テレビドラマや映画は、始まりから終わりまで、全てが決まったストーリーが繰り広げられる。そして、視聴者である私たちはそれを享受する。優れた脚本、ストーリーテリングであればその作品を好きになるであろうし、その逆もあるだろう。ドラマや映画はそういうものであるというのが常識である。
だが、それを覆す「インタラクティブ・メディア」なるものがここ数年注目を集めている。
新しい物語の楽しみ方「インタラクティブ・メディア」
「インタラクティブ・メディア」とは、物語の途中で選択する場面がいくつか登場し、その選択肢によって、異なるストーリー展開をするコンテンツのことである。枝分かれする(branching)ストーリーとも呼ばれている。
選択式で物語が進むフォーマット自体は特別新しいものではなく、オンデマンド配信サービスのNetflixは、2017年の子供向け番組『長ぐつをはいたネコ おとぎ話から脱出せよ(Puss in book)』を皮切りに、アニメ作品のみならず実写作品のインタラクティブ・メディアを配信している。
このインタラクティブ・メディアは、大人よりも子どもたちを引きつけ好評を博したため、間違いなくこれからの子ども向け番組をより面白くするだろうだと考えられている。
インタラクティブ・メディアの歴史は意外と長い?
このインタラクティブ・メディアは、2010年代に現れたものだと思われるが、実はこの前身となるような作品が1967年に既に現れていた。
1967年、カナダのモントリオールで開かれた万国博覧会のチェコスロバキア・パビリオンには、『Kinoautomat』という63分の映画が出展された。これを創ったのはラドゥーツ・チンチェラ(Radúz Činčera、1923-1999)という、チェコスロバキアの脚本家・映画監督。この作品は、まさに劇中に選択肢が登場し、それによってストーリー展開が変わるという作品であった。
当時この映画は、全席に赤と緑のボタンが備え付けられた特設会場で上映された。上映中に観客は、いくつかのシーン(9つと言われている)で選択をしなければならない。選択をする場面では映写を止め、司会者のような人物が登壇して、観客に2つのうち1つのシーンを選ぶように促す。観客は座席にある2つのボタンのどちらかを押し、どちらのシーンに投票されているかが赤と緑のライトで画面周辺に表示される。より多くの票が入ったシーンに沿って物語は進んでいく。
しかし、この映画ではどのような選択がなされても、エンディングは変わらない(建物が燃えるシーンに行き着く)。このエンディングによって、共産国家であった1960年代のチェコスロバキアが、一つの決められたストーリーではなく、枝分かれする物語(Branching story)の可能性をKinoautomatによって示していた。それだけではなく、民主主義や他の政治的な選択肢を主張するメタファーでもあったと言われている。
それにしても、当時はフィルムで上映されていたため、次のシーンが決定されてから、そのシーンのフィルムを毎回慌てて映写機に装填していたかと思うと、当時の映写技師がなんとも気の毒である。
自分の決断に責任を。主張を含んだ作品
また、2012年には『Try Life』というウェブシリーズのインタラクティブ・メディアも登場していた。ティーンエイジャーを取り巻くドラッグ、虐待、家庭内暴力などを扱った内容で、劇中での一つの選択が良い方向にも悪い方向にも向かい得る。
『Kinoautomat』同様、全ての選択肢はただの気軽なエンターテイメントではない、ということを主張している。間違った選択は悲惨な結果に繋がるため、人生は試しにやってみるものではない(One cannot “try” life.)という教訓が込められている。
インタラクティブ・メディアは次なるステップへ
Netflixで2011年から配信され、現在シーズン5まで製作されている大人気シリーズ『ブラック・ミラー』。1話完結型で、現代や近未来を舞台にした今作品は、まるで英国発テクノロジー版「世にも奇妙な物語」だ。この大人気ドラマも『ブラック・ミラー バンダースナッチ』というインタラクティブ作品を製作、昨年12月より配信が開始されている。そして、本作品はガーディアン紙によって「テレビの未来がここにある」と高く評価されている。
『バンダースナッチ』はこれまでと何が違うのか?
枝分かれするストーリーは既にスタンダードとなりつつある今、『ブラック・ミラー バンダースナッチ』が本当に示したいものとは、Netflixのアルゴリズム(AI)による滑らかで途切れることのない視聴体験だ。これを1億人を超える視聴者に届けることができる。『Kinoautomat』のような、映写技師の受難はもうないだろう。
さらに、これから注目すべきなのは、アルゴリズムがどう自動化されていくかという点だ。視聴者が選ぶ選択肢に沿ってストーリーは進むが、物語の筋がしっかり通っていること、それを観て視聴者を笑わせる、感動させる、考えさせることなど、複雑な部分にも自動で対応できるようになれば、今後インタラクティブ・メディアは爆発的にヒットすると言える。
そんなことまで・・・! 進化を遂げるAI
既に、アルゴリズムによる物語構築の潜在的な実力を証明するものがある。
2016年、大手コンピューター企業IBMはAIだけで映画の予告編製作を行った。20世紀フォックスのスリラー映画『モーガン プロトタイプL-9』の予告編を製作するにあたって、スリラー作品の予告編データベースをIBMのコンピューターに取り込み、パターン検索や他の機能によって、映画本編から最適な音楽・場面を探し出し、それらをつなぎ合わせて違和感のない予告編を作り出したということだ。ベストな音楽・場面を見極めて、編集することが製作者の手腕であるが、それさえもAIがこなすようになりそうなのである。
このようにコンピューターの精度は驚くほど高まってきている。そのうち、コンピューターが自動で言葉・感情・モラル・性格などの人間的な領域を処理するようになり、私たちは人間として、コンピューターがそれらをどのように処理するのかを理解しておく必要があるだろう。そして、私たちはそうなることを本当に望んでいることかどうかということも。
人間の仕事は近い将来AIにとって代わられると言われ続けているが、とうとうその言葉が現実味を帯びてきた。テクノロジーの発達スピードは早いため、特に2番目の問いについては早めに答えを出した方が良さそうだ。
文:泉未来
編集:岡徳之(Livit)