近年、食産業技術の発展と共に栄養サプリメントや栄養サポート食品など様々な健康に関する食品が多く販売されている。そんな中、今注目を浴びているのが、世界初の“完全栄養の主食”を提供するスタートアップ企業「ベースフード株式会社」。
同社では、2017年2月より提供開始した「BASE PASTA」を中心にサブスク型で完全栄養の主食を販売している。今回は、なぜベースフードがこのようなサービスに注目したのか? どのような課題を解決するのか?などを同社代表の橋本舜氏(以下、敬称略)に話を聞いた。
- 橋本 舜
- ベースフード 株式会社 代表取締役社長 1988年生まれ、大阪府出身。東京大学教養学部卒業後、インターネット関連企業で新規事業などを担当。2016年にベースフード株式会社を設立。世界初の完全栄養の主食“BASE PASTA”を開発。「あたらしい主食」のさらなる展開を目指し、新商品の開発や国内でも普及および海外展開の準備を進めている。
当たり前の食事で健康に。“大人の給食”を目指す
――まずはベースフードが展開する事業について教えてください。
橋本:“BASE PASTA”や“BASE BREAD”などの完全栄養の主食を展開しています。
ただ、ベースフード自体は食品メーカーではなく、サービス会社として健康を当たり前にするためのサービスを提供する会社です。健康にいい主食を、消費者の皆さんに毎月届けるということがサービスです。
――具体的な特徴はどのようなところでしょうか。
橋本:簡単に言うと必要と言われている栄養分が全部入っています。それは、一般的に人間が必要とする五大栄養素(約30種類)です。この栄養素1日分の推奨量を3食で割った量が1食分に含まれています。
普段、人が生活をする中で、食事をしたときに必要な栄養素が1種類かけていたとしても、何の栄養素がかけているのか自分では分かりませんよね? 仮に、栄養について勉強したとしてもすごく時間もかかるので、個人の努力でカバーすることが難しいですよね。
だから、健康になりたくて「とにかく栄養を摂らなきゃ」って色々食べても、それがちゃんと正しい栄養分なのか?どこまで食べればいいのか? も分からないと思うんです。であれば、1食の中に全ての栄養分を詰めて摂取した方が簡単だと思っています。
――では、「完全栄養」というのは具体的にはどんなことを指していますか?
橋本:完全栄養とは厚労省が推奨している、日本人の食事摂取基準にしたがって1食分に必要な栄養素を必要なだけすべて含む食事を指します。
例えば、学校給食や栄養士監修の献立も該当するんですよ。なので、完全栄養であること自体は新しいことではないが、ベースフードはそれと同等のものを主食に集約し、忙しい社会人でも手軽に取れる(=大人の給食)方法を提案しています。主食を毎月届けることで、忙しい社会人の人でも月20回ベースフードを取ることができれば、学校給食を食べるのと同等の効果を得られるのです。
――どんな消費者に届けたいですか?
橋本:今は、30~40代の方にご利用して頂くことが多いかもしれませんね。
特に、都会で暮らす共働きの夫婦や一人暮らしの方がイメージしやすいかと思います。現在は一人暮らし、共働きの家庭を中心に、料理の品数が減り、栄養バランスがとりにくくなっています。もちろん、忙しくて時間が取れなかったり仕事の会食で外食が増えたりと個々で理由は違うと思いますが、そんな方々が毎日じゃなくてもいいので、栄養が偏ったものを食べるくらいなら、ベースフードを食べた方が効率的に健康でいられるんじゃないかな?って考えています。
――サプリメントなどではなく、なぜパンやパスタのような“主食”に注目したのですか?
橋本:サプリメント自体は“補う”という意味です。それは普段の食生活で栄養のベースができていればいつでも補うことが可能です。例えば、鉄分がだけが足りていないから、鉄分のサプリメントを摂ろうとか、今、筋トレしているからプロテイン摂るというのが正しいサプリメントの摂り方なんです。
極端な話、牛丼とサプリメント13種類で栄養を補うような食生活、まるでサプリメントが中心のような食生活だったとしても、それはそもそも「自然な行為ではない」ですよね。
自分にどんな栄養が足りていないか?なんて、把握している人はほとんどいません。だから先ほどもお伝えしたとおり、そもそもサプリメントは栄養を補う物なので、栄養バランスを考えた上で正しく摂取することはなかなか難しいことでもあるんです。
であれば、朝パンを食べるような“当たり前の食事(主食だけ)”で必要な栄養素が全部入っている方がいいと思うんです。そもそも、この事業は“栄養のことを気にしなくていい社会とはどういうものなのか?”という妄想の逆算から生み出されたんです。
まさに現代の社会課題を解決するような“ベースフード”。時代とともに変化するワークスタイルや、フードカルチャーが故の問題が現代には数多く存在する。しかし、橋本氏はもともとこのような食に関する課題に対して興味関心を持っていたのだろうか?
