近年、様々な分野のスタートアップ企業が生まれる中で、「メンヘラ」と呼ばれる人々に向けたサービスを開発する企業がある。それが、2018年に設立された“株式会社メンヘラテクノロジー”だ。

同社では今までに、「愛してるの言葉じゃ足りないくらい君が好きなので歩く 」や、「ごめんねギフト(仮)」などの様々な“メンヘラ”をテーマとしたサービス事業を企画、展開している。

また、代表の高桑蘭佳 氏(以下、高桑)は、“彼氏を束縛するAIを作る”という夢を実現するために起業を行い、ネット界隈でも注目を浴びている現役東京工業大学院生だ。

“メンヘラ×エンジニアリング”という特異なキャラクターを生かしつつ、「メンヘラ」と呼ばれる人々にどのような新境地を切り開こうとしているのか?また、彼女自身がどんな世界を目指しているのか? 今回はそんな彼女の想いに迫る。

高桑蘭佳(たかくわ らんか)
株式会社メンヘラテクノロジー 代表
東京工業大学院修士課程に通いながら、自然言語処理やアルゴリズム、機械学習などを研究中。2018年に親会社より出資を受け、メンヘラテクノロジーを設立。現在は、女性限定で『寂しい時だけ30分324円(税込)で構ってくれる都合のいい女友達サービス』を展開中。

メンヘラならではの“病み葛藤”がアイデアの元

ー今まで発表されてきたサービスはどのようは発想から生まれているのでしょうか?

高桑:いつも「自分が欲しい・あったらいいな」と思うものがきっかけですね。 それこそ、ビジネスになるかどうかはわからないんですけど、私の中で欲しいものはたくさんあって、いつも思いついたらストックしています。

そのアイデアが研究として成り立つのか、ビジネスとして成り立つのか、どっちになるかみたいな軸で考えています。なので、研究も“テーマ”で考えてと言われたら、欲しいものから考えることが多いですね。

ーアイデアが閃く瞬間はどんな時が多いですか?

高桑:閃く瞬間は、『めちゃくちゃ病んでるとき』とかが多いです。現在展開している「寂しい時だけ30分324円で構ってくれる都合のいい女友達サービス」を思いついた時も、まさにそうです。

私は彼氏と「オールは月に1回まで認める」という約束をしているんですけど、ある時、彼氏が麻雀でオールして朝に帰ってきて、その次の日もパチンコに行って帰ってこなかったことがあったんです。

彼の遊びたい気持ちも理解してあげたいけど、やっぱり好きだし寂しくて鬼電してしまう私もいて。我慢できなかったんですよね。うまく表現しづらいのですが、このような『病み葛藤』の感情から生まれることが多いですね。

ー病み葛藤、新しい言葉ですね。高桑さんは自身がメンヘラであることを公言していますが、いつからその自覚があるでしょうか?

高桑:自覚したのはSNSで「メンヘラ」という言葉を知った時に自分はそうなのかもしれないって思いました。高校生のときに精神的に辛い時期があって、心療内科に通っていました。そこで処方される、自分が飲む薬ってどんな物なんだろうって調べ始めて、そしたらSNSで私と同じような人が、「メンヘラ」と呟いていたので、私はメンヘラなんだって思いましたね。

ーメンヘラといってもなかなか定義が難しいですよね?

高桑:個人的な見解ですが、当時は本当に精神的崩れてしまっている人とかがメンヘラってイメージでした。でも、最近ではあいみょんさんや、ミオヤマザキさんのような、メンヘラを歌うアーティストがいて、定義自体は“愛されたい”的なニュアンスに寄ってきてるのかなって思っています。

メンヘラテクノロジーでは、「メンヘラ=愛情に飢えている人」と定義しています。

承認欲求を満たすことで、「安心感」を与えてあげたい

ー現在、新しいサービス「寂しい時だけ30分324円で構ってくれる都合のいい女友達サービス」の開発を進めていますが、具体的な内容を教えてもらえないでしょうか?


公式HP 現在はリニューアル中

高桑:一人の時間が“辛い”とか“寂しい”と感じている女性向けのサービスです。
このサービスでは、そんな方たちの話を聞いてくれる相手(女性の方)を提供して、なにか具体的なアドバイスをするわけではないのですが、しっかりと“傾聴”するようなサービスです。今は対応できる時間は限られているのですが、今後は24時間対応できるように調整を進めています。

ー基本はチャットですか?

高桑:チャット形式で、今はLINE@を用いてサービスを提供しています。利用自体は30分324円です。聞き手の方々は、弊社で募集して採用されたメンバーがユーザーの皆さんに返信をしています。人の話を聞くことが大事になるので、しっかりと面接をしました。

ー聞き手側の応募は多かったですか?

高桑:最初は予想以上に人数が多くて、200人くらい応募がきましたね。逆にこっちが面接でメンタルやられそうになりました(笑) サービスのテスト期間は4月1日〜7日だったんですけど、利用者自体も100人近く集まりましたね。

ー利用者の皆さんはどんな悩みを抱えていることが多いのでしょうか?

