INDEX
【アソブロックの福利厚生】
〇芸術鑑賞保険制度
【制度内容】
舞台や展覧会などの芸術を鑑賞する際、会社から補助金が支払われる制度。毎月1回サイコロを振り、出た目×5000円をその月の上限として、チケット代の7割を会社が負担する(健康保険と同じく3割は自己負担)。
若者が“本物”にふれる機会を。芸術鑑賞保険制度は人を育てる制度
アソブロック株式会社は、「人を成長させるプラットフォーム」を目指し、兼業必須、年俸宣言制度など特徴的な取り組みをしている企業だ。今回はそんなアソブロックの制度のひとつ、「芸術鑑賞保険制度」について、代表取締役 団遊 氏にお話を伺った。
—— 芸術鑑賞保険制度とはどのような制度か、お伺いしたいと思います。
団 氏(以下、敬称略):毎月サイコロを振って、出た目×5,000円が芸術鑑賞支援金としてもらえる制度です。つまり、6の目が出ると3万円貰える。1の目だと5,000円。
振るのは基本いつでも良くて、今月忙しくて芸術観る暇がないって人は振らなくても良い。サイコロを振るときは誰かに立ち会ってもらって「僕の4(サイコロで出た目)は○○さんが見てました」みたいな感じでやってます。
—— サイコロを振って金額が決まるって面白いですね。
団 :どうせならエンタメ性も欲しくて、サイコロで金額を決めることにしました。
あと、観るだけで終わりにならないように、芸術鑑賞保険制度を使ったら誰が何を観たのかが社内でわかるようにしています。そうすると「その舞台どうだった?」みたいな会話も生まれるので。
「芸術を観た」というインプットで終わらせず、アウトプットやシェアをしやすい環境にしています。
—— どうして芸術鑑賞保険制度を始めたのでしょうか。
団 :芸術鑑賞保険制度は、主に若者に使ってもらいたい制度としてみんなで考えて作った制度なんです。
例えば、オペラみたいな”本物”に触れる体験って、20代の若いうちにした方がすごくい意味があると思うんです。オリンピックの開会式は30万するけど、行った方が人生にとってはポジティブな影響を受けると思う。けど、若いうちは基本、金がない。
アソブロックでは年俸を自分で決める「年俸宣言制度」をとっているので、とてもスキルフルな20代前半であれば、外資系のコンサルティングファームみたいな年収も十分可能なんです。けど、大多数は経験と仕事歴が浅いので、自分がもらえる報酬もそれなりです。その中で「よし、オペラ行こう」「歌舞伎観よう」「オリンピックの開会式に30万払おう」って、なかなかできませんよね。
結局そういった場所には、そこそこお金持ちになったおじさんやおばさんが行くことになる。けど、そういった人たちが本物にふれてどれだけ社会にプラスを生むのかなって。若い人が観た方が、後々社会のタメになると思ったんです。
そんなことを解決できないかと考えたときに出てきたのが、「芸術鑑賞保険制度」です。
—— 確かに、20代で何万円も払って「オペラ観よう」「オリンピック行こう」っていうのは、難しい人も多い。その部分を会社がフォローしてくれるのはうれしいですね。
団 :会社が何割か負担すれば行こうかなって考えますよね。例えば、「会社が7割負担してくれるんなら」って。
「でも3割は自腹か…」って思って行かないかもしれませんが(笑)。
—— 「全額出すよ」って言った方が、みんな積極的に観に行くと思うのですが。
団 :全額出して無料っていうのは意味がないと思っています。行くか・行かないかを決断するって重要だと思うんです。サイコロの結果の良し悪しは関係なく、お金に絡む決断をするってことは、すごく人生の経験値を上げるんです。
例えば、「会社が2万円補填してくれるなら、3万のオペラ観ようか」「でも1万は自分で出すのか…」という葛藤。これが人を成長させる経験になると思うんです。
だから、芸術鑑賞保険制度は節約をするための制度ではなく、自分を成長させるために使って欲しいと思っています。
仕事に直結しなくても良い。長期的な人材育成で社会に役立つ人員を
—— 芸術鑑賞保険制度を導入して、新しいアイデアが生まれたとか、変化はありましたか?
団 :うーん、とくにはないかな。芸術を観ても、すぐ仕事に繋がるわけじゃないと思うんです。むしろ直接仕事につながるほうが少ないかも。この制度は、内面を豊かにしてほしい、成長してほしいっていう意味合いが強いんです。
例えば、若いときって、1回1万円くらいする劇団四季のチケットは高くて観に行くことが難しいなって思う人が多いと思います。
ミュージカル好きなら観に行くかもしれないけど、ミュージカル好きがミュージカルを観るのが良いかっていうと、必ずしもそうじゃない。
ミュージカルなんて興味がないって人が本物にふれることで、視野が広がると思うんです。
あと最近は、アタリを見ようっていう人が多いですよね。評判のいいものを見ようとか、時間がないから本屋大賞一位のものを読もうとか。そうすると、すごいインプットを極小化させて画一的な人が生産される。
けど、つまらないものを見ると人のインプットって拡大するんです。行ってみてつまらなかったって思っても、長期的にみれば「つまらなかった」と思った経験が重要になるんです。
—— アタリを見てしまいがちですが、そうすると他と同じ思考しか得られないのは納得です。それに、自分からお金を払ってつまらない経験をしたいなんて、なかなかできません。芸術鑑賞保険制度は、そこをカバーしてくれる制度なんですね。
団 :支援金があるからこそ、つまらない、興味がないものにも行こうと思えますよね。この制度を通して、そういった経験も得てほしいと思っています。
興味がないものを観に行って、つまらなかったら途中で出ても良いんです。そういう判断も大切。つまらないものを最後まで我慢して観るのが、果たして正解かというとそうでもないので。
途中で退出するとか、つまらなかったと思うとか、そういった判断や経験をすることが重要なんです。
全ては成長するために。“制度の基準”を決めるのは自分次第
—— 芸術って舞台・映画・アートなど幅広いと思うのですが、これは制度の適用外ってものはありますか?
