模にまで拡大すると予測されている。
そんな中、日本の格闘ゲームシーンで史上3人目の女性プロゲーマーとして現在活躍しているのが”はつめ”さんだ。
はつめさんは、プロゲーミングストリーマー集団「父ノ背中」に2018年7月にソロ活動を経て加入し、「ストリートファイターV」の大会のほか、タレントとして様々な媒体で活動している。
今回は、そんなはつめさんに、ゲームを好きになったきっかけからプロになった経緯、プロゲーマーという職業の面白さと難しさについてお話を伺った。
“父の背中”が私をゲームの世界に誘った
ーー現在の主な活動内容について教えてください。
はつめ:最近の主な活動としては、Web媒体の取材やインターネット番組に出演させていただいたり、自身のYouTubeチャンネルで配信をしたりしています。
ゲームの活動では、国内外の大会に向けて他の格ゲーマーと集まって格闘ゲームの練習をしたりしていますね。
なかなか、プロゲーマーって普段どんなことをしているのか想像がつきにくい部分があると思います。例えば、普段の練習はオンラインでやれば良いと思われるかもしれませんが、インターネット環境での微妙なラグや条件などを考えて、オフラインで集まったて練習をしていたりします。 あとは家でゴロゴロしたりも結構あります(笑)
ーーはつめさんがゲームを好きになられたきっかけは何でしたか。
はつめ:もともと父が大のゲーム好きで、よくあるカジュアルなコンシューマゲーム機ではなく、PCゲームが出来るスペックのゲーミングPCが自宅に揃っている環境でした。
私は昔から引きこもり気質だったので、幼稚園の時も外に遊びに行くより、家で父とゲームをして遊ぶことが自然と多くなりました。
そうしているうちに、オンラインゲームやシューティングゲームにハマり、小学校4年生の頃には、PCを2台並べてゲームに熱中していましたね。
初めて出会ったゲーム大会が価値観を変えた
ーーはつめさんは格闘ゲームを得意とするプロゲーマーですが、なぜあえて格ゲーを選ばれたのでしょうか。
はつめ:格闘ゲームの魅力に出会ったのは、高校2年生の冬でした。
私は秋葉原にあるイベントスペースでアルバイトをしていました。たまたま仕事が入っていない日に忘れ物を取りにお店に入ったら、バイト先で偶然格闘ゲームの大会が開催されていたんですよね。それが、私にとっての「格闘ゲーム」との初めての出会いでした。
当時、人気だった『ウルトラストリートファイターⅣ』というゲームを使って試合が行われていました。現在格闘ゲームの主流となっている『ストリートファイターV』が新しく発売されるタイミングで、前作が使われる最後の大会だったんです。
会場には、プロゲーマーのウメハラさんをはじめ、今でもトップを走っている方々も参戦されていました。
勝っても負けてもその場が大盛り上がりする様子を目の当たりにして、ゲームの大会でこんなに大勢が盛り上がれるのは楽しいことだと思ったし、何よりも私の目にはステージで戦う人たちがすごくカッコよく映って見えました。
それを機に格闘ゲームに興味を持つようになって、少しずつ自分でも練習するようになりました。
好きなことで生きていくために、“自分への保険”をなくす
ーーそこから大学受験をやめてまでプロゲーマーになろうと思ったのは何故ですか。
はつめ:自分の好きなことで生きていきたいと思ったからですね。
もちろん、格闘ゲームに出会った当初は、はじめからプロゲーマーになろうとは考えてはいませんでしたし、大学受験のための準備もしていました。
アルバイトをしている時からゲームイベントのMCをやらせていただくこともあり、将来は何かしらゲームに関連する仕事に就きたいと思っていました。なのでそういった意味でも、ゲームに携われる職業に繋がるような大学は選んでいました。
でも、「自分の将来やりたいこと」について10分間プレゼンをするというAO入試の準備をしていた時に、本当に自分のやりたいことは何だろうと考えたんです。
ずっとゲームをプレイすることが何よりも好きだったし、いま選ぼうとしている選択肢は、ある意味で自分に対して「保険」をかけてしまっているのではないかと。
