【CRAZYの福利厚生】
〇睡眠報酬制度
【制度内容】
スマートフォンアプリで睡眠時間を計測し、1日6時間以上の睡眠をとるとポイントがもらえる制度。(1日の睡眠時間達成ごとに100ポイントが付与される。)100ポイント=100円として社内のカフェや食堂で利用できる。制度の利用は任意。
働きたい人の権利を守り、健康も守る「睡眠報酬制度」
2017年のユーキャン新語・流行語大賞トップ10に「睡眠負債」が選ばれるほど、世界各国に比べ睡眠時間が短い日本は、睡眠負債大国とも呼ばれている。そんな寝ていない国“日本”で、日本初の眠ると報酬がもらえる制度が誕生した。
この制度を導入したのは、完全オーダーメイドのオリジナルウェディングを手掛けている、株式会社CRAZY。今回は、CRAZYの広報 五来 氏に、眠ると報酬がもらえる「睡眠報酬制度」についてお話しを伺った。
──睡眠報酬制度を導入したきっかけは?
五来:弊社は、創業当時からWHOの「健康の定義」に基づく健康経営をしています。1に健康、2に人間関係、3にビジネス、4に利益。そういう考えのもと経営を行っていますので、睡眠報酬制度は働き方改革として取り入れたというよりは、健康経営の延長として導入した制度なんです。
──しかし健康といえど、食事とか運動とか精神的なものとか色々ありますよね。そのなかで睡眠に着目した理由は?
五来:運動はまだ取り組んいませんが、食事や働く環境、精神面…つまり人間関係のケアはすでに制度化されているんです。「食事」という面では“毎日社員全員でランチ”をしたり、「働く環境」という面では“託児所の完備や子連れ出社”、その他、最長1か月旅に出られる“グレートジャーニー制度”を取り入れたり、「人間関係」という面で、“半年に1度泊りがけの合宿”をしていたりと、働く環境や食事面の補助は気を付けていました。
しかし、弊社はまだ創業7年ほどのベンチャーで平均年齢が30歳ということもあり、仕事を頑張りたいと思っているメンバーが多いですし、結婚式という事業で、お客様とのご面会が夜遅い時間になったり、と、なかなか規則正しい生活ができないメンバーが多かったんです。
そこをどうにかしたいと考えていました。
──ウェディング業界のお仕事は、結婚式の日どりにあわせて働くイメージなので、毎回規則正しいスケジュールで動くのは難しそうな印象がありますが、実際どうでしょうか?
五来:そうなんです。弊社の場合は、カフェや自宅で仕事をしても良いなど、個人の働き方や時間を厳しく縛ってはいません。しかし、結婚式はイベントに近いものなので、作ろうと思えばどこまでもこだわり、時間をかけられてしまうから、時間を管理するだけの制度じゃ健康は守れないと思ったんです。
例えば、仕事のために寝る前にネット記事を読んだらそれは労働時間に含まれるのかって考えると、計測が難しいですよね。労働管理が始まった1900年代は時間を管理して生産性を上げるっているのが労働マネジメントの考え方だったんですが、100年経った今、同じ考え方で良いのだろうかって思うんです。
──スマホがあればいつでも連絡が取れるし、家でもどこでも仕事にふれられるので、仕事とプライベートって明確に線引きは難しいですね。
五来:あと、働きすぎによる過労死がニュースになった時期がありましたが、弊社代表の森山の知人がちょうどその企業に勤めていて、「状況はどうですか?」って尋ねたことがあるんです。そのとき、「働く時間が長くて大変」って返事が来るかと思ったら「働きたいからこの会社に入ったのに、働く時間が制限されてしまってつらい」って返事がきたそうなんです。その話を聞いて森山がすごく衝撃を受けました。
働きたい人の権利ってどうなるんだろう。働く時間を制限してひとつの制度にくくってしまったら、その権利や精神的な健康は守ることができないんじゃないか、と気づいたのが制度の始まりです。
──働きたい人の権利!確かに、世の中には働かない・働かせない制度のほうが多い気がします。
五来:だから、働く時間を管理して健康を守るのではなく、働きたい人の権利も守りつつ、健康を維持できる制度ってなんだろう?って考えたときに、誰もが必要で、健康にも直結する睡眠の支援をしようと思ったんです。そこで作ったのが睡眠報酬制度です。
睡眠ポイントで健康の循環を手に入れる
睡眠報酬制度はエアウィーヴ社が開発したスマホアプリを使用しているとのことだ。寝る際にアプリを起動し、枕元にスマホを置くと眠った時間と起きた時間を計測してくれるようだが、どうやって睡眠時間を計測しているのだろうか。
──具体的にアプリでどのように睡眠時間を計測しているんですか
五来:寝る際にアプリを起動して枕元にスマホを置くと、眠った時間と起きた時間を計測してくれるんです。振動を感知しています。アプリでは、「布団に入ってアプリを起動したのは6時間30分だけど、実際に眠ったのは5時間50分だった」みたいに、布団に入った時間~眠った時間~起床時間までがトータルで記録されます。
アプリ内睡眠時間計測画面イメージ
──実際、利用してみて正確に測定できると思いますか?