団 :観るなら「瞬間芸術」にしようとは決めています。例えば映画はダメ。補助がいるほど高額でないということもあるし、DVDになれば好きなタイミングで観れますよね。それこそ50代になっても。そういうものはダメにしています。「今行かないと観れないものを観てね」って。
ただ、制度の内容はそんなに細かく決めていないんです。とりあえず良いと思ったらすぐに制度化して、「使っていくうちに疑問があったら、その都度みんなで相談しよう」みたいなことが、うちの会社の特長でもあるので。だから不完全なまま始めています。
この前は、相撲は芸術に入るのかっていう議論もありました。でもダメって言うことはあまりなくて、観に行きたいっていう人がいれば「良い」って言うと思います。
何を観るかっていうのも大切ですが、「これは観て良いもの?」ていう議論とか、観ることが自分の資産になると思った判断とか、そういった思考がアソブロック的には重要だと考えているんです。だからあえてグレーは残しています。
—— グレーだと入社したばかりの人は、戸惑う場面が多いのでは?
団 :最初は理解できない人が多いですね。「相撲は認められるんですか?野球はダメ?じゃあスポーツ観戦はダメってことで良いですか」とか、自分の中の尺度で理解しようとします。けど、その思考がすでに成長的じゃない。
ひとつの思考に固執する必要はないと思っています。これは良い?悪い?って聞くのは、元からある世の中の判断に従っているだけ。そこに気づいてほしい。
だから、「野球観戦は芸術保険で使える?」って聞かれたら、その質問の仕方が違うって言います。使える・使えないじゃなくて、野球は俺にとって芸術なんだ!って言うなら、そう思う根拠を話してほしい。自分のインサイトを深めてみて、自分にとってこれは芸術だ!って言えればOKなんです。
そういう経験を通して、いままで自分が培ってきたラベリングを外してほしいんです。愛社心なんてどうでも良い。自分の殻を破るために組織があり制度があると思ってるので。
社員には十分活用してほしいと思っています。
—— ありがとうございました。それでは、実際に制度を利用した人の声をお聞きしたいと思います。
芸術鑑賞保険制度をを利用している人は、制度についてどう思っているのだろうか。アソブロックで他企業と兼業をしている阿部氏と、学生と社会人の兼業をしているという榊原氏にお話しを伺った。
—— 芸術鑑賞保険制度をどのように利用していますか?
阿部:わりと頻繁に利用しますが、この制度があってこそという話だとたとえば、劇団☆新感線を2回くらい観に行きました。もともと興味はあったんですが、チケットを取るのも大変そうだし、金額も1万円以上するしで二の足を踏んでいて。芸術鑑賞保険制度で補助があるなら観に行こうかなって。
芸術鑑賞保険制度を使う人って、サイコロで良い目が出たらどこか行こうって思って振る人はあまりいなくて。この舞台観に行きたいから振るって人が多いんです。
だから、劇団☆新感線を観に行きたいって決めていたときは、1の目じゃ補助の満額に足りないので、ドキドキしながら振りました。そういう楽しさもありますね。
榊原:ここに入ってから劇団四季を2回見に行ったのですが、1回目は彼女とデートで行ったので制度は使わず、もう1回は友達に劇団四季が好きな人がいて、その人と観たら視点が変わるんじゃないかと思ったので、制度を使って観に行きました。使うかどうかは、自分の中で落とし込みをして判断しています。
—— すごく「社員の成長」を意識されている会社だと感じたのですが、そういった制度がある会社はどう思いますか。
阿部:うちの企業はトップダウンで制度が下りてくるわけじゃなくて、もとからやっていたことが制度化されるプロセスの方が多いんです。だから、素敵な制度をありがとうっていうよりも、一緒に制度を作っているっていう感覚がありますね。
—— 兼業必須というのも珍しい会社ですよね。
阿部:兼業先の企業も十分自由な会社ですが、アソブロックと比較すると、いわゆる”会社っぽい企業”ではありますので、その対比が面白いですね。この二つの感覚を持っていることで気が付くことも多いです。
—— ありがとうございました。
【今回取材させて頂いた会社】
アソブロック株式会社。地域活性、家族支援、企業、人材・採用などあらゆる事業を行っている。「人を育てるプラットフォーム」として、人の成長に向き合うクリエイティブ集団。同社では、関わる人が成長のきっかけをつかめる、成長支援プラットホームとしてファンクラブも運営している。
取材・文:成田千草
写真:西村克也