そうではなくて、たとえどうなっても構わないから、人生1回きり自分の好きなことをできる限りやってみようと思い直しました。
そう思い立った日が入試の1週間前とかだったので、学校の先生には「すみません、もう大丈夫です」と謝りながら進路を伝えました(笑)。
そこからは1年間くらい、自分で名刺を作って個人活動をしたり、知り合いのお仕事を手伝ったりして、企業スポンサーがつくようになり、その後はいまのチーム(父ノ背中)に入って、という感じですね。
好きなことが職業だからこそ面白さと難しさが「表裏一体」
ーー実際にプロゲーマーになってみて、まずどんなことを感じましたか。
はつめ:これは良いところと悪いところがあると思うんですけど、若い女性でプロゲーマーという珍しさからたくさん注目していただけるのはとても嬉しいことなのですが、その反面、ビジュアルで色々言われたり、ナメられたりすることはよくありますね。
一方で、格闘ゲーム業界ってすごく平等な面もあると思っていて、強ければ性別関係なく周りの仲間から素直に実力を認めてもらえますし、負けても応援し続けてくれるファンの方がいるので頑張れています。
あと感じたこととしては、もちろんゲームが好きでこの仕事をしているのですが、たまに上手くいかないこともあって、一瞬ゲームから離れたいと思うときがあっても、ほかの逃げ道が少ないなと思うことはありますね。
でもやっぱりゲームが心から好きですし、大会などで海外のプレイヤーと知り合うと、同じゲームが好きというだけですぐに打ち解けて合って、美味しいごはんを一緒に食べに行ったりすることがすごく楽しくて。
そういうことは、普通の職業に就いていたら絶対にできなかった経験だなと思います。
ーープロゲーマーとして活動する面白さと難しさは何だと思いますか。
はつめ:面白さと難しさは表裏一体だと思っていて。面白いのはやっぱり、自分の好きなことを極められる環境が常にあることだと思います。
一方で、やり続けないといけない辛さもあるので、本当にウラオモテのある薄い紙がくるくる回っているという感じがしますね。
ゲームをお仕事としてやっている以上、求められるものは必ずありますし、人前に立つことも多いのでSNSや配信での立ち回りなどもそうですし、見えない“何か”と戦わないといけない時もあります。
まだまだこの先上がるか下がるか分からない業界なので、それでも自分の人生を全ベットできる勇気がある人は挑戦してみると、面白い経験が出来るんじゃないかなと思います。
ーーどんな時にやりがいを感じますか。
はつめ:大変なこともあるんですが、やっぱり好きなことを続けられるというのは、私にとってとても嬉しいことだなと思います。
プロゲーマーとして心がけていることがあるとすれば、自分が初めて格闘ゲームを見た時に感じたワクワクした気持ちや興奮を色んな人に伝え続けたいですね。
私が大会でゲームをプレイした時に、お世話になっている方や同世代のプレイヤーから、SNSとかで「感動しました!」って言ってくれてるのを見ると、自分は好きなことをしているだけなのに人の心を動かせるんだなって思えるのは、嬉しいというか楽しいというか、やってよかったな、ああこれがやりがいってやつなのかなとすごく思いますね。
トッププレイヤーになるに“人生を全ベットする覚悟”が必要
ーーとは言え、誰もが人気プレイヤーになれるとは限らない…。
はつめ:そうですね。ウメハラさんの『悩みどころと逃げどころ』という本があるんですけど、その本の最後に「おすすめはしないけど、本当にやりたい気持ちがあるなら、歓迎します」という内容が書いてあって、私もプロゲーマーになってみようと思ったきっかけの一つです。
実際にこの業界に入って本当にその通りだなと思って。
つまり、いま第一線で輝いている人たちの下には、数えきれないほどのプレイヤーがいます。
人気プレイヤーになるためには、実力だけでは足りなくて、運やタイミング、どれだけ自分を理解出来ているのか、ということも重要になってきます。
