AIなどのテクノロジー活用が進む中で、人間に求められるスキルは変化している。オックスフォード大学マイケル・オズボーン准教授の論文『THE FUTURE OF SKILLS:EMPLOYMENT IN 2030』では2030年に求められるスキルについて研究されている。120のスキルがランキングされているが、最も下位にランクインした2030年に必要とされなくなるスキルとしては“操作の正確性(Control Precision)”となり、下位群にはそういった作業の正確性に関連するスキルが並んだ。

一方で上位群に並ぶのは心理・社会・コミュニケーションにまつわるスキルだ。そして8位には“独創性(Originality)”、9位には“発想の豊かさ(Fluency of Ideas)”など自己表現に関連するスキルもランクインしている。

また、環境変化という点では会社や組織単位ではなく“個”が重要視される時代に突入しており、こういった背景を踏まえると個としての表現力というのが次の時代に向けた必要スキルなのかもしれない。自己表現の力はどのように備えることが出来るのだろうか。

表現の世界は音楽や美術、ダンス等のビジネス外の領域に目を向けると学びが多い。特に自分の体を使って表現を行うダンスは、自己表現の究極系かもしれない。

ダンスによる高い表現力で人々を魅了し注目が急上昇している人物が、ダンサー/ダンスインストラクターのyurinasia(ユリナジア)氏だ。昨年から発信を積極的に行ったInstagramアカウントのフォロワー数はたった1年足らずで4万人を超えた。今回はyurinasia氏に現在に至る過程と、独創性や表現力がどのようにして備わったのかを伺った。

ダンサーとしての自分とインストラクターとしての自分がほぼ同時にスタート

――まずはダンスを始めたきっかけについて教えてください

yurinasia:中学2年生くらいの時にテレビを観ていたら、ゴリエさんのダンスコンテンツがあって、そこにダンスを習っている子供たちが出ていたんです。そのときに、ダンスって習えるんだ!という衝撃を受けました。水泳とかピアノとかそろばんとか、そんな習い事みたいにダンスも“習い事”としてあるんだと思ったのが通い始めたきっかけです。

両親が音楽を大好きだったこともあり、ダンスへの興味はもともとあったんです。当時はライブに連れて行ってもらったり、家でも親がこだわっているスピーカーで音楽をたくさん聴いたりしていました。マイケル・ジャクソンのMVなどを観ながら一緒に踊ったりもしていて、踊ることに抵抗がなかったんです。

そんなとき、テレビでダンスを習っている子供たちを観たのがきっかけで地元の近くの公民館のダンス教室に通い始めました。実はそこでオーナーさんからお誘いがあり、始めて2~3か月くらいの時にインストラクターも任されたんです。その当時の私はダンスのダの字もわかっていなかったと思いますが(笑)。

――ダンスを始めて2、3か月でインストラクターは凄いですね

yurinasia:私が指導を受けていた先生がコンテンポラリー(自由な表現を行うスタイル)を教えていたんです。それを教えるにあたってHip-Hopの曲を使ってダンスとしてわかりやすくしていたイメージです。なので、こうでなければならないということを教えるわけではなく、生徒に課題を与えて創造性を磨くような教え方だったんです。それで先生が私のダンスを気に入ったことで、インストラクターを任せるという流れに。

それが実は今インストラクターをしているjABBKLAB(当時は別の名前)なんです。最初は本当に手探りでしたし、人に教えることは自分でやることと別の能力が必要でした。私はプレゼンが苦手だったんですが、どう伝えれば相手に理解してもらえるかという点で勉強になりました。物を使ったり、身近なものに例えて伝えたりなど、“教える”ことに試行錯誤を繰り返すことでプレゼン力が磨かれました。

型にはまらずに成長したことで備わった自由な表現力

――そこからダンサーとしてはどのように活動を展開していきましたか?

yurinasia:当時、同世代を見渡すとキッズからやっていたり、ダンスの歴史など体系的なことを学んだり、先生や先輩、仲間がいたりしていました。有名なスクールに通っていて経歴がある人も多かったです。でも私はそういった環境はなく、一匹狼のような状態でした。なので、とりあえずソロバトルに出場して結果を残すことで経験や経歴を築き上げていこうと思いました。

初めてバトルに出た際は、自分の考えていた世界とは違うものでした。同じ動きでも、みんなにはダンスの理論がしっかりと頭にはいっていて、動きにも土台となるものがありました。一方で私は感覚でやっていたので、そういった違いを感じました。ダンスは感覚でやるもんでしょ、と思っていたので結構ショッキングではありました。

でもラッキーなことに、初めて出場したコンテストで準優勝したんです。型にはまらずに縛られず、のびのびと踊っていたのですが、このことによって私のスタイルはやっぱり“これ”だなと実感しましたね。

――インストラクターとしてはどのようなことを意識していますか

yurinasia:教えるときは、のびのび踊るのもそうですが、型もしっかり教えてあげる必要がありました。一人で踊って発信する分には問題ないのですが、みんなが大事と思っているところは教えておかないと、本人がどういった方向で伸びていくのかがわからないので。そのために、私も理解しておく必要がありました。

インストラクターとして大事にしていることは、生徒の子がしっかりと結果を残せるようにサポートすることです。本人が楽しんでくれるのはもちろんですが、通わせてくれている親御さんにも、その子が通って良かったと思ってもらえるように。これは自分が親になったことでより実感が湧くようになりました。

――動画をみていると一緒に踊っている生徒さんたちがイキイキ踊っているのを感じます

yurinasia:自分がいろいろと活動する中で、なるべく生徒も巻き込んだり、こんなことも出来るんだよってゆう未来をみせたり、わくわくしてもらうことも大事にしています。ダンスを楽しんで続けていくと、どんな可能性が広がっているのかを子供たちにみせてあげたいんです