高桑:友だちに言えない悩みが多くて、ライトなものからヘビーな悩みまで様々です。印象的だったのは“不倫”とか“セフレ”とか。

でも、その関係に悩んでるというよりも、不倫相手の話だから友だちにはできない、でもノロケたり愚痴ったりしたいとか。誰かに“話聞いてほしい”んですよね。聞いてもらうことで安心感や承認欲求を満たしたいんだと思います。

承認欲求を満たすことで、「安心感」を与えてあげたい

ーこのサービスを開発する上で、「メンヘラ」に対しての課題や改めて実感したことはありますか。

高桑:本来であれば、その人が本当に辛い状態になる前に心療内科などに行くのが一番いいと思うんです。でも、そこに行くまでのハードルがめちゃくちゃ高いというか、自分自身も病んでることを受け入れられない人が多い気がしました。

でも、そこまで考え込まないとカウンセリングに行きにくいことって、とてもネックだと思うんですよね。もっとライトな形でそういった方たちの受け皿になれればと思っています。

ー心療内科やカウンセリングに行く上でネックに感じる部分とは?

高桑:カウンセリング系のサービスは少なくはないと思います。しかし、ある相談電話サービスのケースでいうと一日1,700件ほどかかってくるらしくて、常に飽和状態みたいです。対応スタッフもボランティアでやっている方もいらっしゃるので、人手が追いついていない様な気もしています。実際に私も何回かかけたことがあるんですけど、30分くらいつながらなかったことがあります。

その他にもメール対応サービスなども始まったらしいのですが、返信までに1週間かかるケースもあるらしく、解決する手法が増えても受け手がまだまだ足りてないと思います。

ーそれだけ自身の悩みを抱えている人が多いんですね。

高桑:その他にも、有料サービスなどもありますが値段が高いケースが多々あります。ご自身の悩みなどにもよると思いますが、長時間喋って1万円、安くて5、6千円とか。

悪質な会社だとできるだけ長く話すマニュアルなどもあるらしく結構値段もかかるんです。それでも、本人たちが喋るだけ喋ってすっきりするのであればいいのですが、もっと利用できるハードルを下げて手助けをしてあげたいなって思うんです。

あとは近いニュアンスでいうと、私たちがターゲットにしてる層は占いサービスなどに流れてますね。オンラインの占いや恋愛相談といったところです。

病んだ後を“どう乗り越えるか”が大事

ー高桑さんが思う「メンヘラ」はどのような悩みの方が多いですか?

高桑:やはり、一概には言えない部分がありますね、きっといろんなタイプのメンヘラがいると思います。私が近いのは、異性に依存したり、頼って愛されたいとか、かまって欲しいって気持ちが強いタイプですね。

でも大事なのは、病んだときにどういう方法で復活するか、どう乗り越えるかです。
乗り越え方が上手い人と苦手な人がいて、上手い人は感情をコントロールできたりもするのですが、あまり得意ではない方だと自傷行為などをしてしまうケースもある様です。

私も少し昔は下手な方だったのですが、今はマシになりました。なんとなく乗り越える方法がわかるというか、病んだときに「なんで病んでるのか?」など理由を考えてビジネスアイディアにすると意外とすっと戻ったりしますね。

ー高桑さんの場合はご自身での復活方法を見つけていますが、同じ様な悩みを抱えている方たちが壁を乗り越えるためにも、テクノロジーを使って支えたいという思いがあるのでしょうか?

高桑:最近その気持ちが強くなったというか、そんなサポートをすることがいいんだろうなって感じるようになりました。

実際にサービステスト期間中に、私と似たような体験をしたユーザーのお話を聞くことがあったんです。その人の悲しい気持ちや寂しい気持ちは痛いほど理解できるし、だからこそそんな“病んでしまった”人を少しでもいいから手助けしてあげたいなって思いました。

自分が体験しているからこそ「“病む側”に踏み込んでもいいことはない」ってわかっているので助けてあげたいです。

メンヘラを“ネガティブ”ではなく、“ニュートラル”に存在できる世界を目指す

ーこれから高桑さん自身が「メンヘラ」というある種の文化に対してどのようなアプローチをしていきたいですか?

高桑:そもそも「メンヘラ」だからってネガティブな印象になるのは少し違うんじゃないかと思っています。病みやすいこと自体はその人自身のことだし、悪いことではないです。悩みやストレスに対する耐性は人によって違います。先ほども言ったとおり、大事なのは乗り越え方です。

理念としては、“幸せに病める世界”の様なものを作りたいと考えています。例えば、風邪を引いたからといって別に悪いことではなく、ある意味仕方のないことですよね。 ニュアンス的には「メンヘラ」というワードをネガティブなものではなく、“ニュートラル”なものに変えていきたいなって考えています。

ー今後の展望などはありますか?

高桑:今後は、言語処理システムを取り入れようかなと思っています。やはり受け皿のボリュームがまだまだ足りていないと思うので、そこの負担を減らせるようなシステムを作ろうと思っています。

例えば、今までの相談事例を元にいくつかのパターンに対して処方のカテゴライズを行い、サポート方法をマニュアル化するなど。やはり、受け手側も全ての人がそういった相談に慣れている訳ではないので、間違った受け答えをしてしまうと余計にその人を傷つける可能性もあるので。

そういったテクノロジーを活用しつつも、いわゆる「メンヘラ」に対してしっかりサポート、ケアをできるようなサービス作りをしていきたいですね。

取材・文/國見泰洋
写真/西村克也