橋本氏はもともとDeNAで働いていた経歴を持つ。一体なぜ彼がまったく違う業界で挑戦をしようと考えたのだろうか。
現代の社会課題を解決するために生まれた“フードアイデア”
――なぜ、自身の経歴とは全く違う“業界”で起業しようと考えたのでしょうか?
橋本:もともと起業することは意識していました。ただ、起業というよりも新規事業をしたかったんですよね。 私がDeNAという会社に所属していた頃は、主に新規事業を担当することが多く、自動車領域やゲーム事業の新規事業など、広い意味でやりたいことは実現できていました。
そんな環境で数年間働く中で色々考えた結果、自分が一番やりたかったことが“食のイノベーション”ということに気づいたんです。しかし、食品を作るということに関しては当時のDeNAの戦略にはあっていなかったので独立して自分でやろうと思ったのが起業のきっかけですね。
――では、なぜ“食”なのでしょうか?
橋本:私も“食”に関するサービスを作ろうなんて思っていませんでした。新規事業担当だった頃や、会社の立場なく個人としても「大きな社会課題を解決する」ような事業を行いたいと考えていました。
そもそも、「既存事業」だとある程度ビジネスのことを考えないとダメじゃないですか。でも、逆に「新規事業」は社会課題を解決するようなものではないとダメだと考えていたし、その方が自分自身のモチベーションにも繋がったんですよね。
DeNAで様々な新規事業を行う中で、次に新規事業をやるのなら“健康寿命や健康の問題を解決”するような事業をやりたいと思ったんですよ。
だから結果として“食”にたどり着きました。
――ご自身で何かきっかけとなるような出来事があったのでしょうか?
橋本:きっかけとしては2つあります。
小さい頃から周囲の大人から、「橋本くんが大人になったら少子高齢化で、少ない子供達(ぼくら世代)がこれから増える高齢者を支えないといけないから大変だよ」なんて言われてました。でも私自身、そんな問題誰かが解決してくれるだろうって考えていたのですが、現に私が大人になっても少子高齢化問題なんて全然状況が変わっていなかった。
だから、まずはこんな社会でも役に立つ・貢献できるようなサービスを生み出したいと思いました。
もう一つは、社会に出て働く中でどうしても会食や同僚との付き合いで外食が増えたり、一人暮らしで食事管理も難しく、健康診断の結果が徐々に悪くなったんですよね。それで自分の力で改善しようと試みたのですが、勉強もチャレンジもなかなか続きませんでした。
実際、一人暮らしだとバランスの取れた献立を自炊で作るのも難しく、また健康に関する情報があふれている時代で必要な情報を見極めるのも難しいと実感しました。
この私自身が体験し、実感した「少子高齢化による社会課題」と、「個人の課題」が繋がったときに、毎日食べるもの(麺とかパン)が健康なモノだったら、個人にとっても社会にとっても幸せなんだろうなという想いになったんです。
きっと、日常で何気なく生活をしている中で、“健康を意識しなくても健康でい続けられる世界”があったら皆、幸せになると思うんです。
より“健康を楽しめる”世界を目指して
――完全栄養の主食を展開する上で課題に感じていることはありますか?
橋本:「体にいいから食べよう」って思う人は少ないと思うんです。どちらかというと「美味しいから食べよう」から入る人が多いじゃないですか。または、簡単だから食べてみる、そして結果的に健康的になればラッキー。私としては、味から入る方が多くの人に食べてもらえると考えているんです。
ベースフードは創業時から“完全栄養”という部分だけはかわっていません。また、健康面だけではなく当時から“味のクオリティ”も良くなってきているのも事実です。
だからこそ、より多くの人にベースフードが「簡単で美味しい」ということを知ってもらい、完全栄養食への入り口を広げていくことが課題ですね。
――今後の展望などあれば教えてください。
橋本:ベースフード社のミッションとして、「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」することが、社会課題に通づると考えています。食生活を改善することで、健康寿命をのばし、支える人を増やし、支えられる人を減らしていければと思っています。
また、弊社はメーカーではなく、サービス提供を行う会社なのでWeb上で商品を購入して自宅に届くまでのユーザーエクスペリエンス(サービスの使いやすさ、味などのクオリティ向上)を良くすることでベースフードより多くの人に届けたいです。
わざわざ、お店に行かなくても定期的に届いて便利、普通のお店にある食品よりも美味しい、そして健康になるというようにシンプルに消費者の満足度をあげていきたいです。
もちろん、新商品も開発していきたいと考えています。パンや麺だけが主食ではないので、バリエーションも増えていけばよりユーザーが“健康を楽しめる”ような世界になると思っています。
――ありがとうございました。
なお、ベースフードは5月27日に約4億円の資金調達をしている。ECに強みを持った楽天株式会社やXTech Ventures株式会社、グローバルブレイン株式会社などをパートナーを組むことでより多くの注目を集めた。
世界初の“完全栄養の主食”が当たり前になる世界は近いのかもしれない。
取材・文:國見泰洋