動画配信による自己表現のスタート

――ブレイクするきっかけとなった動画配信について、始めたきっかけを教えてください

yurinasia:2つの軸があって、楽しみという軸と挑戦という軸です。子供が一人のときまでは親に協力してもらいながらバトルなどに挑戦していましたが、二人目が生まれたからは各地のバトルに参加していくことが難しくなってきました。今まではバトルに出たときの映像などを観て楽しんでいたんですが、そういう機会がなくなってしまうことが寂しかったんです。なので、普段のレッスンのときに動画を撮影して、それを観るのが楽しいんです。なので、一つ目の軸は単純に動画に残して自分たちが観ることを楽しむことです。

二つ目の軸が挑戦です。バトルに挑戦していくことが難しくなったので、そしたらオンライン上で発信していくことで、いろんな人に観てもらえるきっかけが増えて、影響を与えることが出来るかなと。オンラインというステージでどのくらいの人に影響を与えられるか、という新しい挑戦が始まったんです。毎週続ければ、結果をだせるんじゃないかと。

――動画配信を始めて1年弱で、フォロワーが急激に増えましたよね

yurinasia:ちょうどIGTV(Instagramの長尺動画配信サービス)が始まったころでもあって、そこでレコメンド枠に取り上げられることが多かったんです。それでじわじわ増えていきつつ、狙ってた曲のときや動画のときにすごくハネたんです。そこからは、さらに加速しながら増えていって、2、3月頃はすごいペースでフォロワーが増えていきました。そして今はフォロワーが4万人を超えました。

yurinasia:フォロワー数もそうですが、選曲の傾向、髪型やファッションなど、真似してくれる人もすごく増えて、そういったところからも影響力が高まったなと感じました。

――ダンス表現において大事にしていることは何ですか?

yurinasia:小さい頃から歌が好きなんですが、ダンスしているときも歌っているときと同じような感覚なんです。自分の中からでてくる感情を表現していくというのがコアにあって、もしかしたら大事にしていることはスキルというものでもないかもしれません。そうゆう表現が湧き出てくる感覚が身についていて、それが私のスタイルになっています。

なので、他の人のダンスと比べると、すごく雑だと思います(笑)。それでも、感情が高まると良い意味で何も考えられなくなって、あるがままにぶっとんだ感じになるんです。たまに気づいたら体を痛めているときもあります(笑)。でもそういったコアにあるところは大事なところで、それが私でもあるんだなと思います。

――自己表現を行うためのポイントを教えてください。

yurinasia:自己表現を行うためには、まずは自分の理解だと思います。自分がどんな人で、何が好きなのか。それがわからないと、言われるがままにしか動けないと思うんです。自分を好きになることがすごく大事だと思います。

私の場合だとすごくファンキーな親の子供として生まれ育ったので、そんな大好きな親のおかげで私自身からでる少しぶっとんだ発想も好きになれています。もともと、いわゆる会社員になるという発想がないし、大学も中退していますが周囲の多くの人の発想とは違くても、自信を持てます。

あとは自分を理解したあとに、それを表現しなくてはならないと思いますが、その手段が広がるかどうかというのは努力だと思います。言葉で表現するのでも言葉を知らないとできません。表現をするのに一つの選択肢しかなければ、それが限界になってしまいます。動きでも経験でも技術でも、とにかく引き出しをどれだけ広げられるかで表現の幅は広がるので、引き出しを増やす努力が必要なんだと思います。

――今後はどのような活動を考えていますか?

yurinasia:MVに出演できたときもダンサーの一人として使われるのかなと思っていたら、“yurinasia”として一人の人間として見てもらえていたのは嬉しかったです。ダンスでもアートでも、私個人として選ばれて仕事ができると嬉しいんです。私自身の活動で子供たちにいろんな夢を与えたいです。

ただ、どういう仕事をするかはしっかり選びます。何でも受けますではなく、しっかりと自分とマッチしているもの、自分の感覚を大事にしていきたいです。それを覚悟をもってやることも自己表現の一部だと思っています。それを崩さず、でも無理せず。ブームが終わるならそれで終わり。好きなことを大事にしていきたいと思います。

コンテンポラリー思考という新たな概念

師匠と呼べるような存在がいない中で、逆に型にはまらない自由な表現力を手にしたyurinasia氏。これまでの意思決定や行動から学べることは多い。これを生み出しているのはダンスジャンルとしてのコンテンポラリーではなく、そもそもの思考としてのコンテンポラリーだ。

自己表現は自分から発せられるものである。そうであるならば、人から受けたものを考えずに行うのではなく、自分の中から出てくる気持ちを把握してそれに伴った行動をすることが、自己表現において大事なところだ。外部環境を意識して気持ちを抑えてしまうことや、何も考えずに思考停止状態で常識や型の通りに行ってしまうことなどは個の表現力を落としてしまう。

未来に向けて、自分が持っている個性は何かを改めて考えてみること、そしてそれを表現するために、型にはまらずにアクションをしていくことが求められる。自分の表現力を磨いていくことが、未来の強みになるだろう。

yurinasia(ユリナジア)
ダンサー、ダンスインストラクター。JAPAN DANCE DELIGHT vol.23 FINALIST
他数々優勝、受賞。Instagramフォロワーは4万人を超え、MVへの出演など活動の幅を広げている。福岡を拠点としつつ、大阪、名古屋、沖縄等でもWSを行っている。二児の母で、夫はブレイクダンサーのAyumu goto氏で、yurinasia氏の映像編集も行っている。夫婦ユニット『botanic』としても活動。

取材・文・写真 木村和貴