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近年さまざまな業界で進む「脱プラスチック」の流れだが、パッケージ業界においては波及してすでに久しい。アメリカ・オックスフォード大学の研究チームが発表した、2015年度のワールドワイドのプラスチック使用用途の内訳において、パッケージが1.5億トン、これは全体の半分を占める。
そうした現状を受け、昨年2018年にはロンドンのスーパーマーケットThornton’s Budgensとアムステルダムのオーガニック系生鮮食品チェーン店のEkoplazaが世界初、「パッケージにプラスチックを使わない製品ゾーン」を設け話題となった。
パッケージという、われわれの生活にとても身近なものとの向き合い方が、世界の都市部を中心に変わりつつある。
代替となる新素材が続々登場
2019年5月にニューヨークで開催された、パッケージに関する世界的なトレードショウ「Luxe Pack New York」では、多くのメーカーがサステイナブルでエコなパッケージ素材を発表した。Luxe PackのゼネラルマネージャーNathalie Grosdidier氏は「10年前は単なるトレンドの一つでしかなかったエコパッケージはもはや業界全体が本腰を入れているミッション」だとJWT Intelligenceに話す。
フィンランドのパッケージメーカー「Paptic」が開発したのは、使い勝手とエコを両立した新素材のバッグ「Paptic」。PapticとはPlastic+Paperの意味の造語だが、プラスチックは一切使用されておらず、おもな原材料は木の繊維と紙。
リサイクルしやすくプラスチックのような耐久性を持っていることに加え、従来のプラスチックバッグのように表面に印刷しやすく、なめらかなテクスチャーがラグジュアリーさも備えているなど、多くの利点を持つ。Papticバッグは、フランスの老舗百貨店ギャラリー・ラファイエットが行ったエコキャンペーン「Go For Good」や、ブーツで知られるハンターなどで採用実績がある。
ギャラリー・ラファイエットのエコキャンペーンで使用されたPaptic(Papticの公式Webサイトより)
また、先日家具大手のIKEAも、発泡スチロールに代わるキノコをベースとした新素材のパッケージを採用することを発表した。開発生産を手掛けるニューヨークの「ECOVATIVE DESINGN」によると、通常発泡スチロールが自然界で完全に分解されるまで非常に長い年月を要するのに対して、このユニークな素材「Mushroom Packaging」 は数週間で土に還るため、簡単に廃棄できるという大きなアドバンテージをもつ。
Mushroom Packagingを作る際、ローカル農家から集めたトウモロコシの皮など野菜クズを細かくし洗浄したものに、菌糸と呼ばれる菌類の体を構成する糸状の細胞を型の中で混ぜ合わせる。
すると菌糸が成長に伴い野菜クズをつなぎ合わせ、型の中で成長し、わずか数日で完成形になる。型さえあれば簡単に量産でき、またビスポークのパッケージにも適していることから、今、次世代の緩衝材として大きな期待を集めている。
Ecovative Designのマッシュルームパッケージ(同社公式Webサイトより)
アップサイクルで高次元のプロダクトに昇華
Luxe Pack New Yorkでは別のパッケージトレンドとしてアップサイクルが注目された。アップサイクルとは、単なる素材の原料化やその再利用ではなく、元の製品よりも次元・価値の高いものを生み出すことを指し、サステイナブルなものづくりの手法として近年多くのメーカーがその技術の確立に力を注いでいる。
消費財大手のユニリーバが昨年2018年にパッケージメーカーの「Viva」とタッグを組み、同社のエコライン「Love, Beauty and Planet」のハンドローション用に開発したチューブもこの手法で作られたもので、その素材の65%がリサイクル素材だった。
Love, Beauty and Planetは同社のブランドの中でもミレ二アル世代をターゲットとしたものだが、その製品にエコパッケージを採用した理由として、「ミレ二アル世代の多くはエコフレンドリーになることに対して積極的で、サステイナビリティにこだわりを持つ。彼らのマインドにフィットするブランドを作るためには、製品の中身だけでなく、パッケージにもこだわる必要があった」と、Vivaのアメリカ市場のマーケティングダイレクターを務めるBrunoLebeault氏はJWT Intelligenceに対して語る。
Love, Beauty and Planetのハンドローション。チューブがリサイクル素材でできているとは気づかない(同社公式Webサイトより)
また、スイスを拠点とする、リサイクル素材を用いたパッケージ作りで知られるメーカー「Neopac」の開発したチューブは、80%がリサイクル、フードグレードの素材を使用しており、キャップに至っては海から回収された釣り糸などの廃棄プラスチックを100%使用している。
さらに同社の人気商品「PICEAウッドチューブ」も使用されている原材料の95%はリサイクル素材。使われている木材はEU圏内の汎ヨーロッパ森林認証を受けたもので、多くはドイツの建築現場で排出された木くずを使用しているという。
このように、モノとして一度その役割を果たした後、アップサイクルによってさらに高次元なプロダクトに作り替えられているものも多い。しかもそれらの多くはその原材料がリサイクル素材でできているとは気づかないような高品質なものばかり。
Neopacのチューブ(同社公式Webサイトより)
エコへの配慮なくしてミレ二アル世代の心は掴めない時代に
このように世間の環境に対する意識が高まるにつれて、これまで商品の包装に当たり前にプラスチックが使われていたことに疑問を持つ風潮が根付き、消費行動の意思決定において商品の品質はもとより、その企業の環境配慮に対する姿勢もチェックされる時代に突入した。
マサチューセッツ州を本拠とするパッケージ開発メーカーの「Nate Packaging」の代表であるRay Lewis氏はJWT Intelligenceに対して、「これまで大手企業は売り上げを伸ばすために自社のブランド力に頼ることが多かったが、今はそれが通用しなくなってきている」と語る。「今日、消費に対してよりエシカルさが求められているため、品質と価格が同等の2つのブランドがあった場合、選ばれるのはサステイナビリティを重視している方。消費者はよりエコフレンドリーになれる方法を探している」とも断言する。
Nate Packagingのクライアントの一つに、100%ヴィーガン・クルエルティフリーなコスメで知られる「Pacifica」があるが、インディーブランドとして発足した同社も今では化粧品小売り大手の「Ultra」で大きな陳列棚を持つ大人気ブランドにまで成長した。その陳列棚の規模は、カリフォルニア発の有名コスメブランドBenefitと同等だということも、アメリカでいかにエコフレンドリービジネスがポピュラーなものかを示している。
Pacificaのリサイクルプログラム 同社の使用済みパッケージを送り返すと次回の購入時に使用可能なポイントが付与されるロイヤリティプログラムはユーザーに人気(同社公式Webサイトより)
アップサイクルなど技術の進化のおかげで、一目ではそれと気づかない、かつ使用上のクオリティも下がらない脱プラスチック製品の登場が相次いでいる。日本でも先日、日清が主力商品のカップヌードルについて2021年までに植物由来のプラスチックに切り替える旨を発表した。今後さらに進むであろうこの流れを引き続き注視したい。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)