それでもそのギャンブルに、自分の人生を全ベットできるなら、このプロゲームの世界は超楽しいんじゃないかなと思いますね。
ただ別に恐いところではなくて、結果が出なくても応援してくれるファンがいるから頑張れるし、格ゲー業界の先輩方もとても優しくて、落ち込んだときも励ましてくれて。
良いところも悪いところもちゃんとフィードバックしてくれるので、とても幸せな環境に身を置けていると思います。
どのような変化が起きてもゲーム好きが集まる業界であり続けて欲しい
ーーe-sportsの人気が近年高まってきていますが、プロゲーマーという職業は、今後どういう形で発展していくと思いますか。
はつめ:それはすごく難しい質問ですね(笑)
職業としてのプロゲーマーだけじゃなくて、e-sports業界自体がここ3,4年でグッと人気が出て、オリンピックの話なども出たから盛り上がっていますが、この先どうなっていくかというのは、本当に予想がつきません。
ですが今後、ゲーマーの社会的な地位が上がっていくにしろ、逆にどんどんアングラな世界に戻っていくにしろ、結局のところゲームが好きで集まっている人たちという事実はいつまでも変わらないと思うんです。
私はそこがすごくいいところだなと思っているんですが、やはり市場が盛り上がってビジネス的にも豊かになっていくと、そのゲームが好きだからプロになるというよりは、お金が欲しいという理由で業界に入ってくるという人たちも一定数増えてきます。
そういう入り口を否定するわけではありませんが、ゲームが好きな身としては、稼ぐ場所という考え方が大きくなると何かが変わってしまう気がして、それがいま怖いことですね。
ーーe-sportsのテレビ番組などを見ていると、選手の方々から熱いゲーム愛が伝わってきます。
はつめ:そうなんです。もちろん、スポーツ選手としての一面もあるのですが、チームのメンバーもみんなすごく面白くて魅力的な人たちなので、もっといろいろなお仕事をしてもらいたいですね。
業界としても世間でプロゲーマーの認知度が上がっていくことは大切だと思いますし、まだまだゲームは教育に良くないもの、と思われてしまうこともあるので、そういったイメージを払拭することが出来たらいいなと思います。
現実的なことを言えば、ゲームのお仕事1本で食べていけるプロゲーマーは本当に指で数えるくらいしかいない現状もあるので、e-sports業界がどうなっていって欲しいかと言われたら、みんなが安心してゲームに打ち込める世界になっていってもらえたら幸せです。
発展途上だからこそ自分たちで創っていける業界
ーープロゲーマーに興味を持っている方へアドバイスをお願いします。
はつめ:やっぱり好きなことを仕事にするのは基本的に大変なことですし、先ほども触れましたが、本当に一握りの人たちしか生き残れない世界なんですけど、発展途上だったりそういう狭き門の世界で仕事が出来るってすごく楽しいです。
発展途上だからこそ早めに入っておけば、自分たちでその業界を創っていけるという魅力があるんですよね。
自分はそれを経験してきて、この業界に少しは貢献できているなと感じることもあるので、そういう意味ではやりがいはすごくあります。
ただ絶対に甘い業界じゃないし、売れるためには正直もう参入するのは遅いかもしれない。でも、ゲームを始めること自体に遅いということは絶対にないし、性別も年齢も関係ありません。
私の師匠の言葉で「人生捨てゲーにする気があるなら、したほうが楽しいっしょ」というのがあるんですが、ぶっ飛んだことをしたいとか、人と違うことをしていると楽しいと感じる人はこの業界に向いているかもしれませんね。ちなみにその師匠はカジノで何十万て使ってしまうような人なんですけど。
求人募集みたいな感じで言い直すと、「アットホームかつ労働時間がスーパーブラックな職場で頭のおかしいみんなが待ってます」って感じでしょうか(笑)
ゲームが好きっていうだけでこれだけ世界中の人と仲良くなれるのってすごいと思うし、同じ好きなものがあれば人を嫌いになる理由もないので、それがとっても楽しいですね。
ーー本日はありがとうございました。
取材・文:花岡カヲル
写真:西村克也