AR(拡張現実)・VR(仮想現実)・MR(複合現実)といったIT技術の誕生に伴い、今アーティスト・クリエイターが表現できる領域はスピーディに拡大している。

なかでもHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し仮想空間を体験することが可能となったVRは空間・五感といった領域にまでクリエイターの創造性が発揮できるようになった。

2018年12月、IDC Japanは2017年から2022年までに世界のVR・ARのハード、ソフトウェア、また関連サービスの年間平均成長率は69.6%と高い成長率を発表しており、VR市場は今後長期的に拡大していくことは間違いない。


主要地域の2017〜2022年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)

そしてクリエイターをVRの世界へと後押しするかのように、コードを書かずにVR空間を制作でき、また制作した作品を世界に公開できる「STYLY」というサービスがある。

STILYの機能は多岐に渡り、VR空間にInstagramから画像をアップロードすることもできれば、制作したVR空間を撮ることができるカメラ機能も搭載されている。今回はこのSTYLYについて詳しく紹介したい。

Psychic VR Labが牽引するSTYLYの活用事例


STYLY webサイト

VRクリエティブプラットフォーム「STYLY」は、株式会社Psychic VR Labが提供している。STYLYはパソコンとネット環境があればすぐに無料で自分用のVR空間の制作を始めることができ、またMac・Window両方のパソコンに対応している。

また、制作したVR空間はSTYLY Galleryに公開し全世界にシェアすることが可能だ。さらに公開したVR空間は自分のWebサイトに埋め込むことも可能なため、作品をポートフォリオとして管理することもできる。クリエイターにとって便利な機能が着々と追加されているのだ。

さらにPsychic VR LabはMRレイヤーをWeb、MRデバイス上で編集、保存ができるMRプラットフォーム「STYLY MR」の提供も開始した。STYLY MRもコードを書かずに編集が可能となっている。

現在STYLYが活用されている領域の一つにファッションがある。2018年1月、Psychic VR Labはファッションブランド「ヨウジヤマモト」にSTYLYを通じてVR技術を提供した。それによってヨウジヤマモトの一部ショップで2018年春夏コレクションのランウェイをVRで体験することが可能となった。

また、2019年3月には「STYLY MR」を活用した、渋谷区のグラフィックアート文化再発信を目的としたプロジェクトも開始されている。このプロジェクトは、Psychic VR Labも参画する、MRを中心とした研究開発を行う共有スペース「TIMEMACHINE(タイムマシーン)」での共同研究で生まれたものである。

Psychic VR LabはSTYLYの機能拡張だけではなく、VR・MR市場創出を促すプロジェクトにも精力的であり、クリエイターが活躍する場は日々拡張されている。

VRクリエイターの教育、新人発掘を行う共同プロジェクト「NEWVIEW(ニュービュー)」

VR市場の成長に伴って課題となるのがVRクリエイターの育成だ。動画撮影というくくりは同じでも、映画を制作する時とYouTubeを撮影する時では必要とされる能力は全く違う。同じように、既存のクリエイターもVRという新しい表現の場では、その場所に合った能力を培う必要がある。

この状況に沿うように、Psychic VR Labは2019年6月より、株式会社パルコ、株式会社ロフトワークとの共同プロジェクト「NEWVIEW(ニュービュー)」での活動として、総合芸術としてVRを学べる学校「NEWVIEW SCHOOL(ニュービュー・スクール)」を東京と京都で開講すると発表している。


NEWVIEW SCHOOL(ニュービュー・スクール)サイト

スクールではゲームエンジン「Unity」とSTYLYを使用したVR作品の制作、配信の手法が学べるテクニカル講座が用意されている。また、アートや建築、ファッションといった多様な分野で活躍するクリエイターから表現の手ほどきを受けることもできる。

また、NEWVIEW は次世代のVRクリエイター発掘を目的とした「NEWVIEW AWARDS」を2018年より開催している。こちらのアワードにはSTYLYで制作、配信したVRコンテンツが国内外から多数集まった。


グランプリ受賞作品 えもこ 「EMOCO’S FIRST PRIVATE EXIBITION

VRコンテンツ市場が活況を迎える日はそう遠くない。続々と誕生するVR制作コンテンツ

VRコンテンツを専門知識不要で制作できるツールは充実してきているが、現状コンテンツとしてのニーズはYouTubeを中心とした平面動画の方が高い。しかしYouTubeにも2015年より公式バーチャルリアリティ(VR)チャンネルがあり、チャンネル登録者数は現在300万人を超えている。

またVR制作ツールはSTYLYだけではない。例えばGoogleがゲームプラットフォーム上で提供している「Tilt Brush」は、VR上で自由に絵を描くことができるVRイラストレーションアプリだ。クリエイターは両手のコントローラーを持って虹や炎などの線を自由にVR空間に描くことができる。


Tilt Brush by Google

さらに日本の大手企業からも新たなVR制作ツールが発表されている。パソナ・パナソニック ビジネスサービス株式会社は2019年2月よりVR制作コンテンツサービス「VRer!(ブイアラー)」のサービスを開始した。サービスの一つであるVRer!Editorではお絵かきソフトのように、マウス一つでVR空間にCGや背景画像を配置させることができる。


VRer!プロモーションビデオ

使い勝手、用途に応じて使い分けることが可能なほどVR制作ツールは現在続々と増えており、VRコンテンツ市場には追い風が吹いている。そのため今より求められているのはクリエイターを育成する環境、またはVRコンテンツの制作コミュニティではないだろうか。

STYLYは誰でも簡単にVRを制作することができるツールだ。このSTYLYによって「体験」を創り出せるクリエイターが続々と誕生すれば、新しいVRでの表現手法が生まれ、既存領域とテクノロジーが混ざり合い、視覚、聴覚、触覚が駆使される、総合的な空間エンターテイメントが生み出されるのではないだろうか。

文:片倉夏実