五来:できていると思います。ただ、たまにエラーになって測定できていない場合もあるので、そこは課題だなと感じています。エラーになった場合、本当に6時間寝たのかわからないので、計測できずポイント対象外になってしまうんです。
睡眠報酬制度は1日6時間以上の睡眠をとらなければポイント付与がされません。また、ひと月毎日継続して計測をできた社員には皆勤賞として追加でポイントも渡しているので、頑張って継続しているのにエラーになるとショックが大きいと思うんです。
睡眠報酬制度を利用している社員は本気で取り組んでいる人が多いので、この点はどうにかできないかなと感じている部分です。
──制度を利用されている方は多いですか?
五来:社員の6割はコンスタントに利用しています。ただ、あくまで任意なので、仕事を頑張りたい時期だからできないって人や、なんとなくやる気が起きないから…みたいな理由で利用していない人もいます。
──6割の利用率は多いと感じますが、制度はスムーズに受け入れられたんですか?
五来:制度をどんなものにしたいかという前提が、作るからには、皆に理解のうえ受け入れられて、継続できて、将来的には文化になってほしいという考えがあったので、制度を導入する前に1年くらいかけて社員が納得できるまで制度の説明を行いました。睡眠報酬制度は、導入する理由や効果を全社会議で取り上げたりもして、ようやく実現した制度なんです。
──それだけ力を入れて取り入れた制度なんですね。ポイントは社内の食堂やカフェでしか利用できませんか?
五来:現在は社内でしか利用はできません。ただ、現金として付与してほしいという意見は多いので、検討しているところです。
ただポイントがお金になると、そのお金で何を買うのかっていう問題が出てきます。「健康のための制度なのに、ポイントを使って添加物ばっかりの食べ物を買ったら意味がないよね」って。
社内の食堂やカフェでは有機野菜やオーガニック食材をを使用しているので、ポイントで体に良いものを食べられるという健康の循環が作れます。さらに、有機野菜を作っている人へ還元もできますよね。だから、お金を配るよりも良い使い道があればと考えています。
また、ゆくゆくは”健康ポイント”として、子連れ出社で子どもを預ける際にポイントを使えたり、グレートジャーニー制度の旅行資金として積み立てられないか?など議論をしています。
睡眠報酬制度でより効率的な働き方へ
──睡眠報酬制度の効果は出ていますか?
五来:睡眠報酬制度を導入すると決めてから今まで、社員の睡眠時間を計測しているのですが、その時間が制度を導入した7か月後の現在、平均で約1時間増えました。制度を利用している社員からは、風邪を引きにくくなったなどの声も頂いています。
また、この制度を利用している人のなかには、本気で取り組んている人が多くて、毎日6時間の睡眠を確保するためにはどうしたら良いのかを考え、1日のプランニングの立て方の中で、睡眠時間を確保したうえで、残りの時間に仕事のスケジュールを入れるようにしたりと優先順位が大きく変わった人もいます。いままでは終電まで頑張ろう!って仕事していた人が、寝ないといけないから早めに帰り、朝早く出社するということもありましたね。
──平均1時間は睡眠時間が増えたとのことですが、そのぶん仕事の時間が減って支障が出たりは?
五来:トータルの仕事時間は確実に減っています。ただ、寝るために早く仕事を切り上げたら、次の日早めに来て朝仕事をするとか、睡眠のために緻密に仕事の計画を作って「限られた時間で効率よくこなすには」みたいな考えを持つようになった人もいます。
それに、定期的に「睡眠報酬制度へのモチベーションはどうですか?」「なんのために取り組みますか?」みたいな啓蒙活動は定期的に行っていいるので、睡眠についての話題が出ることも増えています。
チームのミーティングでは「昨日何時間寝た?」「あまり寝られなかった」みたいに睡眠時間のシェアもしているんです。そうすると、「今何が一番大変なの?」みたいな会話に繋がって、どの仕事が問題なのか、業務量が多いなら別の人に分散させたり、こなすためにはどうすれば良いのかなどを話しあったりしているチームもありますね。
──睡眠時間から、個人のタスクの負荷が可視化できるんですね
五来:そうなんです。制度としては、全社規模の業務改善をするまでには至っていませんが、チーム単位では寝られるプランニングにしたいと思って行動しているチームは多いです。
睡眠不足は効率も悪くなりますし、ミスも発生しやすくなるなど良いことはないので、この機会に睡眠時間を増やして、業務を効率化できたり、自ら進んで健康になる取り組みをできる社員が増えたら良いなと思います。
──ありがとうございました。
【今回取材させて頂いた会社】
株式会社CRAZY。個人向けにウェディングプロデュース事業、法人向けにコンサルティング事業を展開する企業。創業から6年間で約1,200組みの完全オーダーメイドのオリジナルウェディングをプロデュースしている。
取材・文/成田千草
写真/國見泰洋